第15話 7歳、小さいならがらも男のロマン
学校の帰り道。
クリフ君と一緒だ。
友達どおし、他愛のない話をする。
どんな食べ物が好きか、どんな遊びが好きかとか。
こういうのってのはいいね。
本当に少年に戻ったようだ。
友達と一緒に遊び、育ち…
人生を歩む。
彼の家ではチーズとかバターとか乳製品をよく食べるそうだ。
さすがは酪農家。
残念ながら、僕の家ではそんなに登場回数は多くない。
あれだ、単純だがパンにバターがおいしいしし、そこにニンニクを塗ってガーリックバタートーストとか、あとパングラタンとかもいいよね!
熱々のグラタン。
あれ、冬に無性に食べたくなる。
この村でパスタを食べたことがないから、パングラタンしかできないかも。
だけど、パンでも美味しいから、よし。
小麦とトマト、チーズがあればピザとかも出来るかもしれない。
ヨーグルトとかも作りたいね。
塩とニンニクを加えて肉のソースにしてもいいし、普通に食べても良い。
しかし、あれはどこから菌を持ってくればのか?
普通にやると腐敗しちゃうよね。
もっと前世で勉強しておけばよかった…
ここではネットで検索とかできないから。
あれか?
召喚者でネット検索とかできるスキルをもった人がいれば…
それって戦闘力、低そうだね…
それはそれとして、クリフ君と友達になったから、チーズとバターを融通してもらえないだろうか?
いや、村人みんな欲しいのだろうから、難しいか…
生産量が少ないのだろう…
生産量を上げるにはどうすればよいか?
うーん。
分からないや。
子供が動けることではないとと思う。
もう少し、大きくなってからの話だ。
この問題は保留する。
ちょっと思考に沈んでしまう。
僕の悪い癖だ?
悪くはないか…
友達と一緒にいるときにするのは悪いけど。
クリフ君は不思議そうな顔でみているけどね…
と、そこで呼び止められる。
「ちょっと待て! ルーカス!」
…ああそうね。
お決まりだ。
ジェフリーとビリーが立ちふさがった。
ジェフリーは木刀を持っている。
「何の用なの?」
「僕は負けていない! 俺の方が強い! 続きをやるぞ!」
ジェフリーは木刀を構えてやる気だ。
負けず嫌いは良いけど、さすがに実力差が分かっていなすぎる…
ついさっきで、実力が埋まっていると思うのか?
その間に何をした?
冷静に考えてほしい…
一方、ビリーは困ったような顔をしている。
ジェフリーと同じことは思っていないようだ。
こちらは話が通じそう。
ちょっと話しかけてみよう。
「どうして僕はジェフリー君と戦わないといけないの?」
「ああ。ジェフリーはね、カッコつけたいのさ」
「カッコつけたい?」
「そう。簡単な話さ。イザベルに自分が強いって見せたいのさ」
「?」
「ジェフリーはイザベルが好きなんだよ」
おや!
ジェフリーはイザベルが好き?
僕のあの姉を好きですと?
狂暴で、妙に戦闘力が高い戦闘民族で、頭が固い。
最近、ちょっとは優しいけど。
その姉をだと!
まあ、身内びいきなしに、美人だとは思うけど…
彼は外見しか見えない愚か者か、極度のM体質か?
いや、それは姉に対して失礼すぎるか。
姉も恋人には優しいかもしれない。
旦那にはキビシそうだけど…
「おい、ビリー! 何を言っている。別に僕はイザベルなんて…」
「この期に及んでだらしないヤツだな。認めちまった方が話が早いって」
「違うって!」
ビリーは苦笑している。
「なあ。ルーカス君。多分、君はこいつより強いんだろ? ちょと相手をしてくれないか。少しくらい痛い目を見せてもいいからさ。僕もこいつの我儘につきあって、迷惑しているんだ」
ああ…あれか…
森に付き合わされて、命を危険にさらしたりってことか。
あれは姉にいいところを見せようとした結果だったってことなのね。
大迷惑だ。
ちょっとお灸をすえた方が良いのかもしれない、ね。
「そう。じゃあ、前よりもう少し強くやってみるよ」
クリフ君には少し距離をとってもらって、ジェフリーに対峙する。
しかし、あれだ、僕に木刀は?
自分だけ木刀ありって卑怯じゃない?
まあいいけど…
「ふん。ルーカス! 前の俺じゃないぞ。俺は剣と魔法を両方使える天才だ! お前に負けるようなことはない!」
ジェフリーは剣を構える。
僕とビリーの話が終わるまでちゃんと待っていた。
意外と真面目な奴なのかもしれない。
「行くぞ!」
ジェフリーが魔力を練り始める。
初手は魔法攻撃か。
しかし、身体強化が切れている。
それはダメでしょ…
僕は身体強化を使い、ジェフリーに接近、彼が魔法を放つ前に、掌底を胸に入れる。
彼は吹っ飛び、地面に転がる。
ちょっと強く行き過ぎたか?
