第29話 12歳、ある日、森の中

本日は森に入っている。

父さんと、狩人のアランさんとの3人だ。


いつもは一人で森の浅い所に入っている。

攻撃魔法の実践とか、発動確認のためだ。

攻撃魔法を覚えたとして、簡単に村で使えない。

初級の魔法ならまだしも、中級以上は破壊力が高すぎる。


ちなみに上級魔法は広範囲殲滅系の魔法が多いため、森でも使うのもためらわれる。

どこで試し打ちをすればよいのだろうか…

風の上級魔法である、竜巻の魔法はもう発動できるじゃないかと思っているのだけど、試し撃ちの場所がない…

どこか砂漠あたりでないと難しいだろう。


村に住んだままでは、転移の魔法でも覚えないとこれ以上の魔法を覚えるのは辛いかもしれない。

転移の魔法は存在する。

だが、かなり難易度が高いとのこと。

属性は空間になる。

これは闇属性の派生に属するらしい。

闇属性はすべての大元と言うだけあって、良く分からない魔法はその属性が多い。

結構、この世界のシステムは適当だ…


闇の精霊曰く、魔力は足りているのだけれど、まだ魔法制御が足りないらしい。

そして、空間を飛び越えるイメージ。

これが難しい…


現在、闇の精霊を師匠に訓練中。

たぶん、空間属性系の魔法は強力だと思う。

そして、もしかしてこの属性の向こうに、次元系の魔法があるかもしれない。

前世の世界にも移動できたりして…

まあ、今はあの世界に戻りたいとは思っていないんだけどね。

ちょっとだけ懐かしいじゃないか。

もしかしたら漫画の続きを読めるかもしれない。

ちょっと楽しいかもしれない。



今日は久しぶりにチームでの森だ。

目的は大物狙いと僕の実力確認だ。


森は村から離れ、西に、山脈に近づくほど大物がいる。

僕はまだ、猪とか兎とかしか相手にしていない。

大物相手にどのようなことができるのか?

それも試してみたい。


実力確認の方について。

僕は単独で森に入ることが多いため、狩人の皆さんには実力が分からない。

父さんからのOKは出ているけど、たまには確認しておこうって軽い感じのもの。



3人で森を進む。

途中、鼠と兎と遭遇するが、これは3人であっさり狩る。

このレベルの魔獣ではもう楽勝になっている。

僕もずいぶん慣れたもんだ。


剣の一撃で首を落とす。

なるべく食べるところを残すため。

ちなみに鼠の肉は味が落ちる。

大体がスープとして食べられる。

香草をいっぱい入れて、臭みを消す。

…ちょっと他の魔獣と比べるとかわいそうな…

けして不味くはないが、味が落ちる…


アランさんは片手剣で、父さんは相変わらず鍬…

僕は姉から譲り受けたトカゲの剣を使用している。

トカゲの剣は切れ味、耐久性を強化している。

姉さんに送った剣の仕様と同じ。

もう少し改良ができないかな?


父さんの鍬と鎌も強化したらどうだろうか?

戦闘仕様。

喜んで農作業に使いそう…



更に森を進む。

やっと猪と遭遇!


