第14話 7歳、剣と魔法で目立つのは仕様です

翌日の授業は、剣術と魔法。


まずは剣術。

教師は狩人のアランさん。

50歳くらいのベテランだ。

無精髭のカッコよいおじさん。

体もガッチリしていて強そう。

…うん、今の僕より強いよね。

ちょっと安心。

まだまだ、僕は最強じゃない。

ま、7歳児が最強だったら、どうかしているけど。



「では、ルーカスとクリフ。ちょっと木刀を振ってみてくれ。実力をみる」


木刀を軽く振る。

目立つといけないのでほどよく手を抜いてだ。

ゆっくりとね、だけど丁寧に。

やっぱり木刀を振るのは良い。

心が静かになっていく感じが好きだ。


クリフ君は不器用そうに振っている。

だけど剣の速度は速い。

迫力がある。

もしかしたら、腕力が強いかもしれない。

筋力強化型かな?


「ふむ。なるほど、ウィリアムの息子、イザベルの弟といったところか…クリフは基本からだな」


アランさんは無精髭をジョリジョリ触りながら、頷く。


「僕はどうしたらよいでしょうか。クリフ君と素振りですか」


素振りやっているだけでいいんだよね。

あまり目立ちたくないし。

ゆっくりやったとしても、剣の修行にはなる。


「いや、ルーカスは基礎ができている。素振りでもいいが、適当にその辺の相手と手合わせして、実践を学んでもいいな」


その辺の相手?

姉とはいつもやっているのでパス!

こっちを見ているけど、断固パス!


狩人の息子、ブライアンさんだろうかな?

どのくらいの腕だろう?

ちょっと興味がある。

ちなみにブライアンさんは別の狩人グレッグさんの息子だ。

アランさんとは血のつながりはない。

やっぱり狩人を目指しているのだろうか?



「俺とやろうぜ!」


ああ、ここでね…

声をかけてきたのは村長の息子、ジェフリーだ。

顔がニヤけている。

あれだな、新入りに実力を見せつけてやろうというってやつだ。

よくある話、よくある話。

しかし、返り討ちにあうのもまたよくある話なんだよね…

まずは自分の実力、相手の実力を把握できるくらいに強くならないとダメだよ。

無理な相手につっかかって怪我をするだけだ。

いや、僕はそれほど無茶はしないよ。



「ジェフリーとか。まあ、いいだろう。ルーカス、やってみろ」


そうですか…

やりますか…

先生からのお達しなので、逃げられない。

昨日は少しチート気味だったので、今日は大人しくしておこうと思っていたのだけれど…


さて、どうしようか?

負けて、下に見られるのもちょっとイヤ。

パシリとかにさせられそう。

…うん、ここは負けず、勝たずで、引き分け狙いで行こう!


「はい。よろしくお願いします」


お互い木刀を持つ。

お互い礼をして、手合わせ開始だ。

お辞儀とか、日本文化が入っているような。

異世界転生者・召喚者の影響があるのだろうか?



…なるほど。

対峙してみてハッキリわかる。

彼は弱い!

構えで分かる。

無駄な所に力の入っていて、構えも不自然。

もしかしたら、学生の中では上位かもしれないけれど、姉、さらには僕にもだいぶ届かない…


彼が身体強化を使う。

ダメ、ぎこちない。

遅い。

ダメダメだ!


木刀の強化もできていない…


まあ一応身体強化を使っているので、僕の方も身体強化し、準備する。

たぶん、強化しないでも避けられるし、負けないと思う。

念のため。


「しゃ!」


気合一閃、ジェフリーが切り込んでくる。

走りからの、剣での攻撃のつなぎがバラバラ!

流れが途切れてる。


単純な上段から振り下ろす唐竹割り。

それを木刀で受ける。

攻撃が受けられるとは思わなかったのか、彼は驚いた表情をする。

彼は一度距離を取り、再度攻撃してくる。

それを受け止める。

特に問題はない。

脅威もない。

姉と比べると彼の動きはすべて遅い。

力も弱い。

総合するとだいぶ弱い。

いつも姉の相手をしている僕にはぬるい攻撃だ。

届くことはない。

負けることはない。


良くこれで自信満々だなあ……

姉と組み手とかしてないのかなあ?

やっていたら自分との実力差が分かるはずだけど?


