第22話 7歳、祭りといつものあれあれ

秋には祭りがある。

収穫を祝う祭りだ。

農作物の収穫を神様に感謝し、一年の健康を祈る。


ちなみに冬には冬眠する魔獣もある。

狩りの獲物が少なるなるので、秋である程度肉の確保も必要。

狩人の方々も頑張っている。

父さんも狩りに誘われることが多いんだけど、収穫が忙しいので優先。


農家は収穫に忙しく、狩人も狩りと肉の加工に忙しい。

それが一段落したら、冬が来る前に祭りで、騒ぐんだ。

冬は雪が降り積もり、あまり外にも出ないからね。



神様の話題が出たので、そちらの話を少し。


この世界には神様がいることは確定している。

僕の転生にもかかわっていたし。

それで、村人も神様がいることを認識している。

しかし、それほど宗教は強制されていない。

複数の神様が存在しているという認識になっているが、存在するといわれている神様が、実際にすべて存在するかは疑問が残る。


どの神様を信仰するか、もしくは全く信仰しないことも全然OK。

農家のウチが信仰というか一応祈っているのが農業の神様。

一応ってのは、あまり祈っていることを見たことが無いからだ。

お供え物だけ、農作物が採れたとき、朝に備えて、夕飯のおかずになる。

そんな感じ。


僕はそこに1柱を追加している。

この世界に転生させてくれた神様だ。

いろいろ思うところはあるけど、なんだかんだ感謝はしている。

問題はあの神様がどの神様かってことだ。

話しぶりから創造神様なのではないかと予想はしているのだけれど、不確かだ。


村には農業の神様、狩りの神様、商業の神様とかの像はあるのだけれど、創造神の像はなかった。

マイナーな神様なのかもしれない。

像を作って祭るにしても、姿が分からない。

転生時にも創造神様の姿は自体を認識できなかったので、なかなか難しい。

ということでその辺で見つけた良い大きさの比較的キレイ目の石を磨いて磨いて…それを創造神様の像として祈っている。

この石に僕は祈りをささげている。

だけど家族も何も言わない。

信仰の自由だろうか?

普通、変な子供と思われると思うけど…



さて、祭りに戻る。

祭りでは神輿を担ぐ。

日本の祭りに近い。

絵里香さんの影響だろうか…

担ぎ手は男女誰でも良いのだけれど、僕は身長が足りないので無理。

父さんはもちろん担ぐ。

ちょっとテンションが高くなって、口数が増えていて面白い。



…創造神様の像も祭りに参加させてあげたい。


「パパ。創造神様も一緒にできない?」


いつも祈っている石を父さんに見せる。

父さんはちょっと考えて、神輿のてっぺんに石をひもで括り付けてくれた。


おー、立派な神輿のてっぺんに僕の石…

ちょっとシュール。

他の大人も何も言わない。

この村の信仰が柔軟で良い。


これで創造神様も満足してくれるに違いない…たぶん、きっと…


真面目に信仰したらもうちょっとスキルとかくれないかな、と下心もある。

チートはいらないけれど、もう少しスキルは欲しい。

せめて村で最強の戦闘力を持つくらいには強くなりたい。

この世界、常に死が隣り合わせだ。

強くならないと怖くてしょうがない。



さて、創造神様の件が片付いたので、その辺をぶらぶらしようと思う。

屋台が出ていて、魔獣肉の串焼きとか、フルーツとか売っている。

音楽が聞こえる。

太鼓とか笛とか。

リュートっぽい楽器もある。

弦が4本しかないけど。

音楽に合わせて踊っている村人もいる。

いいね、楽しそうだ。


もちろん僕は踊らない。

恥ずかしいからね!


だいぶお酒も出ているみたい。

大人たちはみんなご機嫌だ。


村の独身の男たちはソワソワしている。

祭りって恋人探しの一面もあるよね。

年頃の女性たち、いつもは化粧っけもないけれど、今日は化粧しておしゃれして、いつもより綺麗だ。

まあ、7歳の僕には関係ないけど。

カップルができて村の人口が増えると良いと思う。


もう少ししたら僕もあそこに加わるんだろうか…

カッコつけて、女性の手をとって、踊りの輪に加わる…

想像できないな…



適当に回ると、クリフ君との約束の時間になる。

合流する。


「ね、ルーカス君。何か食べよう。僕お小遣いもらったんだ!」


「いいね。クリフ君。僕もちょっとだけならお金あるよ」


「じゃあ、お肉!」


いつもお肉を食べているけど、やっぱり祭りの屋台で食べるお肉って美味しいよね!


