第18話 7歳、狩りは生きるために

僕は学校に通うことになり、そして剣・魔法に関して、卒業のレベルを達成していると証明された。

そうなるとできることが増える。

そう…それは森に入ることだ。


森には魔獣が出る。

そのため、戦闘力が必要。

その基準が学校の卒業レベルとなっている。

なかにはそのレベルに達しない村人も少数ながらいる。

そうい人はよほどの事情がない限り森に入らない。

どうしても森に入る必要がある場合は、戦闘力の高い人に守ってもらって入ることになる。

それだけ森が危険ということだ。


しかし、森に入るレベルに達したからと言ってすぐに森に入るわけじゃない。

森の先輩たちに付き添ってもらって、彼らから合格をもらわないと、一人で森には入れない。

まあ、学校での卒業は仮免ってところだ。



…ということで、本日は父さんと姉と僕の3人で森に入っている。

僕の森免許試験ということ…


姉はすでに父さんから合格をもらっていて、一人で森に入っている。

まだ、村から近いところだけだけど、魔獣を狩ってきて、夕飯になったりする。

姉は学生の中で一番強いから妥当かな。

僕へのちょっかいはちょっと減った?

ストレスの発散ができているのかな?

ちょっと嬉しい。



森は巨木で覆われていた。

木の幹の直径が2メートルはありそうものが多く、大きいものだと3メートル以上のものもありそうだ。

上を見ると、どのくらいの高さがあるか分からない…

その大きな木が10メートル程度の間隔で立っている。

間隔が広いのは各木が大きいからか、もしくは巨大な魔獣が通るための間隔か…


「…ルーカス、緊張しろ。私とパパは何回も来ている。…でも、油断ダメ」


姉は剣を構えて、周囲を警戒する。

父さんは右手に鍬、左手に鎌を構えている。

何故、武器が農具なのだろう?

農家だから?

父さんの強化魔法はとても静かで、でもすごく強い。

農具も完全に強化されている。

これだけ強化ができれば武器が何であろうと関係ないのかもしれない。

姉の身体強化が今まで見た中で一番だったけど、それ以上の使い手が身内にいるとは…

いや、父さんの血を引き継いだのが姉ってことなのかもしれない。


「…行くぞ」


父さんを先頭に森へと入っていく。


『ま、この辺は小者しかいないから問題なしよ』

『何かあっても私が守るから安心してね。ルーカス』


風と水の精霊が心配して付いてきている。

右の肩に風の精霊、左の肩に水の精霊。

水の精霊はずっと僕にくっついているので左肩は指定席化している。

精霊たちが魔獣とどのように戦うか、まだ知らないけど、ちょっと心強い。


やっぱり僕は緊張しているようだ。

体に力が入っている。

大きく息を吐き、大きく吸う。

前回の森は水泳の授業のため。

今回は魔獣狩り。

今日はかなりの確率で戦いになる。

僕がこの世界での魔獣との戦いを経験するのは初めて。

緊張するのは当たり前。

何かあっても父さんと姉、そして精霊たちがいる。

回復魔法もある。

死ぬことはない。

大丈夫。

自分に言い聞かせて心を落ち着かせた…



森を少し進むことしばし…


『いるね』


風の精霊が前方を指さす。

僕も探索系の魔法(風魔法系列だ)を発動する。

前方50メートル先にいる!


「…いる」


父さんの感覚にも引っかかったようだ。


「…手本を見せる」


父さんは武器を構え(と言っても鍬と鎌…)、慎重に進む。

僕と姉は父さんから離れてついていく。


魔獣が姿を現す。

猪!

しかし、前世の猪とは違う。

大きい。

2メートル以上の高さ!

体長はどのくらいだろうか…

長い牙を持っている。

あれに突撃されたら普通に死にそうだ。


父さんは特に気負った様子もなく猪の前に立つ。

猪は前足で大地をかき、威嚇をする。

父さんは気にせずに接近する。

猪は父さんに向かって突撃する。

直線的で、ものすごく速い。

父さんは横にかわす。

相手が直線的で、さも簡単そうに…

猪はゆっくりと停止し…頭が…地面に落ちた…

体から切り離されて…

父さんがすれ違った瞬間に切り落としたんだ!

一瞬だった。

僕が身体強化していなかったら、見逃していた。

これが村人と魔獣との戦い。

魔獣狩りだ。

村人は昔から魔獣を狩って、肉を食料としてきた。

この世界の魔獣は大きく、そして村人は思っていたよりも強い…



今の僕に同じことができるかというと、できないだろう。

まだまだ鍛錬が必要だ。

そしてもっとも足りないのが実戦経験だと思う。

前世は戦争も知らない平和な時代を暮らしてきた。

それは喜ばしいことなのだけれど、この世界はきっと命のやり取りはもっと身近だ。

僕が殺さないと、僕が殺される場面が出てくるだろう…

殺すことに慣れるわけではないが、経験はしておかないといけない…


他の転生者、召喚者、物語の主人公たちはどうだったのだろうか?

家畜さえも殺したことのない若者が、いきなり命のやり取りを強要される。

すんなりと受け入れて殺せたのだろうか?

