第23話 7歳、闇と闇、そして闇

翌日。

闇っていう属性について、あまりにも知識がないため、話を聞いている。


絵里香さんもあまり闇には詳しくないとのことで、闇の精霊アルベルタに直接話を聞くことになった。


場所は絵里香さんの家。

僕が精霊と契約しているのを知っているは絵里香さんだけだから。

精霊の声は他の人は聞こえない。

精霊と話しているといころを見られたら、僕が独り言を言っているような感じになって、変な人認定されてしまう。

念話でやればいいんだけど、心の声が漏れるんだよね…

で、それは、アルベルタだと怖い。

信用していないのではなく、ただ怖いだけ…


テーブルの上にひざ掛けを敷いて、そこに座ってもらっている。

なんとなく飛んだまま話を聞くっていうことが失礼に当たるような気がする。



では…


「日中なのに大丈夫、辛くない?」


『大丈夫よ。別に昼夜は関係ないわ。闇というのは始まりの属性。すべての始まりにそこに有ったもの、そして今もどこにでもあるもの。だから昼間でも大丈夫なのよ』


結構力業な気がする…

そういえば前世でも闇があり、初めに光を作るところから始まる創世の神話があったような…

とすると、神が現れる前から闇があった?


「神様よりも前の存在?」


『今はそんなに怖い存在じゃないわね。それほどの力は無いわよ』


今は…ね…


「どこにでも闇はあるはずなのに、登場が最後になったのはどうして?」


『あなたの力が足りなかったのよ。他の精霊と契約して、闇の精霊と契約できるまで成長したということね』


僕の力不足だったってことか…

闇の精霊と契約する条件が、他の精霊と契約すること。

ハードルが高いと思う。


「ねえ、闇魔法とはどんなものがあるの? 僕が使える魔法はある?」


『闇のイメージって何かしら? 連想ゲームよ』


「えと…影、夜、無…死?」


『…そのイメージの魔法よ』


影魔法っていうと、どこかの忍者みたいなものだろうか?

影移動とか、影を操って攻撃・捕捉する。

夜魔法っていうと…精神魔法に近いか?

あとは暗闇、視界を奪う?

無、無魔法? 無属性の魔法?

いや、無属性魔法は魔力そのものだから、この無とは違う。

近いのは破壊属性とかそういうものか…

対象を無にする、存在を消す魔法?

死属性魔法。

即死効果の魔法とか、アンデット系の魔法とか…

光魔法で奇跡の回復が使えるのだから、闇が死っていうのは対比になっている気がする。

転生物ではけっこう頻出な魔法だ。

ま、チートだよね。


『アナタは何の魔法を使いたいの?』


「…精神系の魔法を使いたい」


『例えば?』


…体を縛る魔法とか、デバフ系の魔法。

魔法の発動を妨害する魔法とか。

なかなか凶悪そうだ。

ゲームでも重要になってくる魔法だよね。


でも、まずは、入門として眠りの魔法だろうか?

結構使い勝手が良いと思うんだよね。

どこかの貴族の屋敷に侵入したり、盗賊の根城の洞窟にかけて一網打尽にしたり。

たぶん僕には機会がないと思うけど。

…うん、無いことを願います。


『そう。眠りの魔法ね』


精霊がふわっと浮いて、僕の額に掌を当てる。


頭の中に魔法陣が浮かぶ。

…これは?


『これが眠りの魔法』


もうすでに、頭の中に魔法陣が刻まれている…

魔法を使える状態になっているようだ。

どういうこと……

魔法を覚えるには魔法陣を必死に覚える必要があるのに…


この精霊のことはツッコまないことにしよう…

怖いので…



まあ、ラッキーということで。

早速、試してみたいが対象がいない。


「絵里香さんて、魔法抵抗高いですよね」


「ん? なに?」


編み物をしていた絵里香さんが顔をあげる。

彼女は精霊と話はできないから、場所だけ借りた感じになっている。


「スリープの魔法を覚えたみたいなんだけど、試せるかなって」


「んー。さすがに今の君じゃ、私にスリープはかけられないよ。転生者を舐めないでよね!」


絵里香さん、鼻息が荒い。

さすがに世界最高峰の魔法使いに7歳児の魔法は成功しないか…


誰かいないかな?

姉とか家族はみんな魔法抵抗が高そうだし、クリフ君なら掛けられるかもしれないけど可哀そうだし…


魔獣か?

…いきなり魔獣は厳しいよなあ。

アイツら、こっちに気づくと、張り切って突進してくるし…


「自分に掛けたらどうかしら? 夜寝れないときとか」


「あーなるほど。睡眠導入剤みたいな」


「そう、みたいな。枕を濡らして眠れない夜とかいいんじゃない?」


「7歳児にはそんな夜はございません」


…言っては見たものの、たまにはあるか…



ということで、その夜、試してみることにした。

泣きぬれる夜じゃないけどね。

絵里香さん所でやってもよいとのことだったが、あまり迷惑をかけるのもよくない。


自分の部屋、ベッドに横たわり、自分に睡眠の魔法を発動する。

魔法抵抗で成功するか不安だったけど、思ったよりも強力ですぐに意識が…





…目を開ける。

真っ暗だった。

深夜かな?