早速、串焼きのお店に向かう。

えっと、何があるかな?

猪、兎、鹿。

もしかしたらトカゲがあるかな。

あったとしても高くて買えないか…

まだ子供、残念。

鹿肉の串を一本買う。

肉の塊が4つ刺さっている。

2つずつ、クリフ君と分ける。

うまうまだ。



「あ、ルーカス」


リネットとスージーが手を繋いで歩いていた。

女性って何で手をつなぎたがるのだろう?

不思議だ。


彼女たちは髪の毛も綺麗に縛って、服は見たことがないもの。

新しいヤツかな?


「こんばんは。リネット、ピンクの洋服可愛いね。よく似合っているよ。スージーはオレンジ色がよく似合うね!」


女性に会ったらまず褒めろと、剣の師匠からの指導された。

前世では女性とあまり会話しなかったからなあ。

それで彼女なし…

まずは会話が必要!


「ありがとう、ルーカス。でも誰でも褒めたら軽薄そうよ」


リネットがツンと顔をそらす。

でも、口元はちょっと上がっている。

うん、喜んでいるんじゃないかな。


クリフ君が僕をツンツンと僕を叩く。

小声で言う。


「どうしたらルーカス君みたいに女の子とおしゃべりできるかな。僕にはむずかしいよ」


「緊張しなくていいよ。僕たちは同じ子供だし、思ったことを話せばいいんじゃない」


「変なこと言って、笑われたら?」


「あー、落ち込むけど。大丈夫だよ。彼女たちだって明日になれば忘れているよ」


「忘れるの?」


「そんなものだよ。男はみんなバカで、笑われているくらいがちょうどいいって、モンタギューおじいちゃんが言っていたよ」


ちなみにモンタギューおじいちゃんとは剣の師匠のことだ。

本人が女の人たちに笑われているんだから、いい例だ。


大丈夫、クリフ君。

女の子に笑われたって、大人になってもたまに思い出して、「あ゛ー!」ってなるだけ…

なんで、あれってたまに思い出しちゃうんだろう?

不思議。

でも、死ぬようなことじゃない!



祭りを4人で一緒に祭りを回った。

徐々にクリフ君の緊張も解けて、少し話もしていた。

基本、僕たちは彼女たちに振り回される役だ。

でも嫌な感じはしない。

ちょっと充実している気がする。

まだ、子供だけど。



夜になると花火を打ち上げる。

これも絵里香さんの影響と思われる……


花火といっても、日本の火薬のヤツではなく、魔法だ。

「ファイヤーワーク」という火魔法。

面倒なので「花火」と呼ぶ。

無詠唱だから問題ないだろう。

これは細部を少し調整できるようになっていて、大きさ、色、形、はじけ方を変えられる。

それに使用者のセンスが出る。

結構難しいそうだ。


というのは母さんに聞いた話。


この花火の打ち上げ、担当は絵里香さんとその弟子の母さん、および学校の魔法の先生であるジェマ先生だ。

毎年、それぞれ魔法を改良し、ここでの発表会となる。

母さんも気合が入っていた。

怖いくらいに…


やがて、花火が始まる。


火の魔法が夜空に線を引き、一直線に打ちあがる。

高く、高く…

ドン!