きっと苦悩しながら、恐怖しながら、それでも生き残っていったんだ…

僕も覚悟を決めないといけない…


父さんは絶命した猪に近づき、腰のバッグを開けと、そこに詰め込んだ。

これは異世界物の定番、マジックバックだ。

絵里香さん作成。

さすが絵里香さん、元勇者パーティ!

マジックバッグも作れるとは!

絵里香さんが作れるとはいえ、高価で数がないものなので、村の共有資産となっている。

森に入るパーティに貸し出される。

魔獣は大きいため、これがないと一匹しか持ち運びできない。

それでは効率が悪いため、マジックバッグが必要となる。

マジックバッグ作成の技術は絵里香さんから弟子のウチのママに受け継がれている。

ママもたまにマジックバッグのメンテナンスとか仕事をしているみたいだ。

スゴイね!



さらに森を進む。


今度は2匹の反応がある。

前回より小さめ。

兎。

大きさは1メートル。

頭に角がある。

「角ウサギ」と呼ばれる魔獣だ。

現世のウサギとは大きさが明らかに違う。

さすが人間を殺せる魔獣だ…

村でよく出るお肉が、猪とウサギだ。

今日はその2種類が出たことになる。

猪肉は味がしっかりして、脂も甘い。

兎肉はさっぱりしていてどちらかというと鶏肉に近い。

僕はどちらも好きだ。


「…やってみろ」


父さんが子供にやらせる。


「…了解」

「うん、やってみる…」


姉と僕とで1匹ずつ。

森の最弱が「鼠」で、その次が「兎」とのこと。

その他、昆虫系もいるらしいけど、あまり食べるところがないので遭遇したくない。

そういえば、前世では昆虫食も出てきたところだった。

僕は食べたことはない。

この村では、魔獣が沢山いて、肉にも困っていないから、食べることはないだろう。

…あれって、意外に美味しいんだっけ?

一度くらいは試してみようかな…



さて、姉が右、僕が左の兎に対応する。

角兎の攻撃パターンは角での突撃攻撃のみとのことなので、それを横に良ければいいはず…

対応は猪と同じ。


剣を構える。

身体強化はできている。

剣も強化済みだ。

兎を見る。

僕を睨んでいるように見える。

僕を敵と認識しているのだろう…

力をためているようだ。来る!

兎は強靭な後ろ足で跳躍、こちらに直線的に突撃してくる。

角で突き刺す気だ。

それを横に跳んでかわす。

ダメ!

距離をとりすぎた!

剣での攻撃は届かない…

兎の着地を狙い、風の矢で攻撃する。

風の矢は兎の後ろ足に命中した。

もがく兎にもう一発風の矢を放つ。

胴体に命中した。

兎は恨めしそうに僕を睨む…


「…ルーカス、止めを」


姉が促す。

姉の方はすでに兎の頭を刎ねて…終わっていた。


僕は剣を構え、兎に近づき、首に振り下ろした。

首が落ちる。

血が噴き出す。

兎の体が地面に倒れた。


「…入れろ」


兎の体を父さんの持つマジックバッグに入れる。

身体強化を使っているので、兎の大きな体も簡単に持ち上げれる。

バッグに格納され、残されたのは地面に染みた兎の血だけ…


マジックバッグは時間遅延の効果が付与されている。

高性能のものだ。

魔獣の死体はマジックバッグに入れて持ち帰る。

解体作業は村で行う。

この場では行わない。

他の魔獣の襲撃を警戒していだ。

なるべく隙は見せない方が良い。


村で、魔獣は解体され、肉は食用に、皮は衣類やバッグに、骨はナイフ等の武器に、余すところなく使われる。

魔獣には、定番の魔石があるらしい。

これは、マジックバッグの作成に使われたりする。



手にはまだ感触が残っている…

兎の首を切り落とした時の。

皮を切り、肉を切り、骨を断った。

剣は首を通り越し、抵抗がなくなった。

剣を強化していたためだろう、想像よりもずっと簡単だった…

思っていたほどの嫌悪感はなかった。

ただ、命の抜けた体、動かなくなって地面に横たわっている塊。

それを不気味だと思った…

と同時に恐怖した。

…僕は死そのものが怖かった。


僕自身、一度死んでいるのに、まだ…


今日を忘れる日が来るのだろうか…

死に慣れる日が来るのだろうか…


剣を振ると、兎の血が飛び散り落ちた。

剣を強化していたため、魔力が膜のようになり、血は剣自体には直接付着していないのだろう…

血は綺麗に落ちた。

剣は使用前と同じように鈍い銀色を発していた…



「…よくやった」


父さんが僕の頭を撫でる。

…最近撫でられてなかったなあ…


「…よくやった」


姉さんも真似して頭を撫でる…

ちょっとこそばゆい…

3秒ほど我慢して、振り払った。


まあ…これで良いんだろう…

正解かは知らないけれど、これくらいが僕のできるところだろう…



「…よし」


父さんと姉は歩き出す。

僕もそれに遅れずについていく。

更に森の奥に…

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