「ルー坊、やってみろ」


アランさんが促す。

2人は一歩下がり、観戦。


まあ、猪はいつも狩っている。

特に問題ない。


うん。

まだ猪とは距離があるし、たまには魔法で仕留めてみよう。


風の槍を撃つ。

槍は猪の頭に命中し、穴を穿つ。

これで終わりだ。

猪は直線的な動きしかしない。

直線的に突撃をするので急な方向転換も出来ず、魔法を回避することはできない。

魔法で危なげなく倒せる。

まあ、猪の頭に穴をあけられる威力があればだが。

しかし、これにはちょっとしたコツが必要で、魔力を込めすぎると猪の体まで魔法が貫通し、食べるところが減ってしまう。

猪は美味しいので、なるべく肉を多く残したい。


「ふむ。もう猪じゃあ相手にならなんか。さすがマイラさんの息子ってことか」


アランさんは満足そうにうなづいている。


「では次は剣技を見せてもらおうか」


やっぱり剣も見せないとダメか…

魔法でアッサリでは狩人には認めてもらえないか。

狩人になりたいわけじゃないけど、学校の剣の先生、アランさんに認めてもらいたい。

もう、一人前の狩人として実力があるんだと。

成長の証明だ。



次の登場したのは牡鹿だった。

こいつは横の動きも早く、単純に魔法を撃っただけでは避けられる。

しかし、攻撃は単純で角による突撃のみ。

そのため、攻撃に合わせて魔法を当てれば簡単。

猪と同じなんだが…

今回は剣で対応する。


父さんだとパワーファイトで瞬殺する。

突撃を受け止めて、角をガッチリつかみ、そのまま地面に叩きつけ、首を狩る。

僕だと体格が足りない。

少し手数が必要。


鹿に接近する。

鹿は警戒していたが、一鳴き、僕に突撃する。

それを横に避ける。

避けざまに首を刈れればいいんだけど…

角が邪魔!

ということで、角を落とす。

トカゲの剣の切れ味やよし!


この角、錬金術に使える。

後で拾っておこう。


鹿はすぐに横っ飛び、僕から距離をとる。

しかし、逃走はしない。

その眼には怒りが浮かんでいる。

実力差があるのが分からないらしい。

逃げればよいと思うのだけど…

この森の魔獣は好戦的だ。

少し程度の不利なら構わず突っ込んでくる。

こちらとしては楽でいいんだけど、もう少し考えたらとアドバイスしたい。


鹿は再度突撃攻撃。

角の無い側に躱す。

躱しざま剣を一閃。

鹿の首を落とす。

頭を落とされた鹿は数歩進んで、地面に倒れた…

まあまあかな?


「その年齢でずいぶん慣れてやがる。まあ、ウィリアムの息子だよな」


アランさん、今度は苦笑している。


「ルーカス、合格だ。お前は十分森でやれる」


よし!

アランさんのお墨付きをもらった。


今後はもう少し森での活動範囲を広げても良いかもしれない。

色々な種類の魔獣と戦い、経験を積んでいこう。

将来、きっと、色々なことが起こる。

その準備だけはしておこうと思う。

…僕から問題に積極的にかかわらないことが重要だけど。



鹿をマジックバッグに格納して帰宅する。


「イザベル嬢ちゃんがいなくなっちまって、どうすっかって思ってけど、ルーカス坊がこんなに育っていたとは嬉しい誤算だな。イザベル嬢ちゃんは期待の星だったかんな。代わりの戦力なんて難しいと思っとったんだがね」


「ブライアンさんだってずいぶん強いと思いますよ」


「グレッグのとこの坊主だな。もう少し経験すればな。今はまだアメエよ」


ブライアンさんは姉より2歳年上の男性。

狩人のグレッグさんの息子。

槍使い。

学校を卒業し、家業の狩人を継いだ。

かなり強いと思うけどね。

槍相手に剣だとやりにくいんだよね。

攻撃範囲が槍の方が広い。

中に潜り込めればいいんだけれど、それが難しい。

魔法が使えればそんなに苦戦せずに戦えると思うけど…


姉は槍の突きを簡単にはじいて懐に飛び込む。

戦闘センスが良いのだと思う。

あとは経験か。

僕も少し魔獣相手に修行をした方が良いのかもしれない。

いつも魔法で倒してばかりだったし…



異世界では魔物関連でイベントが多い。

もしかしたら、魔獣が氾濫、モンスター・スタンピードってお決まりのが起こったり、魔族との戦争に巻き込まれたり、ドラゴンもしくは天使が襲ってきたり、さらに別の異世界への召喚されるってのもあるか…