火の花が咲く。

無数の小さな火の粒が夜空にはじけ、ゆっくりと落ちてきて、途中でスッと消える…

そこには強さと儚さがある。


「きれい…」


リネットがつぶやく。


「そうだね」


うなづく。

しかし、僕は魔法の構成とかが気になって純粋に見られていなかったりする。

魔法使いの悲しき性か…


やっぱり絵里香さんの魔法が一番きれいだ。

魔法の制御、花火としての可憐さ、儚さが一段違う。

日本人だしね。

本場だよ。

母さんのはちょっとパワーが強い。

力強い花火だ。

ジェマ先生のは逆に迫力が不足していて、こじんまりとしている。

しかし、それもまた、儚さが合ってい良い。

三者三様、それぞれ個性がある。

それが集まって一つの芸術になっていた。

これはいいものだ…


あっという間に花火は終わる…

あの大迫力の音と、まぶしい光がなくなり、静寂と闇に包まれる。

…そして、祭りも終わる。


『花火ってのは終わっちまうと寂しいもんだね』


「終わるからいいってものもあるだろう?」


『そりゃ、そうさ。年がら年中、撃ち上がっていたらありがたみも薄れるわ!』


「でも、年1回は少ないよなあ。春も祭りじゃなくてもやらないかな」


『わかる! 火の魔法を主役にするイベントがあってもいいよな。でっかい焚火とかやってさ、周りで踊ればいいのに!』


「火の奇祭かよ! 村で火事が起きたらどうするの?」


『水の魔法を使えるのが大勢いるだろ。問題なしさ!』


…それは僕の頭をポンポンと叩いて豪快に笑っている。

火の精霊ですね…

いつの間に。


『こういう派手な火がないとなかなか降りられないからな、俺たち中級の精霊は。んじゃ、よっと!』


手の平で、パンと僕の唇を叩く。

いつも通り、ドクンと体が熱くなる…


『契約成立な。俺はインゲルデ、よろしく!』


「一方的に契約ってどういうことよ」


『減るもんじゃないし、いいだろ! ありがたく受け取っとけ。これで火の魔法も得意魔法ってなもんだ。花火師の役目も継げるんじゃねえか?』


「あ、そういうこと? 村の花火存続のため」


『まあ、それもある。けどさ、風土水がいるってのに、火がいないってのもしゃくじゃねえか』


そうだ。

これで地水火風、4属性が揃った。

僕以外精霊使いに会ったことがないので、これが凄いことかは不明だけど。


『ま、そういうこった。これからよろしくな!』


インゲルデは握手すると消えていった。



「ルーカス君、どうしたのぼおっとして」


「うん、クリフ君。大丈夫。ただ、人生、強制でイベントが発生するなあって考えてた」


「?」


きっとこれからも色々強制イベントが発生して、それで流されて生きていくんだろうなって思う。

でも結果は自分が選んだこととして受け入れて生きていかなきゃいけない。

ちょっぴり理不尽さを感じるよなあ…



祭りの帰り道、一人、道を歩く。


母さんは花火大会の後始末。

魔法なのでほぼ作業はないはずだが、もしかしたら火事が起きるかもなのでちょっと待機。

まあ、仲間内での魔法の意見交換・反省会も兼ねている。


父さんは母さんと一緒にいる。

姉は帰宅。

たぶん、すぐに寝ているかな。

良く寝る姉だから。

僕はクリフ君、リネット、スージーを家に送ってからの帰宅。

そのため、ちょっと遅くなった。


花火の終わった空は漆黒。

月は出ていない、星明りのみ。

祭りの喧騒は昔、今は静寂に包まれている。


祭りの後はちょっと感傷的になる。

子供のころに両親とした花火。

たよりない棒の先に付いたあの花火だ。

手にもって火をつけて、火花を散らし、短い時間で終わってしまう。

線香花火など、なにが面白いのか分からなかった。

ロケット花火がしたくてねだったけど、スペースがなくてできなかった。

子供だったなあ…


帰りたいとは思わないけれど、懐かしい…



『こんばんは。ルーカス』


…本日二人目の精霊。

いつの間にか僕の肩に座っていた。

漆黒の精霊。

黒い長い髪に、黒い瞳。


闇の精霊だろうか。

闇を切り取ったかのようなしっとりとした美女だ。


『そう、闇よ…最後は闇。私はアルベルタ。初めまして』


「あなたも僕と契約を?」


『私はどちらでも良いのだけど…いえ、契約しないといけないみたいね』


「しないとダメなんですか?」


『そう、やっておいた方がいいわね』


「しないと?」


『きっと…後悔するわよ』


この精霊は今までの子とは雰囲気が違う。

格が違うのだろうか?

ちょっと怖い…

逆らわないほうが良い気がする。

勘だけど…


「…はい。契約します。お願いします」


『そう、素直ね。いい子ね』


闇の精霊は優雅に左手の甲を僕の顔の前に差し出す。

僕はそれにキスをする。


ドクンといつもの鼓動。


『これで私はあなたの精霊よ。あなたのことは私が助けてあげましょう』


そう言って闇の精霊は微笑んだ。



祭りの後、一人の帰り道。

僕はアルベルタと出会い、契約をした。

この出会いが、将来にどのような影響を与えるのか……


まあ、これで僕は地水火風光闇の精霊と契約をしたことになる。

よしとしよう。

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