彼の魔法の発動はまだ遅い、ならば身体強化を解くべきではない。
相手が身体強化を使えるのなら、このように魔法の発動の前に攻撃を受ける。
魔法は発動できない。
1対1なら、移動しながら、相手の攻撃を回避しつつ、魔法を撃つしかない。
彼は剣と魔法の両方に自信があるようだ。
ならば、その両方を同時に使えないといけない。
まだ未熟なのだろう。
「違う…こんなはずじゃない…まだだ!」
彼はヨロヨロと立ち上がる。
今度は身体強化を使っている。
が、ダメージのためか不安定だ。
うーん…
このまま体術のみで勝てそうだけど、それでいいんだろうか?
彼が袈裟懸けに剣を振る。
やはり動きはぎこちない。
しゃがんで避けて、足を刈る。
彼はまた倒れる。
そして、彼の木刀を踏みつける…
「く、離せ! まだ負けてない!」
何かな。
「くっころ」っぽくてちょっと気持ち悪い…
このネタ、絵里香さんと共有してやろう。
木刀を諦めて、体勢を立て直せばまだ戦えると思うのだけれど、何故それをしないのだろうか?…
風の魔法を木刀に撃つ。
木刀を押さえつけている足と、彼の手の間。
木刀は2つに切れた。
彼の強化は身体まで。
武器を強化していなかった。
それでは魔法で簡単に壊れる。
姉に並びたいのなら息をするように身体強化をできるようにならないといけない。
武器の強化を含めてだ。
「ねえ。まだやる?」
ジェフリーは切れた木刀を呆然と見つめている。
勝負あったかな?
「ルーカス君は思ったよりも強いね」
ビリーは満足そうに頷いている。
ジェフリーが心配ではないのだろうか…
「まあ、こっちは任せてくれ。ジェフリーは何とかしておくよ」
「そうですね。僕からもアドバイスを送らせてください。まず、魔法の発動が遅いです。あれでは実戦で使えません。前衛がいて、時間を稼いでくれるのなら別ですが。次に身体強化を鍛えた方が良いです。強化したまま魔法を打てるようにしないといけない。そうじゃないと剣と魔法を両方使えるなんて自慢できませんよ。最後に、武器の強化がされていませんでした。こちらが武器を持ち、それを強化していた場合、簡単に武器破壊できますよ。総じて鍛錬不足です。姉には全然届きません。姉は僕より全然強いですから」
「あー、ルーカス君、止めを刺さないでもらいたい」
ジェフリーはガックリと肩を落としている。
言い過ぎたかも?
たまにね。
やっちゃうんだ。
思ったことを正直に。
それで、傷つけちゃうこともあるよね…
気を付けないと…
まあさ、現実を正しく認識しないと次に進めないから…
これを彼がどう受け止めて、どう生かすか。
彼次第だ。
…という、ことにしておく。
その後、彼、ジェフリーとは授業で一緒に訓練する仲になった。
実力的にはまだまだだけど、この真面目さは好感が持てる。
高い自尊心が引っ込んだら、案外良い村長になるかもしれないな。
「はい。武器の強化切れてますよ」
容赦なく彼の武器を叩き折る。
ちょっともったいない気がするが、手加減しないでくれと彼に請われているからしょうがない。
「くそっ! もう一度だ」
すごく熱血だ。
僕より主人公気質だよね…
これくらい座学も頑張ってくれると良いのだけれど、そっちは全然だ。
村長になるのなら学も必要なのではないかな?
「ねー。ルーカス君、僕も教えてよ」
僕はクリフ君の担当もしている。
彼は剣ではなくちょっと太めの棒を振っている。
ちょっと不器用で、剣の刃を立てるのが不得意だった。
しかし、単純に怪力だったことが判明した。
身体強化なしに高い筋力を持っている。
それはスゴイ才能だ。
身体強化を鍛えたらすごく強くなりそう。
酪農家に戦闘力が必要かは分からないけど。
ということで、剣ではなく、こん棒系で訓練する。
単純に強力な力で武器を叩きつける。
これは相手としてやりにくい。
下手に武器で受けると、武器が破壊される。
剣のようなおしゃれな武器はちょっと曲がったり、折れたりしたら使い物にならないけれど、単純な鉄の棒ならちょっと曲がったりしたくらいなら戦闘継続できる。
弱点は、例えば魔獣と戦った場合、肉を叩き潰してしまうので、食べる部分が少なくなることだろうか…
あー…大きな弱点ではある。
身体強化も鍛えなくてはならないけど、彼は魔法が苦手だ。
というか基本ができていない。
魔法は両親に少し教えてもらっていただけだという。
そのため、基礎から学びなおしだ。
魔法を感じるところから。
2年計画でじっくりと鍛えていこうと思う。
2年後には巨大な鉄の棒を振り回す純朴な酪農少年が出来上がるかもしれない。
なんかロマンがあるじゃないか。
繰り返しになるが、酪農家に戦闘力が必要かは疑問だ。
しかし、こんな森の中の村なので、狼とかに牛が食べられたとかありそうな話…
あれ?
そんな話を聞いた記憶が無い。
村の周りに魔獣がいるはずなのだけど、どうなっているのだろうか?
まだこの世界の理解が足りないなあ…
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