第17話 7歳、歴史は睡魔との戦いです
歴史の授業だ。
これは全くの座学になる。
そして生きるために直接関係しない。
そのため学生たちは消極的に授業に参加している者がほとんど。
授業を取らない生徒もいる。
出るには出たが、居眠りをしている生徒もいる…
ああ、前世を思い出す。
前世の学校でもそうだった。
社会の授業は眠くなる…
夏のプールの後、午後の授業とかだとなおさらだった…
僕たちの忍耐力を試しているんじゃないかって思う。
拷問じゃない?
しかしね。
歴史・社会の授業って実は重要だと大人になってからは思う。
今は子供に戻ったが。
歴史は未来への予測、道しるべ。
何も基準がなければ将来は予測できない。
予想できない未来は怖い。
真っ暗闇のなか足を踏み出すのは勇気がいる。
それができるのは一部天才か、もしくは底なしの無鉄砲者だろう。
歴史は繰り返すという。
たぶん、同じような出来事が起き、結果同じようなことになる。
人間が団体で社会を形成して運用していれば、大体同じようなことが繰り返し起こるのが自然だと思う。
個人個人は異なる考えを持っていても、団体となると大体同じような行動をするものらしい。
ただ、前世では技術の進歩とかが想像より早くなってしまって、同じようなことが起きにくくなっていた…
未来が予測できにくくなっていた…
暮らしは向上していたのだろうけど、心の安定はどうなんだろう?
見えない未来にストレスを溜めて、バタバタあがきながら生きていく…
そんな人たちが多くなかったのか?
僕はそれだった…
将来の目標を決めて、それに向かって一直線に生きれる人はいいんだろうけど、僕みたいな才能のない一般人には耐えられなくなるレベル。
ギリギリの精神状態で日々を生きている…
それは、さ…幸せかい?
幸いこの世界は技術の発展が遅いらしい。
というか毎日が同じ繰り返しに見える。
村だからかもしれないけど…
明日は今日の延長で、来年は今年と同じようなことが起きる。
子供は一年たてば大きくなり、できることが増えるけれど、大人になれば、ほぼ同じ毎年を繰り返しているような感覚になるだろう。
面白味も少ないのだろうけど、安定した生活…
親の職業をそのまま継いで、老いて、死ぬまで生きていくだけ…
刺激的な前世の世界を生きてきた人たちには物足りないかもしれない。
僕はギリギリの精神状態で、心もとないの給与で、カツカツの生活をしてた。
その反動からか、ゆっくりとした生活を渇望していたのかもしれない…
この世界は、きっと前の世界よりずっとゆっくりとしたペースで歴史を繰り返す。
歴史を学び、将来を予想する。
前の世界より、たぶん役に立つはずだ。
歴史の先生はヴィンスさんというお爺さん。
年齢は70越えと思われる。
村で一軒だけある商店のご隠居とのことだ。
白髪のお爺さんで、眉毛も白髪で長い。
淡々と滔々と授業を勧め、生徒が寝てようと気にせず、興味ある生徒だけ聞いていれば良いというスタンスのようだ。
生徒を楽しませようという気はないらしい…
さて、この村について、少しだけ。
数百年前、深い森の中に村を切り開いた数人の人々。
彼らは世間の争いに辟易し、民衆から搾取し続ける国に、それで豪遊する王侯貴族に憎悪し、それでも生きることを諦めず、豊かな土地を求めて、さまよった人々。
森の深く、世間から隔離された土地を切り開き、豊かとはいかないまでも、生き延び、村に発展させた。
隣の村とだけ薄くつながりを持ち続けた。
国とは積極的なかかわりをしていない…
一応はどこかの国に所属していたが、あまりにも森が深いため、ほぼ税を収めることもせず、また、国から守られることなかった…
支配する国が変わり、重税を課そうとする国もあったらしいが、それは撥ねつけた。
国は軍をもって、従うように脅したが、軍は森を越えられなかった。
魔獣の多く住む森を越えるための費用と村からの収入を天秤にかけたら、割に合わなかったのかもしれない。
もちろん別の国がこの村を征服しようと兵を向けることもない。
そんな価値もない村だ…
それから、幾つも所属する国は変わった。
