第21話 7歳、走り込みとご近所さん
トカゲを倒す方法を魔法の師に聞いたのだから、剣の師にも聞かないといけないだろう。
ということで、モンタギューおじいちゃんにも聞いてみる。
「ほう…ルーカスの親父の身体強化が金に光ったか」
「うん。僕が使うのと違う感じ。とっても強かった」
修行の合間、休憩時間に聞いてみる。
「それはの、身体強化・金剛というヤツじゃな。ま、大層な名前がついとるが、単純じゃよ。身体強化の強いヤツじゃ」
「え、どうやるの?」
「気合じゃな、気合! ムンっと力を入れてな。あとは覚悟じゃよ!」
えーと、気合と覚悟って…
まったく理解できない。
感覚的すぎる。
「おぬしにはちと早いかもしれんな」
「…年齢?」
「うむ。体がまだできていないからの。負荷が重いの」
僕は、まだ7歳だからね。
前世だったら小学生になったばっかりの年齢だ。
さすがに無理はできないか…
「他にトカゲを切る方法はないの?」
「そうじゃの…剣士なんて単純じゃよ。体を鍛えて、技を鍛えて、身体強化を鍛えて、いい剣で斬りつけるだけじゃ! ま、基本が大事ということじゃな」
RPGだとレベルアップして、いい武器を買ってってことだよね。
7歳児がいい武器を買えるお金を持っているわけもなく、そもそもこの村でそんな武器を買えるのかって問題もある。
そういえば、あのトカゲの牙ってどうなったのだろう?
あれで武器を作れば今の鉄の剣より強力なのではないだろうか?
素材を剝ぎ取って武防具を作るのって、ゲームの基本的なシステムのような気がするけど。
「ほれ、いつまでも休憩しとらんと、始めんか! そうじゃの、何事も足腰と体力が基本じゃ。村を走ってこい!」
「えー。最初に走ってきたよ!」
「まだまだ余裕がありそうじゃからの。追加じゃ追加」
あれだけ身体強化は早いって言ってた割には、7歳児にキビシイんだから。
とはいえ、実は村を走るのはそれほど嫌いじゃない。
その季節ごとの風景があったり、匂いがあったり。
風の味も違う。
変化を楽しめる。
走っていると途中から、雑念が消えて、走ることだけに集中したりする。
すると悩みとか、考え事とかが一時的になくなったりする。
これって前世で本で読んだことがある、マインドフルネスってやつなのかなぁ…
あれは、いろいろな不安を一時的に横に置いておいて、いや、捨てちゃって、今に集中するってヤツだっけ?
書籍は忙しくて真剣に読んでなかったのでうろ覚え。
結局今の問題に真剣に悩んだって、結果はそれほど変わらない。
それなら今に集中した方が良いんじゃないか。
将来の不安にばかり気を取られるより、そっちの方がストレス無いよってことだっけ?
問題を先送りにするようで、なんだか逃げているようで違うかなと思ったもんだけど、結局自分の力の及ぶところじゃない問題を悩んだって解決なんてできないんだよね。
そんなどうにもできない問題はやるだけやって、どうにでもなれって思うくらいでちょうど良いのかもしれない。
諦めるってわけじゃないけどね。
吹っ切れるってのも大事かな。
それで失敗したら、自分の解決できる問題じゃなかったってことで、責任を放り出してしまうってのもよいかなあ。
実際にはそこまで図太くなれないんだけどさ。
難しいもんだ…
「ねえ、ルーカス、何してるの?」
おっと。
リネット、スージーのコンビに呼び止められる。
二人は仲良しだね。
「走ってるの。体力づくり」
「えー、私たちと遊ぼうよ!」
「今はダメ。体鍛えて強くなって魔獣を倒せるようにならないと」
「えー」
リネットはほっぺを膨らませて不満を表している。
子供っぽいけど、ちょっとかわいい。
「じゃあ、強くなったら魔獣から私を守ってね!」
「うん。僕、守るよ!」
僕は曲がりなりにも転生者だ。
何かあってもこの村くらいは守りたい。
この村でスローライフを。
幸せな老後を!
