第26話 【イザベル・ブラウン(ルーカスの姉)視点】家族と剣

私はイザベル・ブラウン。

剣士。

15歳。

女性。



私には家族がいる。

パパ。

ママ。

弟だ。



パパは農家だ。

だけど強い。

たぶん村で一番強いと思う。

弟ルーカスの剣の師匠であるモンタギューさんも強いけど。

高齢なので今はパパが一番だろう。

剣の技術ではモンタギューさんが上だろうけど何より身体強化がすごい。

うちの家系は身体強化が得意ということは聞いたことがある。

その中でもパパは一番。

天才だという。


納得いかかないのは武器だ。

鍬と鎌を使う。

農家の装備品は鍬と鎌とのこと。

ちょっとバカだと思う。

剣か槍を使って入ればもっと強いと思う。


そしてパパの作る野菜は美味しい。

だけど私はお肉の方が好きだ。



ママは農家の嫁。

そして魔法使い。

村有数の腕前だ。

たぶんママの師匠のエリカおばあちゃんの次だろう。

農家の嫁にはもったいない気がする。

ママは優しいけど家の一番の権力者だ。

家をまとめているのはママだ。

私も逆らえない。

そんなことをしたらどうなるか…


そして料理がおいしい。



私はこの両親の娘。

ということはもちろん高い戦闘力を持つ。

パパの身体強化とママの高い魔力を受け継いでいる。

残念ながらママの魔法使いとしての才能は薄い。

それでもパパと同じ年齢になったときにはパパを越えて村最強になっている自信はある。

そのための努力はしている。



そして弟のルーカス。

姉としてのひいき目を除いても可愛らしい。

とてもあのパパの息子とは思えない。

ママに似ていると思う。

ズルい。

弟は優しい性格をしている。

そこはちょっと心配事の一つだ。

線が細くガツガツしているところがない。

子供らしくない。

遊んでいるときも一歩引いて冷静に見ている。


姉としてちょっと心配なのでちょくちょく弟とチャンバラで遊んでいた。

子供らしさが出てくればと思った。


その後何故かモンタギューさんの弟子になっていた。

モンタギューさんは元剣聖のおじいちゃんだ。

剣聖とは最強の剣士の称号。

何を気に入られて弟子入りなのかは不明。

おじいちゃんの評価でも剣士としての才能は私の方が上らしい。

なら何故?

ちょっとこれには焦った。

数年後弟は私よりも剣士として上になっているかもしれない。


まあ結局これは大丈夫だった。

時折おじいちゃんに私も教えてもらうことができたのと弟が剣の修行だけに専念しなかったこと。

後者の方が大きいかもしれない。


弟はママの血を強く受け継いでいたらしく魔法の才能があった。

そのためママの師匠エリカおばあちゃんにも弟子入りしている。


またこれが一番大きいと思うけど農業が継ぐことを目標にしている。

パパの作業の手伝いをしている。

息子としては正しいのだと思うけど子供としてはどうなんだろうか。

もっと遊ばないといけないと思う。


農業というのを抜きにしても弟は剣士というよりも魔法使いの方が近いと思う。

それに何か別の能力があるような気もする。


パパも弟が畑を手伝うようになってから野菜の味が良くなったと言っていた。

そういえば弟が魔法で水やりをしているのと見たことがあった。

そんな魔法あったっけ?



村長の息子とその友達が森で行方不明になる事件のときも居場所を見つけたのは弟だった。


あのときはたしかまだ弟は森に入ったこともなかったはず。

しかし正確に居場所を突き止めた。

何かしら能力があるはずだ。

時々私たちが見えないものを見ているようなそんな仕草もする。

不思議な子だ。



成長するにつれその魔力は飛躍的に大きくなっていった。

魔力量だけならたぶんもうママを抜いている。

エリカおばあちゃんに匹敵する。


エリカおばあちゃんは「星降りの魔法使い」と呼ばれた大魔法使いだ。

「星降り」という魔法を使ったのだろう。

あまり想像したくない。

たぶん空から星のような大きな何かが降ってくるのだろう。

そんなことをしたら地上なんて潰れてペタンコになる。


魔法使いは剣士に比べて広範囲の殲滅に向いている。

大魔法使いなど畏怖される存在だ。


その大魔法使いに弟はなる可能性があると思っている。

姉としてはパパと同じような剣士になってほしいと思いもある。

けど魔法の方が適性が高そう。



ということで弟は顔良し将来性良しの優良物件。

変な虫が付かないか心配事の一つ。


村長の娘あたりがどうもちょっかいを出しているよう。

だけど弟としては脈はなさそう。

しかし弟の性格からして女性に押し切られる可能性もある。

要注意だ。



前にパパと弟とトカゲを狩ったこともあった。

あの時は私が役立たずで悔しかった。

私の剣はトカゲの鱗にはじかれてダメージを与えることができなかった。

結局パパが倒した。

けど弟も魔法でダメージを与えていた。

あのとき弟はまだ7歳だった。

攻撃力ではすでに私の上だった…


私だって黙っていない。

更に鍛錬し身体強化と武器強化を向上させた。

去年に一人でトカゲを狩ることにも成功した。

もうあの頃の私じゃない!


