第41話 【イザベル視点】街、冒険者ギルド

【イザベル視点】


馬車に乗って森を抜けた。


途中、魔獣が何回か襲ってきたがどれも小物。

兎、猪。

食用の肉だ。


ルーカスからもらった剣の切れ味を試すにはうってつけだった。

魔力を入れるとうっすらと紫に光る。


猪を切る。

敢えて頭を正面からかち割ってみる。

抵抗なく真っ二つになった。


これはすごい!

前使っていたトカゲの剣もすごい切れ味だったが、それ以上。

前の剣は魔力を入れるときに少し抵抗があったがコレは素直に反応してくれる。


大満足!

帰郷するときはルーカスにお土産を買ってあげよう。

何が良いだろうか?

…分からない。

その時に考えよう。



森を抜け、2日程度。

隣村に着く。

ノースフィールドヒルと言うらしい。

小さな村だ。


村の中心にある村長の家。

それと商人のおっさんが行った商売相手の家だけが不思議と他の家よりも大きい。

裕福なのだろう。

何でかは分からない。



この村には冒険者ギルドはない。

私は商人のおっさんに旅に必要な物をもらい、次へと旅立つ。

次は街になるらしい。


普通に道を歩いていけば5日程度。


しかしこの辺の草原には本当に雑魚しかいない。

つまらない。


スライム。

ゴブリン。

コボルト。

弱すぎる。

そんなのに構っている意味はない。


5日は長い、面倒だ。

一人なので夜も警戒しないといけない。


ならば走って時間を短くした方が良いだろう。


走る。

途中魔物を見つけるが、無視。

構っている暇はない。

たまに道の真ん中で邪魔をするのもいる。

蹴り飛ばしておいた。


翌朝には街に到着した。

程よい疲労感。

少し汗をかいたので着替えをしたい。



街の名前はザンピリエというらしい。


周囲を壁で囲まれているが森の村に比べると貧弱。

しかしずいぶん大きい。

人の気配がウゾウゾしている。

だいぶいるようだ。


ここには冒険者ギルドがあるとのこと。

ギルドで冒険者登録することをパパに教えてもらった。


街への入り口で兵隊に止められる。


「お嬢さん、身分証はあるかい?」


「…ない。冒険者になりに来た」


「ああ、冒険者志望か。近くの村からかな?」


「…あっちの森の中の村」

「森の! 本当か!」


兵士が大げさに驚く。

五月蠅いな。


「…そう」


口を大きく開けて間抜けな顔だ。


「ちょ、ちょっと待って! 冒険者ギルドへ行くんだよな!」


「そう…『常緑の猪』に会う」


パパからまずは「常緑の猪」というパーティに会えと言われている。

村出身の冒険者で頼るのがよいらしい。


「『常緑の猪』さんは昨日から依頼で空けてるから…ちょっと待って!」


兵士はもう一人の若い兵士に話しかける。


「おい! 俺はちょっとこの子をギルドへ連れていくから、ここは任せた」

「えー、先輩。自分一人ですか? 何です、この子?」

「いいから! 後で説明してやる。っていうか、お前勉強不足な!」

「えー、自分大人っすよ。勉強は子供がするもんす」

「バカか? 大人になってもずっと勉強は必要なんだよ! 続くんだよ!」



…なんかゴタゴタしていた。

そのあと冒険者ギルドに連れて行ってもらった。


レンガ造りの建物。

カウンターと掲示板。

掲示板には冒険者らしき人たち。

弱い…

そしてちょっと臭い…


兵士のおっちゃんはカウンターの女の人と話している。



「お嬢ちゃん、どうした? こんなところで」


おじさんに話掛けられる。

…ふむ。

剣士。

この中ではできるほう。


「…冒険者になりに来た」


私が答えると他の冒険者たちが笑う。


「お嬢ちゃん、そりゃあ…やめとけ、無理無理!」

「お花でも積んでた方がいいんじゃねえか」

「俺が剣の振り方教えてやろうか? 手取り足取り」



こういう時は身体強化をしてやるとよいらしい。

父さんが言っていた。


冒険者数人が怯える?

このくらいの身体強化で?