…二人と別れて、少し走る。
「おう、ルー坊。ブドウが食べごろだぜ。ちょっと食ってくかい?」
声の主は果樹園のトーマスおじさんだ。
ブドウとかオレンジとか林檎とかを作っている。
ランニング中もよくさぼりで果物をもらってたりする。
ランニング途中で食べるオレンジとか最高ですよ。
水分補給だよ。
さぼりじゃないよ。
まあ、今日はそれほど時間がないので、さぼりはなし。
「ごめん、師匠に怒られちゃうから、また、今度!」
「おう。真面目過ぎんなよ。人生どこで手を抜くかだかんな!」
いいおっちゃんだよね。
柿の季節は絶対来よう。
堅い柿が好きだったりする。
熟して、柔らかいのは甘くていいんだけど、歯ごたえが欲しい。
さて、次には牧場がある。
牛とか羊とかがのんびりとしている。
ザのどかだ。
畑とか、果樹園とか、牧場とかの区間は村の外側の方にある。
村と森の区切りには石積みのしっかりした壁があって、村にしては堅牢だ。
たぶん土魔法の産物と思われる。
しかし、空を飛ぶ魔獣もいるわけで、それだけでは備えとしては不十分。
ではどうなっているかというと、絵里香さんの魔法の結界だ。
基本これが機能して魔獣は村の中に入ってこれない。
基本といったのは、何事にも例外ってやつがあるってことだ。
結界を破れるくらいの強力な魔獣なら入れるし、たまに結界が弱っていて魔獣の侵入を許したり。
絵里香さんの、転生者の結界を破れるくらいの魔獣がきたら村は壊滅だろうね……
この時間はクリフ君はいないのだろうか?
ちょうどクリフ君ママを見かけたので聞いてみる。
「おばさん、こんにちは。クリフ君は?」
「あら、ルーカス君。うちのは小屋の掃除をしてるよ。呼んでこようか?」
「ありがとう。大丈夫です。僕も修行の途中なので行きます」
「そうかい。根詰めすぎんじゃないよ。今度、お家にチーズ持っていくから、お母さんによろしくね」
「はい。じゃあ」
クリフ君も家のお手伝いを頑張っているね。
最近は剣術の授業も様になってきたし、魔法の方も頑張っている。
戦闘力はメキメキと、だが、座学は苦戦中。
のんきに寝そべっている牛に挨拶をしつつ、牧場を抜ける。
その向こうには一面に畑が広がっている。
一面小麦畑が、もう気麦色に色づいている。
そろそろ収穫だ。
収穫も大変だが、その後も色々作業があるんだ。
乾燥、脱穀、色々手順があって、小麦粉までは以外に遠い。
これが村の主食、パンになるんだから重要。
手は抜けない。
…トマトとチーズがあるのだから、ピザもできそうなんだけど、オリーブオイルがないのが痛い。
ピザってオリーブオイルだから美味しいってところがあって、他の油だとちょっとね。
村ではコーン油とか、ゴマ油とかヒマワリ油とかあるけどちょっと違うかな。
そして量が少なくて、希少だったりする。
まあ、そこまでピザの完成度にこだわる必要もないか。
後で、絵里香さんとピザパーティをしよう。
小麦畑の向こうには野菜の畑とかあるんだけど、パパの姿はない。
午後は家の方で次の野菜の準備とかしていたりする。
パパがいたところで無口なので会話は少ないんだけどね。
こんな感じで村をランニングする。
村の外寄りを走るので、だいたい畑とかそんなところが多い。
自然豊かな村の季節感を楽しむ感じだ。
中心の方の住宅地とか、商店とかはあまり走らない。
道に人が歩いて走りにくい。
それに、僕頑張ってますって、村人たちに見せつけるようで、なんだかね…
そうこうしているうちに、師匠の元に戻った。
まあまあ、頑張ったと思う。
「おう、今日はさぼらんかったか」
あれ、いつもちょっと寄り道していること、師匠はお見通し?
そうか…
もしかしたら、この村程度なら人の動きを感知できるのかもしれないな。
「もっと女性のケツを追いかけんと、健全な男にはなれんぞ!」
さぼるのは別によくて、女性を追いかけないことを怒られるか…
この歳から女性を追っかけていたら、危ない子供だよ、まったく…
「僕はまだ7歳なので、女性はわかりません」
「あほか! 男として生まれ落ちたときから、女を追いかけることを宿命づけられとるんじゃ! お前が子供だとて、女性は大人が沢山おるじゃろが。この甲斐性なしが!」
…
ちなみに師匠の女性の守備範囲は…
生まれてから死ぬまで。
つまりすべての女性!
区別なし。
いやあ、下の方は犯罪になるんじゃないですかね。
しかし師匠の周りには女性がいない。
ちょっと悲しい…
「なんじゃ、失礼なことを考えている顔をしとるの。まあ、良いわ。ほれ、素振りじゃ! やれ!」
ランニングで疲れた体で、素振りを始める。
戦闘では、万全の状態で戦うことの方が少ないから、ランニング後の疲れた状態でやるくらいがちょうどいいらしい。
そのあと師匠に打ち込みをしてみたりして、いつも通りの修行を行った。
トカゲ…
魔法と同じで、剣術の方も時間がかかりそうだ。
トカゲを倒せるようになるにはあと何年かかるだろうか…
まあ、まだ子供だし、のんびりやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます