第39話 12歳、移動魔法を覚えたので隣村を見た

瞬間移動、または同じ世界内での転移魔法というのはとても便利だと思う。

漫画『願いの宝玉』でも主人公が途中で瞬間移動を覚えた。

…あれは、ありか? って思ったけど。

アニメで瞬間移動が使えるとチートくさい。


それに比べ、RPGでは基本、移動系の魔法が無いと困る。

それを覚えるまでと後では、移動の労力が段違いだ。

マップが広いので無いとやってられない。

移動系魔法はあるが基本。


異世界転生・召喚ものだとそのスキルを持っている主人公の話もある。

強力なものだと元の世界にまで移動できたりする。

まあチートだ。



ということで、転移の魔法を積極的に覚えたいと思う。


錬金術の工房までの移動は、転移の魔法だ。

つまり日常的に使っていることになる。


そして転移の魔法は闇の精霊が詳しいとのこと。


なのだが…

闇の精霊とあまり一緒にいると、光の精霊の機嫌が悪くなる…


今回も光の精霊から移動系の魔法があるとの提案があった。


「移動と言えば光ではないか。何故、我を頼らない!」


「いや…転移と、光での移動ってちょっと違うような…」


「高速で移動できるのならば、結果は同じではないか!」


光の移動魔法は視界の定めた位置に光速で移動するというもの。

闇の転移魔法は記憶にある位置に空間を繋げて移動するというもの。


用途が全然違う。


しかし、光の移動魔法は戦闘に使えるのではないかと考え、ここは素直に教えてもらうことにする。



ちなみに光属性での移動速度強化と比べて、だいぶ難易度は高い。

効果は上位互換程度な気もするが、難易度の高さと魔力消費量から、ぼったくりな気もする…


それでも、数日掛けて魔法陣を覚えた。

エルミリーの機嫌もとれるし、覚えて損するものでもない。



そして本日、森で試しに使ってみることにした。


「では早速やってみようではないか!」


光の精霊・エルミリーは上機嫌だ。

僕が、闇の転移魔術よりに先に光の魔法を覚えたことがうれしかったらしい。


まずは魔法陣を展開、移動先を確定。

そして、魔法を発動!

一瞬、景色が高速で流れ、気づいたときには目標の位置に移動完了していた。

いや、ちょっとずれているかも…


「海賊王!」の「黄色いリスザル」の能力な感じだ。

鏡で反射とかするのだろか?



「どうだ、凄いだろう!」


凄いことは凄いと思う。

ただ、やはり光の魔法は発動までの時間がかかる。

光魔法の特性か、僕の熟練度不足か。


このままでは戦闘で使用できないかも?

…最初の一手なら使えるかもしれない。

距離がある状態から、一気に間合いを詰める。

アタッカー職なら有効。

ただ、僕は魔法がメインなので使いどころが少ないかもしれない。


もしくは退却時に使用できるか?

退却って、相手が格上で勝てない場合に行うもの。

だけど相手の方が実力が上だから、逃げるのは非常に大変だ。

逃げ切れる確率は低いと思う。

しかし、こちらの速度が相手より圧倒的に上なら問題はない。


森の探索がとても安全になるだろう。

木が邪魔か?


ふーむ…


そうだ!

上空に一度飛んで、空を移動すればよいのではないだろうか?

どこかでそんなことをしている話のがなかったか?



まずは発動時間を短縮するために熟練度を上げる。

上空から落ちる間に次の魔法を発動する必要があるためだ。


これに2日。

ついでに到着点の精度も向上した。



さて、実験だ。


森に入り、上空を見上げる。


移動魔法を発動し、上空に移動する。

森の木々より上空だ。

森の木々は相当の大きさのため、かなりの高度だ。


若干、高所恐怖症なんだけど…

…慣れないといけないなあ。


恐怖を抑えつつ、次の魔法を発動する。

魔法発動までの時間の落下を考えて、ちょっとだけ上方だ。

上空は視界を遮るものが無いため、一度の魔法でかなりの距離を移動できる。

1キロメートル程度だろうか。

見える範囲はもっとあるのだけれど、僕の熟練度では有効範囲がその程度なのだと思う。


それを繰り返して移動する。



おお!

あれが森の終わりか。

エレノアさんを助けたところから少し行ったところ。

森が途切れたところで、いったん着陸する。


ここから馬車で2日程度で隣村らしい。

とりあえずそこまで行ってみよう。


少し進むと、魔物らしきものを発見する。

ちょっと手前に着陸する。


人間より小さい体、1メートルくらいか、緑色の体、醜い顔。

ぼろぼろの皮の鎧を着こみ、粗末なナイフを持っている。

これはたぶんRPGの定番のゴブリンではないだろうか?

それが3体。


しかし…

森の魔獣と比べて魔力量が低い。

というかほぼ魔力が無い。

これでどうやって身体強化するのだろうか?

素の筋力が人間以上とか?


とりあえず、風の矢で攻撃してみる。

…プチっと、1体撃破。


それでゴブリンはこちらに気づく。

が、反応が鈍い。


ならばと、ゴブリン1体に近づき、剣で切る。

柔らかい。

やはり身体強化されていない。


残り1体は、仲間が簡単に殺されたのを見て、逃走を計る。


風の矢で倒した。



さすがにゴブリンは弱い。

しかし、弱すぎるような気がする。

森のネズミよりも圧倒的に弱いと思う。


たぶん、村の子供でも圧勝だぞ…


村の脅威になりえない。

魔物として成立していないだろう。

バランスがブレークされている。

可愛そうな雑魚役か…



死体を残していると何かしらの悪影響があるかもしれないので、火魔法で焼いておく。

森の魔獣なら食べられるので、マジックバッグ行きなのだが、ゴブリンは食べる気にならない。

そういえば、食べるためでない殺しっていうのは初めてか?

エレノアさんを助けたときも目的は人助けだったが、狼はちゃんといただきました。

残念ながらあれはそれほど美味しいものではなかった。

毛皮は使えそうだ。



隣村が見える位置に到着。

遠巻きに眺める。


木で簡単に柵を作って、その中に家が並んでおり、柵の外側は畑が並んでいる。

数人の村人が農業に精を出している。

同じ職業ということで親近感が沸く。

細い体に日焼けした顔。

衣服は粗末。

生活は厳しそうだ…


村の中から小さい子供が出てきて、作業中の父親を呼ぶ。

父は作業の手を止め、手ぬぐいで汗を拭い、子供にこたえる。

子供は嬉しそうに頷き、村の中に戻っていった。

父はそれを見届けて、また農作業に戻る。



…さて、そろそろ森の村に帰ろうか。

帰りも行きと同様に光の移動魔法の連発だ。

やはり、闇の転移魔法があると便利だと思う。



ここから闇の転移魔法を習得するのに1年程度かかることになる。

絵里香さんによると、かなり高難易度の魔法で、使い手を見たことはないらしい。

そうすると、錬金術の工房への転移魔法を作った、前の主は相当の使い手だったと思われる。

どんな人だったのだろうか?

それほどの人物なら歴史に残っていてもおかしくないと思うのだけれど、この村には情報がなかった。

そういえば、セントウレアの件も進んでいない。


僕の実力はまだまだだ。

頑張ろう。

まあ、できる範囲でね。

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