ちなみに一人でトカゲを討伐できるとトカゲ由来の武器を贈呈される。

私のは牙で作った片手剣だ。

今までの鋼鉄の剣より軽く強く切れ味も良い。

これは嬉しかった。


嬉しすぎて猪やら鹿やらを狩りまくった。

村の半年分くらいの肉を確保してしまったのはいい思い出だ。

魔獣は狩りすぎてもすぐに繁殖するから問題なしだ。

私は鹿より猪の肉が好きだ。

脂がのっていて甘みがありうまい!



脱線した。

話題を愛する弟に戻そう。


弟の失踪事件というのもあった。

あの時は大変だった…


ある夜に家で弟の部屋で魔法が発動したと思ったら弟が消えていた。

さっきお休みを言ったのにだ。


家族みんな大慌てだ。


パパは村長のところに。

ママはエリカおばあちゃんのところに。

私はママに付いていった。


エリカおばあちゃんの探索魔法でルーカスを探してもらったけれど見つからなかった。

あのエリカおばあちゃんの魔法で見つからない。

そんなことがあるのかと信じられなかった。


エリカおばあちゃんに知っている限りの探索魔法を使ってもらった。

ダメだった。


夜中いっぱい村人総出で捜索したけど見つからなかった。


ママは半狂乱だ。

あれほど取り乱したママを見たのは初めてだった。

その後も見たことない。

私ももう弟に会えないのかと怖くなって泣いた。

こんなに簡単に大切な人が消えるのか。

体が痛いのは耐えられる。

けど心が痛いのはそれ以上に耐えるのは難しいと思った。


夜が明けて空が明るくなったころ弟が消えた時と同じような魔法の魔発動をまた感じた。

村の外だった。


もしかしてと私たちは思いソコに向かった。


すると弟が何事もなかったように立っていた。

弟は生きていた。

本当によかった。

安心して力が抜けた。


次に怒りもわいてきた。

どうして何も言わずにいなくなったのかと。

ママと一緒に怒った。


大切な人を守れるようにもっと強くならないといけないと私はさらに思った。



どうも高名な錬金術師が大昔村に住んでいて後継者に選ばれた弟が研究室に転移させられたらしい。

ほんと人騒がせな錬金術師だ。

死ねばいいのに!

もう死んでいるか。

ザマアみろ!



さて。


弟はトラブル体質らしく時々問題を起こすがこのときが一番心配した。

もうこんな絶望を味わいたくないと思う。



私は強くなるためにどうしたらよいかとずいぶん悩んだ。


剣も鍛えた。

もちろん同世代に敵はいない。

パパにはまだかなわないけれど他の人よりは強くなったと思う。

でもまだ全然足りないものがあるんじゃないか?

もっと強くなれる方法があるんじゃないか?

悩む。



今日は久しぶりにルーカスと剣を交えている。

私が15歳。

ルーカスが12歳。

あのころからずいぶん成長した。

私も大きくなったし弟も大きくなった。

弟は大きくなったのだけれど中性的な美しさがあるように思う。

あれだけ剣の練習をしているのに筋肉ムキムキにならないのはどうしてだろう?

筋肉ムキムキの弟もスラっとした弟もどちらも好きだから良い。


私は全力の身体強化で弟に攻撃する。

しかし弟はそれに付いてくる。

攻撃はあたらない。

反撃するまでの余裕はないようだけれどずいぶん強くなっている。

身体強化も素晴らしい。

強化されて光っている。

武器の強化も十分だ。

私の攻撃を受け止められるほどの強化。


たぶんこの村で弟とまともに戦えるにはパパとモンタギューさんと私だけだろう。

そう剣だけならだ。


弟にはさらに魔法がある。

この剣での高速の戦闘中に魔法が撃てるのかという疑問もあったが弟の魔法の発動はとても早く高速戦闘に組み込むことが可能だ。

とはいえ上級の威力のある魔法は難しいらしい。

だが威力のない魔法でも視界を遮ったり複数の方向から攻撃してみたり厄介だ。


もしかすると魔法ありの戦いだと負けるかもしれない…

試してみたい気もするけど姉の尊厳があるためやらない。

姉は弟よりも強くなくてはいけない。


うん。

これなら大丈夫。

弟は十分に強くなっている。

ちょっと安心した。

私がいなくても問題ないだろう。



明日私はこの村を出る。


そして広い世界を冒険する。

もっと強くなるために。


もっともっと強くなってこの村に戻ってくる。

絶対に。

そう決めた。

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