ある国は征服し、ある国は衰退し、ある国は滅び。
しかし、村はあり続けた。
ただ国の名前が変わっただけ。
上の人が変わっただけ。
村の生活は何も変わらず、森に入り魔獣を狩り、農作物を作り、酪農をする。
人々は結婚し、子供を作り、育てる。
外の世界では人間と魔王が争ったかもしれない…
人間と亜人が喧嘩別れしたかもしれない…
災害級の魔獣により街が破壊され、大勢の人が死んだかもしれない…
しかし、村は平和にあり続けた。
そんな、世捨て人のような村だ。
若者はそんな退屈な暮らしを嫌い、外の世界に出ていく者も多かった。
しかし、外の世界からこの村にたどり着く人たちも一定数いたとのことだ。
例えば、絵里香さん、剣の師匠。
彼らは移住組だ。
何かしら問題を抱えた人かもしれないし、ただ静かに暮らせる場所を求めた人かもしれない。
まあ、そんな感じ。
あまり浮き沈みなく、平和な歴史。
それがこの村らしい。
細かいところ、始まりの人々がどんな人たちだったのとか、そういうこともこれからの授業で学んでいくとのことだ。
あとは、現在ここを支配していることになっている国の歴史とか。
その辺を一応学ぶ。
その王侯貴族とかには、きっと関わらないので重要ではないとのことだ。
確かに、こんな村に貴族が来るわけがない…
…いや…転生物だと、権力争いに負けた貴族が逃げてきたり……
そんなベタ展開ないよね…きっと…
この村の歴史より、外の国の歴史、戦争の話とかの方が人気が出そうだ。
前世でも、戦国時代とか明治維新とかの方が好きな生徒が多かった。
まあ戦国時代なんて、授業じゃそれほどボリュームがあるはずもなく、数ページで終わるんだけど。
織田信長が台頭して、鉄砲を活用し戦争が効率的になり、本能寺の変で殺されて、豊臣秀吉があとの実権を握り、天下を統一。
朝鮮への派兵。
秀吉が没し、徳川家康が関が原を経て、権力を奪い取り、その後、江戸幕府の成立。
鎖国と日本らしい文化を発展させる、役250年ってところかな。
むしろ、江戸時代のボリュームの方が多いだろうね。
しかし、XX文化やホゲホゲの改革とか言われたって子供には分からない。
興味はない。
華々しく戦って散っていった英雄たちに子供たちの人気は集まるよね。
越後の龍 軍神 上杉謙信、甲斐の虎 武田信玄、謀神 毛利元就、鬼島津 島津義弘、独眼竜 伊達政宗…
他にも、大友宗麟、陶晴賢、長宗我部元親、三好長慶、長野業正、佐竹義重、小田氏治、南部晴政、津軽為信…
まあ、色々出てくる。
…よくよく考えれば権力と領土のために殺し合いをしていたわけで、英雄とは何だろう?
一人殺せば犯罪者で、100万人殺せば英雄って旨の言葉があった気がするけれど、あれって誰の言葉だったか…
まあ、皮肉だよね。
それに、戦争している状態なら、敵国の兵士を一人殺せば、英雄かもしれない…
兵士一人一人は英雄と称えれるべきか……
いや…兵士を英雄と呼ぶのは抵抗がある。
それぞれが国を守るため、生き残るために必死に戦っているのは、もしかしたら称賛すべきかもしれない。
…守ってくれてありがとう、生き残ってくれてありがとう、かもしれない。
だけど、英雄とは違うと思う。
上手くは表現できないけれど…理解は少しできる、でも納得はできない…
たとえば、自国の兵士を数万人殺して、自国の負けという形で戦争を終わらせた将軍はどうだろうか?
人類レベルでみれば、また、これも英雄かもしれない。
戦争が長引いたとして、死んだはずの数万人を救ったのだから…
だけど、自国からしたら敗軍の将だし、戦犯だ。
称えられるはずはない。
そんな、意味のないことをうつらうつらと考える。
やっぱり、歴史の授業は眠い…
ちょっと興味はあるんだけどなあ…
なぜだろう?
さて…僕も少しだけ…眠ってもいいよね…
…ああ。
僕はこの村がいいや。
静かに平和にゆっくりと。
次第に年老いて、子供、孫に囲まれて、幸せに終わりたいものです…
……お休み…
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