第37話 【エレノア視点】Sランクですか?
【エレノア視点】
エリカさんの家は朝が早い。
というか、村人全体が早起きかもしれない。
前が娼館だったので、そこから全然違う。
朝早くから起きる生活で、ちょっと健康になったような気がする。
ご飯もちゃんと食べられているし。
私が起きると、エリカさんも起きていて、朝食の用意をしている。
急いで顔を洗って、エリカさんを手伝う。
この村では火も水も魔法で出す。
凄いことに簡単な魔法なら村人ほぼ全員が使える。
ありえない…
さすがは「最果ての村」。
この「最果ての村」について、やっぱり冒険者のお客様に聞いたことがある。
曰く。
人外の鬼が住む村だとか、戦闘狂の部族が住んでいてよそ者が入ると食べられちゃうとか、住人は死霊だとか……
他のお客さんに聞いたら、そんな村あるはずないと笑われてしまった。
あの「絶望の森」に住んでいる人間なんていない。
そもそも森に入って帰ってきた人間がいないんだから、信憑性はない。
と。
こうしてちゃんと村があったよ、絶望の森に…
「あの、エリカさん、聞いていいですか?」
エリカさんはスープを作りながら、ベーコン、卵を焼いている。
私はテーブルにお皿を並べて、パンを用意する。
パンは焼き立て、ほんのりあったかくて、ふわふわだ。
「うん、何?」
「この村って、本当にあの森の中なんですよね?」
「そうよ。森の入り口から3日くらいのところかな」
「えっと…普通に生活できるんですね。危なくないですか?」
「ああ、それね。大丈夫よ。みんな強いから!」
エリカさんがカラカラと笑う。
みんなってどこまで?
普通の村人?
「強いって、村人が、ですか?」
「そう。村人のほとんどが戦う力あるわよ。学校で戦闘訓練もしているし」
「学校で習ったからって、この森じゃ…」
「大丈夫! だって、最低、冒険者のBランクの上位くらいの力はあるし、狩人の方たちは軽くAランクよ」
「え…Aランクですか?」
村人全員Bランク以上って…おかしい…
いや、ここで暮らすにはそれくらいの力は必要だと思うけれど…
「これ秘密なんだけどね」
エリカさんがいたずらっ子のような顔をする。
「何人かはSランク相当よ」
「嘘でしょ、Sランク!?」
あまりの驚きにタメ口になってしまった…
「ほんと、ほんと。強いわよー。誰かは教えないけどね。知ってのお楽しみ!」
Sランクといったら、世界クラスだ。
小さい国なら1人もいない国もある。
というか、Sクラスともなれば世界を股にかけて活動するため、一か所にとどまる人は少ない。
そのランクが一か所に数人もいるの!?
あ、もしかして…
「ルーカス君も?」
エリカさんはちょっと考える。
「そうね…たぶんSランクかな」
「? ちょっと判断難しいですか」
「彼、魔法はまだ上級を使えないから微妙なのね。だけど、魔法の威力は圧倒的。剣は私には分からないけれど、相当の腕前。だけど、体はまだ子供だから、もうちょっと。総合的にはSランク入りたてって感じかな」
「じゃあ、数年後、大人になったら確実にSランクってことですか?」
「もう2年もすれば、村で上位になるんじゃない。最強は、うーん…無理か?」
2年後って彼はまだ14歳じゃない。
天才?
だとすると…
「もしかして、私たちの怪我と病気を治したのって…彼ですか?」
怪我だけではなく、病気も治っていた。
私が罹ったこの病気は娼婦が罹る病気で、悪化すると命を落とす。
高級な娼婦は回復魔法使いに定期的に魔法を掛けてもらって、予防をしている。
もし病気が発症した場合には、回復魔法による治療になるんだけど、ひと月程度、毎日魔法をかけてもらう必要がある。
どちらにしろかなりのお金が必要になる。
普通の娼婦には払えないお金だ。
私たちは清潔にするくらいで、あとは病気にならないように祈るだけ…
発祥したら死を待つだけ…
もし、この病気を一日で治療する魔法使いだとしたら、それだけでいい暮らしができるくらいに稼げるだろう。
本当に一日で病気を治せるとしたら、それは聖女様クラスかな?
聖女様に会ったことはないけれど、噂はお客さんからよく聞いている。
一度の魔法で、病気を完治する、失った足が元通りになったとか。
それは奇跡と呼ばれている。
一般人がそれを施される機会はほぼない…
「そうだけど、公言しちゃダメよ。彼はこの村でも異質の才能の持ち主だから。それとね…」
料理は人数分出来上がり、テーブルのセッティングも完了。
エリカさんは紅茶を淹れる。
「彼は自分が普通の村人だと思っているの。所詮この村で最強になっても、外の世界では通用しないって、普通の村人だからってね」
「え? この村で最強なら、外の世界でも上から数えた方が早いくらいなのでは?…」
「そうね。彼はこの村から出たことないし、この村が普通の村だと思っているから。いえ、思おうとしているのかもしれないかな」
「この村が普通の村ですか…」
「だからね。あなたも彼にこの村の異常性とか話しちゃだめよ」
「…それで、いいんですか?」
認識が間違っているのなら、正してあげた方が彼のためになるんじゃないだろうか。
「いいんじゃないかな。その方が面白いじゃない。『無自覚で最強』なんて『なろう系』じゃない!」
なろう系って何だろう?
時々エリカさんは知らない単語を使う。
それはルーカス君もか。
二人で二人しか知らない話題で会話してるときがある…
ちょっとだけ寂しいな…
「ただいまー」
ルーカス君が帰ってくる。
彼は実家の畑で農作業をしている。
実家を離れたけれど、まだ畑もないので、実家で一緒に農作業とのことだ。
いずれ自分の畑を持ちたいらしい。
それにしても、朝食を食べられるなんて…
この村では普通のことらしいけど。
普通、昼夕の1日2食。
街でも3食食べられるのは貴族か大きな商人くらいだと思う。
私の生まれた村ではもちろん2食。
作物の出来が悪ければ1食…
食べられないときもたまに…
さあ、食べよう!
野菜は新鮮で味が濃い。
卵なんて病気をしたときに滋養剤として食べるのがやっとで、毎日食べれるものじゃない。
黄身がトロッと半熟。
それをベーコンと絡めて食べる。
パンはちぎってスープに浸けて食べてもよい。
これがまた美味しい。
お皿に残った黄身をぬぐって食べるのもいいよね。
お皿が綺麗になって、洗うのが楽になるし。
ちなみに夕食になるともっと豪華になって、お肉が沢山……
…はしたない。
お腹いっぱいご飯が食べられるだけでも感謝しないといけない。
窓から朝のさわやかな風が吹き込んでくる。
この村はゆっくりと時間が流れている。
ここはとてもいい村だと思う。
…ねえ、サラ。
私は大丈夫。
私、この村で生きていこうと思う。
たぶん色々なことがあるだろうけど、頑張って幸せにになるよ。
だから、見守っていてね。
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