第25話 7歳、錬金術はじめました

錬金術について。


僕の習い事は多岐にわたる。

農業、剣術、魔法、錬金術…


それに学校もある。

これは主に教える側である。


…うん、なかなか忙しい。

7歳児にこの忙しさはどうだろう?

ブラック・スメルがする…


しかし、レアに大見得を切った手前、錬金術の勉強も努力したい。

幸いにも頭に身体強化を掛けることにより脳も活性化できるらしく、学習効率も上がるようだ。


この状態で本を読んでみたら速読ができた!

前世ではあんなに練習しても全く身につかなかったのに…

異世界ってやつは、まったくもう…



『おかえりなさい。マスター』


レアが迎えてくれる。

ガラスケースから出られないので、出迎えはできないけど。


その表情からは喜んでくれているのかどうか分からない。

ま、いいさ。

喜んでくれていると、僕が思えば、それでいい。


『ただいま、レア』


「ただいま」というのもおかしい気がするけど「おかえり」といわれたらこう返すよね。

なんかちょっと恥ずかしくもある。


『なるほど、彼女がホムンクルス、セントウレアさん、レアさんですわね』


もう一人、本日は闇の精霊アルベルタに付いてきてもらっている。


…どうも最初に拉致されたときも、アルベルタを呼べばここに来られたらしい。

他の精霊はダメみたいだ。

闇だけは特別なのか?

もしくは、ここの錬金術師が闇の精霊を特別視しているのか?

いや…アルベルタの力が強いだけの可能性が高いね。


『こちらの方は?』


レアが精霊を見ている。

え、見えている?


「レア、精霊が見えるの?」


『はい。小さい人間が飛んでいます』


ホムンクルスに精霊使いの才能があるのか、目が人間の目と違うのか…

僕とは違う景色を見ているのかもしれないね。

他の精霊も見えるのか試してみたいが、ここには連れてこられない。

レアが外に出られるようになってからだね。


レアとアルベルタは会話もできるようだ。

よかった。



『マスター、どうして精霊、彼女を?』


「錬金術がね…ちょっと自信がなくて…僕は精霊使いらしいので、彼女の手伝ってもらおうかと。アルベルタはとても優秀なんだよ」


『精霊使い、でもあるのですか?』


「闇の精霊と契約できたので、闇系の魔法が使えるようになったんだよ」


そしてここに連れてこられて、錬金術師にもなろうとしている。


『精霊使いって呼び方はちょっといただけないわね。私たちは使われているのではなくて、契約して力を貸しているだけ。だから、精霊師とか精霊守りとかにしてほしいわ』


確かに僕にも使っているイメージはないからね。


「では『精霊師』あたりでいこうと思う」


『よいですわ。では、よろしくお願いします。レアさん』


『はい。アルベルタさん。よろしくお願いします』


うん…

良かった、アルベルタの機嫌を損ねないで。

やっぱりちょっと怖いよな。


…じっと、アルベルタに見つめられる。

漆黒の瞳に吸い込まれそう…

心の声、漏れてないよね、念話で…



さて、錬金術の範囲は多岐にわたる。

薬の合成から、魔道具の作成、武具への魔法付与、自然現象の解明、哲学、神の研究、生命の創造、不老不死の研究…

まあ、なんでもありで、ちょっと頭のいっちゃってる天才が興味のある分野を研究し、自分を錬金術師と名乗ればそれはもう錬金術みたいな…

適当だ。


それで、ここの前のマスターは生命創造を研究していた。

前世の知識でいえば、無理なように思える。

DNAも何もないところからの創造、無理なように思える。

細胞があれば、なんかいろいろな細胞になれる元になるようなのがあるんだっけか?

それを増殖させれば生物になるような気もする。

僕の浅い知識では分からないけど。

僕が死んだ時代から何十年かしたら、その細胞から人間を再生する、そんな未来があったかもしれない。

いや、倫理的にないか…

細胞から体の一部分を作成するまでかな?