そんなのを何とか切り抜ける力があればよいと思う。

勝つ必要はなくて生き残れればいい。



その後、大物を求めて森を進んだが、発見できず…


諦めた帰りに遭遇するのもまたお約束か…

前方に大きな魔獣を発見する。

あれは…


「…熊だ。やってみるか?…」


…森の熊さん。

鹿、猪よりも強力な魔獣だ。

いつもなら父さんと僕で対処する。

狩人の人たちでも安全のためにチームで対処するレベル。

もちろん僕は一人で戦ったことはない。

しかし、森で活動するのなら一人で戦えないといけない。

一人で森に入ることが多いからね…


今日なら危なくなったら父さんとアランさんが助けてくれる。

試すには良い機会だ。


父さんの問いかけに頷き、熊の前に出る。


熊は体長3.5メートルほど。

いつものヤツよりちょっと大きめか。

体毛も少し銀がかっている。

長く生きた個体か、もしくは変異種種か…


熊の攻撃パターンは、爪、牙、体当たり、それに風魔法の風の爪。

直接攻撃は僕の身体強化でも回避可能。

受け止めるのはちょっと無理。

一番厄介なのは魔法。

熊が腕を振る動作で発動する。

5本の風の爪が発生する。

飛距離は20メートルほど。

威力は森の木を倒すほど。

僕の身体強化の防御力では切り裂かれるだろう…



さて…

まずは先制攻撃。

こちらの攻撃で相手に反撃する隙を与えずに勝ち切れば最もリスクが少ない。

もし魔法発動で隙ができるのであればソレはできないが、僕の魔法は他の人より発動が早いらしい。

戦闘でも使用できる。

光魔法で攻撃したなら飛行速度、攻撃力で圧倒できそうなのだけど、光魔法はまずい。

聖者認定されかねない。

それにまだちょっとだけタメが必要。

もう少し練習が必要だ。


なので、熊に向けて風の槍を放つ。

熊は風魔法を使うけど、風魔法に耐性があるわけじゃない。

熊は攻撃の速度は早いが、攻撃を躱す速度はそれほどでもない。

熊は体をずらし、肩で魔法を受ける。

…あまりダメージはないか?

ちょと肉を抉ったくらいだ。


それでも痛かったようで、怒らせてしまったようだ。

吠えながら、突進してきた。


土の壁を作り進路を塞ぐ。

熊は壁にそのまま突っ込む。

壁は崩壊したが、熊の勢いも止まる。

その隙にもう一度風の槍!


熊は回避行動をとらない。

ダメージ覚悟で魔力を溜めている。

左の腕でガードされる。

肉を抉るが腕を落とすまではできず。

戦いなれているな…


熊の反対の手に魔力が集まる。

風の爪か!?


5本の風の爪が僕に向かってくる!


風の防壁を発動して防御!

…あの威力は防壁で受けきれない。

攻撃の方向を逸らすように防壁を設置する。


よし!

攻撃は逸れ、後ろの巨木を切断した。

威力が高い。

やはり、まともに受けたら真っ二つになる…


熊は再度魔力を集中する。

ヤツの魔法は若干のタメを要する。

あれを撃たせないようにしないとダメだ…


奥の手を使う!

闇系の魔法、精神攻撃の矢を発動する。


矢はヤツに直撃!

熊の魔法は発動する前に消える。

発動失敗だ。

精神系の攻撃は相手の魔法を妨害するのによい。


威力の高い精神攻撃はさらに凶悪なんだ。

たぶんヤツは今何をしているのかも分からなくなっているはず。

一時的に思考停止に陥っている。

魔法抵抗が高い熊のこと、すぐに回復するだろう。

しかし、戦いにおいて一瞬の思考停止は致命傷となる。


魔法陣2重風の槍準備する。

2重魔法陣はまだ少しのタメが必要。

しかし、2重にすることで速度・威力ともに大幅に強化される。

熊の硬い防御にも通用するはず。


まだ放心状態の熊に向けて発射!

無印の槍と比べ、大きさは倍! 速度は倍! 魔力密度も高い!

熊の頭に命中!

頭を貫く。

よし!

頭の半分を吹き飛ばした!


これで終わってくれると有難い…


…熊はゆっくりと倒れ、暫く体を痙攣させていたが、やがて動きを止めた。


ふう…

何とかなったか。


やっぱり熊は怖い…

前世、熊は森で一番危険な動物だった。

日本には虎がいないからね。

そういえば、虎と熊どちらが強いのだろうか?

体格差で熊?

しかし、中国の霊獣、四神には熊は入っていない。

むう…



「…うむ。よし」


父さんは熊をマジックバッグに格納するため、死体に向かう。


また熊肉も美味!

脂身は少なく、うま味が強い。

多少の臭みがあるが、この村では魔獣肉の料理が盛んなため、ハーブによる臭い消しの方法が発達している。

それほど気にならない。

今晩は熊鍋だ!


「…ありゃあ…シルバーバックベアか。…単独討伐か、エゲツねぇな…」


アランさんは何かブツブツ呟いている。

シルバーバックとかなんとか。

それはゴリラじゃなかったっけ?



…まあ良し!

こちらに被害なく、狩りに成功した。

次回があれば、もっとリスクなく戦えるようにしたい。


そうだね。

もっと手札(魔法)が必要かな。

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