だらしがないなあ。



「嬢ちゃん、あまり冒険者をイジメてくれるな」


野太い声がカウンターの横の階段から聞こえる。

筋肉質のおっちゃんが下りてきた。

ああ。

村の狩人と同程度の強さかな。


「おい! てめえら! この子は森から来たんだ。てめえらでは相手にならねぇ! 怪我したくなければ借りてきた猫のように静かにしてろ!」


私は猫が好き。

汚いおじさんたちを可愛い猫に例えのはやめてほしい。


厳ついおじさんと一緒に2階の部屋に行った。

このおじさんはランドンさんと言って冒険者ギルドのマスター。

村出身。

元Aランク冒険者。

とのこと。


「で、嬢ちゃんは、農家のウィリアム・ブラウンの娘ってことでいいんだな?」


「…そう」


おじさんは頭をガシガシ掻く。


「あー、確かにそろそろあいつの子供が出てくる頃か…他にいねぇだろうな?」


「…子供? 弟がいる」


「そいつも冒険者志望か?」


「…ルーは農家を継ぐ」


「おう、そいつは良かった!」


ルーカスも冒険者になれば良いと思う。

剣の腕も魔法の腕も良い。

だけどそうなると農家を継ぐのがいない。

難しい…



「おい、マリー」


受付の女性マリーさんが入ってくる。


「この嬢ちゃんをDランクで冒険者登録しとけ!」


「え、いきなりDですか? 規則ではFから何ですが」


「バカ言えお前。こいつをFにしてゴブリンとチマチマってか? もっとデカイのとやってもらわねぇともったいねぇだろが!」


うん。

私もゴブリン程度だと面白くない。

もっと大きなやつがいい。


「しかし、決まりは守らないと! 他の方に示しがつきません!」


マリーさんも中々強気。

うん。

頼りになる女性だ。

女は気が強くなくちゃダメだ。

母さんからの教えだ。


「それに本当にこの子にDランクの実力があるんですか?」


おじさんがニヤリと笑う。

可愛くない…

あまり見たい顔ではない…

気持ち悪い。


「おうよ。じゃ、じっくり見たらいいぜ。試験場へ行こうか!」



ギルドの裏庭。

試験場らしい。

ここで実力を判断する。

ちょっと楽しくなってきた。



ちょうど他の新人の試験をしていた。

同い年くらいの少年と少女。


少年が藁束に斬りつける。

遅い。

弱い。

動きが汚い。

全然駄目だ。

当然、束は切れない。

半分くらいのところまでだ。


少女は木の的に向かって魔法を撃つ。

火の矢ってやつだ。

ママとルーと比べるとずいぶん小さいし遅い。

10分の1くらい?

もっと弱いか。

一応、木の的を壊すことはできた。


あれは弱すぎる…


「終了だ。今回はギリギリ合格だ。よかったな」


冒険者を引退したであろうおっさん試験管が合格を出す。

少年たちは喜んでいる。


大丈夫だろうか。

あの実力で冒険者として生活できるのだろうか?

これから強くなるのだろうか?



「おう。空いたな」


「…普通の剣を貸して。これだと強すぎる」


マスターのおじさんが私の剣を見る。


「トカゲ…か。いや、何か違うか…見てみたいが…今回は嬢ちゃんの技量を見るのが目的だからな」


普通の鉄の剣を借りる。


身体強化を使った方が良いか?

実力をみるのだから少しは力を出さないといけない。


鉄の剣は魔力が通りにくい。

やはりルーの剣が使いやすい。


藁束に近づき。

斬る。

4連。


…こんなものか。


「…うそ。速すぎる」

「ブラウンは身体強化派だからな。しっかり受け継いでやがる!」


受付嬢が口を大きく開けて驚いている。

マスターのおじさんは満足そう。

先ほど冒険者に合格した少年少女は震えていた。


「ま、トカゲを狩れるんじゃ、戦闘力だけならAクラスだぜ!」


マスターはガハガハ下品に笑った。

ルーもおじさんになったらこうなるのだろうか…

いやもっと上品なおじさんになると思う。

上品に静かに魔獣を狩るだろう。


試験官との手合わせをやることもあるらしいが試験管の方から辞退された。

ちょっと残念。



受付で冒険者カードをもらう。

これが身分証になるらしい。

無くしたら大変とのこと。

このカード魔道具でちょっと値段がする。

若い冒険者は出世払いという永久貸出らしい。

私はお金を持っていたので払わされた。

ちょっと理不尽に思う。



エリカさんの話を思い出した。


王都のギルドに行くと「ステータス」を確認できるらしい。

体力とか力が数字で分かる。

その数が1000あたりがSランクあたり。

平均が1000で普通もっとトンガッタ値でないといけないと言われた。

平均が1000ではSになれないらしい。

よく分からない。

私の数は「もうちょっとかな」と言われた。

数は教えてもらえなかった。


数字は数字で実力そのものではない。

技量も経験もある。

当たり前だ。

だけど私はSになる可能性を持っている。

そういうことらしい。


数字にふりまわされずに努力する。

そう思う。



これで無事に冒険者になった。

ランクはD。

まだ始まり。

Sまではまだ遠い。

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