病気とかで移植するために。


さて、ここは異世界で魔法がある。

なんとなくできそうなイメージではある。

倫理的にどうなのだろうって問題はあるけど。


その辺を絵里香さんに聞いてみたところ、まあ色々っぽい。


宗教系の人々は生命の創造は神の領域ということで否定派。

普通の知識人はそんなこと成功するはずがないので、研究をやるのはいいが、やるだけ無駄だよね、馬鹿だなって感じ。

知識のない人々はそもそもそんな研究があることさえ知らないので、分からない、考えたことがない。

ま、生命の創造はやるべきではないし、成功しないだろうという見方だ。


では僕の考えは?

保留だ。

僕の目的はレアをガラスケースから出すことだ。

生命を作るのが目的じゃない。


その研究の途中で生命を作る技術を得るかもしれない。

少なくとも前の研究者の研究結果は理解する必要がある。

それだけでも今のレアと同じ生命を作り出せるようになるはずだ。

しかし、それを実際にやるかは僕次第。

たぶん僕はやらないと思うけど…

…将来は分からないか。


たとえば僕の愛する人、父さん、母さん、姉が殺されたと仮定する。

その場合、復活させたいと思わないだろうか?

まあ、創った生命に、もし同じ魂(これもあると仮定する)を入れたとして、同じ人になるのか?

記憶は脳にあるのか魂に紐づいているのか?

いろいろ問題がある。


それよりも神の奇跡ってやつで生き返らせるって方が可能性がありそうだ。

そんな魔法があるのだろうか?

神様がいる世界ならありそうな気もするんだけど…


前世の記憶からか、あまり宗教ってのも関わりたくないからなあ…

転生物では教会って良いイメージが無い…



錬金術の入門をレアに教えてもらう。


まずは魔法薬、ポーションの作り方だ。

ゲームでの基本だね。

絵里香さんからの情報によると、これができるようになればお金稼ぎができるようになるらしい。

生活に苦労はしないくらい。


この世界、回復魔法があるので、怪我の治癒とかできるのだけれど、回復魔術師の数は少ないらしい。

また、魔法が使えたとしても魔力切れもある。

冒険者なら保険として持ちたいと思う。

たぶん必須。


村では回復魔法使いって結構な数がいるのでポーションの需要はないのだけれど、ここの外は違う。

外貨稼ぎの手段になる。

村ではそれほどお金を使うことはないけど、まあ、あって悪い物でもない。



指示された薬草をすり潰し、魔法で作成した純水を加える。

そこにポーション作成の魔法を掛ける。

どうもこの錬金術系の魔法が闇属性と関係があるらしい。

闇属性が使えなくても錬金術師になれるが、優秀な錬金術師は闇属性の才能を持っている。

闇属性の才能があっても、闇魔法を習得しているかは別問題。

「優秀な錬金術師」と「闇魔法使い」はイコールではない。

まあ、そういうことだ。


最初の一回目は失敗。

液体は真っ黒になった…

どうも魔力を込めすぎたらしい。

次も失敗。

薬草のすり潰しが足りないか、もしくは水とよく混ざっていないかったか…

なかなか難しい。


『マスター、もう少しです』


『練習あるのみじゃないかしらね』


…スキルの熟練度みたいなものがあるのだろうか。

回数を重ねればいいのか?

いや、熟練度は期待しないほうがよいか…

考えながら、悪いところを直しながら、回数をこなすことだろうな。



絵里香さんも多少錬金術関連の技術を持っている。

ポーションは作れるし、マジックバッグは錬金術関連の物のようだ。

でも、基本魔術師がメインとのこと。

マジックバッグは作れる人に頼み込んで作り方を教えてもらったとのこと。

あとで僕も作り方を教えてもらおう。



ポーションは数度の失敗後に、成功!

…嫌だけど、指をちょっと切って、かけてみる。

傷は塞がる。

…相変わらず、回復するのを見るのは気持ち悪い…


ポーション、飲んでも良いらしい。

ちょっとだけ、飲んでみる。

これは…マズイ…

ぬめっとしたのど越しに、すっぱく、苦い味…

味の改良が必要そう。

あれだ、美味しいポーションを作って、ぼろ儲けってヤツ。



そうそう、アルベルタとレアは仲良くなったみたい。

僕が研究室にいっていないときも、アルベルタはレアに会いに行っているとのこと。

これは想定していなかった。


レアの寂しさが少しでも和らげばいいな。

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