第27話 12歳、春、涙はなしで
僕は12歳になった。
そして、姉は15歳になった。
この村では15歳が成人だ。
ここからは個人の責任で行動できる。
そう、村から出ることだってできる。
そして姉は村を出ることに決めた。
姉が旅立ちを告げたとき。
父さんは一言「…そうか」と呟いた。
母さんは「そうなるよね。無理は絶対にしないでね」と冒険者になることを認めた。
少し涙ぐんでいたようにも見えた。
さすがに心配なんだよね。
姉は森から出たことはない。
そして、冒険者は危険な職業だ。
もちろん僕も姉を心配している。
しかし言って止める姉ではないし、姉から剣をとったら何が残るんだとも思う。
こうなるだろうという予感はあった。
姉は家業の農業には興味を示さず、剣術を鍛錬していた。
剣だと、狩人になるか、剣術師範になるか、冒険者になるか。
姉にはこの村は狭いかもしれない。
冒険者。
それがふさわしいとも思う。
この村の子供も冒険者を目指す者は多い。
村での閉塞感を嫌ってか、または広い世界を見たいから、あるいは自分の可能性を試すために。
冒険者を選んだ子供たちは、ほとんどが村に帰ってこなかった。
それだけ冒険者が危険な職業ということだろうと思う。
もしくは外の刺激になれて、村を捨てるか…
もちろんこの村に残る子供も沢山いる。
僕もその一人になるだろう。
この村の生活に幸せを感じられるなら、無理して外の世界に出る必要はない。
有名になって、歴史に名を遺すこと、それだけが人生の目標ではないはずだ。
村で農家として懸命に生きる。
家族を持って、死ぬまで生きる。
僕はそれで良いと思う。
昨日、久しぶりに姉と手合わせをした。
やはり姉は強かった。
僕では相手にならない。
防戦一方だった。
以前は早く強かったが、今はウマイも加わっている。
剣の師匠、モンタギューおじいちゃんに相当鍛えられたようだ。
これだけの強さがあれば、冒険者として成功するかな?
もちろん、冒険者としての経験は必要だと思うけど。
いつまでも終わらない手合わせ。
いつもなら早く終われとお願うのだけど、今回だけは姉の姿をしっかりとこの目に焼き付けておこうと思った。
次はいつ会えるか分からないから…
姉の旅立ちの日。
村中が見送りに出ている。
村長、ジェフリー、リネット、剣の師匠、アランさん、等々…
姉は、問題ごとを腕力で片づけるきらいがあるが、だけど村人から愛されている。
言葉数は少ないが、裏表がなく、素直な性格だ。
ついでに美人。
あこがれてた男の子は結構いたみたい。
まあ、姉がそれに気づくことはなかったんだけどね…
さて、今後の旅路。
隣村サウスフィールドヒルに農産物、魔獣の素材を売りに行く馬車に姉は同乗して行く。
そこから一番近い街ザンピリエに向かう。
その後、この国サンバートフォードの首都サンバートフォードに向かうかどうかはその時に決めるとこのこと。
ザンピリエにはこの村出身の人が住んでおり、まずはその人を頼ることになる。
村長さんの従兄らしい。
村長さんに手紙も書いてもらっている。
絵里香さんからはマジックバッグをプレゼントされている。
これがあれば商人として成功できるほどのものらしいけど、姉は商才がないからね。
それと剣で身を立てることを目指しているから、商人はない。
商人の方が冒険者より幾分安全だと思うのだけど。
もう一つ、プレゼント。
これは父さんと僕から。
トカゲの牙から作った新しい剣。
切れ味と強度の魔法強化付きだ。
ちょっとした魔法剣だ。
僕の錬金術の腕はまだまだだけれど、なんとか武具の強化ができるようになって、その成果物となる。
武具の強化は魔石から作った特殊なインクで魔法陣を書くことで行う。
魔石は森の魔獣からとれるので問題ないが、まずこれをインクにするのが難しい。
その習得に3か月。
そこから強化魔法陣の付与にまた3か月。
半年で武器を一つの強化することがやっとできた。
次、一つの剣に二つの魔法陣を刻むのがまた難しい。
それぞれが打ち消し合ったり、効果が混ざって思ったような物にならなかったりする。
そしてそれを「綺麗」に剣に刻むこと、これも重要だ。
美しさというのが、効果の発動率、強度に直結している。
この辺はセンスもあるけど、数をこなすことでもそれなりに上達する。
納得のいく剣が作れたのは、本当に最近、姉の旅立ちにギリギリ間に合った。
「…ルーカス、これ」
姉が剣を見つめている。
「パパがトカゲを狩って、その牙を剣にして、僕が魔法を付与したんだ」
姉が剣に魔力を通す。
剣の刀身はトカゲの牙の色、白色なのだが、魔力を通すと薄く紫に輝く。
「綺麗…」
「切れ味と耐久を強化しているから、今使っている剣よりちょっといいと思うよ」
姉は腰の剣を外し、新しい剣に付け替える。
そして外した剣を僕に渡す。
「…ありがとう。パパ、ルーカス」
姉さんが嬉しそうにしている。
うん、よかった。
母さんから、身の丈に合った仕事を受けるのよとか、詐欺に気を付けるのよとか、変なものは食べちゃだめよとか、注意事項をもらってから…
「行ってきます」
姉は馬車の荷台に乗り込み、村を後にした。
さっぱりとした別れだ。
姉らしい…
姉を乗せた馬車は村を出て、道を進み…やがて木々に隠れて見えなくなった。
姉の歳、15歳まで、僕はあと3年。
そのとき僕はどうなっているだろうか。
気が変わって姉のように冒険者を目指すのだろうか。
あるいは農家として独り立ちできているのだろうか。
旅立ち、人生の一区切り。
でも、まだ人生は続いていく。
ここは通過点。
姉の新しい生活、冒険が幸せなものになることを祈って。
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