いや…何かおかしい。

暗すぎる。

この世界のカーテンはもちろん遮光なんて効果はない。

星明りも全くないなんておかしい…


灯りの魔法を発動する。

ああ、知らない天井だ…


すくなくとも僕の部屋じゃない。

石造りの四角い部屋。

その床に僕は寝ていた。

床には魔法陣が書かれている。

魔法陣で召喚された?

まさか!

更に異世界召喚か!


…にしてはおかしい。

召喚者がいない…


もう一つの可能性としては、転移トラップ。

僕の部屋にトラップが仕掛けられていたってことは…無いか。


この部屋には魔法陣があるだけ、他にはドアが一つ。

窓も無い。

がらんどうな部屋。

探知の魔法を使ってみる。

生物の反応はなし。

しかたなくドアを開けてみる。

カギはかかっていない。

…誘拐ではないということか?



前方に通路が10メートルくらい。

これも石造り。

突き当りにさらにドア…


まあ、行くしかないか…

あ!

通路に足を踏み入れると、天井に灯りがついた。

魔道具か?

村では見たことがないが?


突き当りのドアを開ける。

ここも鍵はかかっていない…

部屋に自動に明かりが灯る。


部屋にはベッド、テーブル、棚…生活をするスペースらしい。

この部屋も窓はない。

ここに誰かが住んでいたとうことだろう。

テーブルを触ってみる。

埃は溜まっていない…

最近まで使っていたのか、もしくは誰かが掃除している?


僕を誘拐したのなら誰も接触してこないのはおかしい。

転移トラップなら目的が不明。

それとかなり高度な魔法だ。

転移というより、同世界での召喚という感じかな?

僕とターゲットにする理由は?

もしかしたら転生者だとバレた?

転生者を狙う目的は?

異世界召喚だとしたら、やはり召喚者が出てこないのはおかしい。


…うん、分からない。


僕がいなくなったことは家族は気づいているだろうか?

それなら捜索が始まっているはず。

ここが村から遠いところだとすると救助が来るのは難しいか。

いや、絵里香さんがいるから魔法で居場所を探索できるか…

異世界召喚でないなら…



右手に扉がある。

とりあえず探索を続ける。


次の部屋にも明かりがつく。

これは…研究室?


机。

本棚それに大量の本。

棚に材料だろうか色々な素材。

金属のようなもの、ただの土に見えるもの、角のようなもの等々。

よくあるゲームでの素材みたいな。

部屋は奥に更に広い。

片側の壁に棚が並ぶ。

そこにはガラス瓶に液体が満たされ…動物のようなものが浮かぶ…


これは…錬金術…ホムンクルス、か…

生命を生み出す研究…


良くある話では生物を組み合わせるいわゆるキメラがあるが、ここはそうではなさそう。

複数の生物を組み合わせている形跡はない。

純粋に生命を作ろうとているようだ。

しかし、どちらにしてもグロ…

体の一部しか発生していないもの、極端にどこかが大きいもの、小さいもの、見たことのない動物…


人の手で生命を作り出す…

何故だろう、少し嫌悪感がある。

前世での教育かな。

そのような倫理観を植え付けられているのかもしれない。

僕は宗教を熱心にしていたわけじゃない。

それはこちらでも同じ。

でもそう感じる。

…生命を作るのは神の領域?

本能的な忌避か…


しかし、前世では程度の低いものなら同様のことはあったのではないか?

例えば、大豆は遺伝子を組み替えられていたし、農作物は意図的に交配を試されより優秀な個体を作り出されていた。

ペットもそうだ。

例えば犬。

意図的に人間の目指す犬種を作っていた。

人間では体内受精、体外受精とか。


別にそれは悪いことだとは思わない。


ならば、この研究との違いは…

一から作ることが引っかかるのだろうか?


たとえば、古代のマンモスの細胞の一つから遺伝子を取り出して、再現しようとしてたとして、それに嫌悪感はない。


もともと存在する生物をつくるから良いのか?

例えば、ここで人間を作ろうとしてたとしたら?

…嫌悪感がある。


人間は神が神に似せて作っただから、他の生物と違う?

そんなのは人間の驕りだ。

それはないな…


こちらの世界ではどうなのだろう?


人が人を生み出す世界。

人が神になる世界か…



奥に足を向ける…

そして、声が…


『初めまして、新しいマスター』


これは、精霊との会話に近い、魔力による会話?


「…だれ?」


『もう少し奥です』


ちょっと怖いけど…行く。


少し奥、ここが最奥か…縦に大きな水槽があり、人間が、女性が浮かんでいた…

裸の女性、年齢は十代後半あたり。

薄いピンクの長い髪、白磁のような肌…

彼女が目を開き、僕を見つめる。

紫色の綺麗な瞳だった…

ガラスのような…


彼女がたぶん研究の成果…

ホムンクルス…

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