しばらく攻撃をよけていると、彼の動きが急に遅くなった。

…身体強化切れだ。


「そこまで!」


先生の合図。

よし…一応引き分け?


ジェフリーは肩で息をしている。

顔色も悪い。

酸欠、および、魔力切れだな。

持久力の鍛え方もまだまだ。

僕なんて剣術のおじいちゃんに永遠走らされているけど。

君もそれくらい訓練してから、僕にちょっかいを出してほしい。

結構大変なんだから!


「やっぱり、ジェフリーじゃ、ルーカスには勝てないか。ルーカスは攻撃をしていなかった。手を抜いていたのが減点だ」


って、先生も、実力差が分かっていてやらせたのかい!

ジェフリーの鼻っ柱を折りたかったのかもしれない。

上手く使われているような気がする…


…しかし、手を抜いているのはバレバレか。

もう少しうまくやらないといけないなあ。

僕、演技が下手なのかな?

前世から、自分の感情を外に出さないことはうまいと思っていたんだけど……



姉はちょっと不満そうかな。

ジェフリー相手だと圧勝を期待していたのかもしれない。

そうはいかない。

目立ちすぎはしない!


「ルーカス君、すごい。強い! 動きがキレイ!」


クリフ君は興奮している。

大喜びだ…

あまりジェフリーを煽らないで欲しい。

関係が悪化するかもでしょ!


「お、クリフ。分かるか? ルーカスは動きがキレイなんだ。ゆっくりに見えて早い。弱そうで強い!」


姉も大喜びでクリフと語り合ている。

恥ずかしい…

ほら、ジェフリーが暗い目でこっちを見ているじゃないか。

ちょっと怖い。

あとで何かあるかもしれないな…


しかし、弱そうって…

僕ってそう思われているのかな…

ちょっと落ち込む…


強そうに見られたくない。

しかし、弱そうにも見られたくもない。

ちょっと男としてのプライドってものがあったりする。

大概、プライドってものはマイナスな作用しかしないんだけどさ。

ジェフリーみたいに。

いらないって分かってても無くせないのが男のプライドか…



その後は、大人しくクリフ君に付き合って素振りをしていた。


「基本が大切だ。基本が始まりで、基本には終わりがない。基本を究めることが剣を究めること。最強の道への最短の道だ」


これが剣のおじいちゃんの口癖。

女性の尻を追っかけてばかりなのに、剣に対しては真摯だ。

剣だけなら尊敬できる人物なのにね…



次の授業は魔法だ。

教師は、ジェマおばさん。

40代くらいの女性だ。

小柄で小太り。

意志の強そうな灰色の瞳の女性だ。


「はい。新人さんが二人ね。クリフ君。魔法は初めてかしらね。それとルーカス君。君はエリカ先生の弟子よね。それじゃ私が教える必要ないんじゃないかしら?」


「…そうかも、しれません…」


「私はエリカ先生の教え子よ。だから、君は弟弟子ね!」


ここでも目立ちたくはなかったんだけど、ダメだったようです…

クリフ君が「すごい」って顔で見ている。

ジェフリーには睨まられる…


「魔法はどこまで学んだのかしら」


「初級は一通り、中級を少々」


「属性は?」


「風が得意です」


僕は土水火風光の魔法を使えるけれど、風が得意だ。

嘘は言っていないねよ。


「なるほど、なるほど。それじゃ、魔法は卒業でいいわね!」


いいんだけど!

確かに、絵里香さんのところで勉強しているからいいんだけど!

なんか違うんだよね。


そんなに簡単に卒業でいいの?


前世の日本の学校制度との違いで違和感があるのだろうか?

あれは小学6年、中学3年が強制だった。

全生徒を一緒にある程度のレベルまで引き上げるのが目的で、個人の進捗には関係がなかった。

教師の数が少なくてクラス一律の授業しかできなかったのかもだけど。

生まれ変わったのだから、学生生活もう少し前世よりうまくやろうって思いがあったのだけど、この村の学校はちょっとイメージが違う。

他の転生もののように王都の魔法学校とかに入学すればできるのだろうか?

学園ライフ!

あれはチートだから村総出で魔法学校に入学させてもらうんだよね。

そして王族とかと知り合って、魔族との戦争もしくは他国との戦争に巻き込まれていく…

…うん、僕は村でいいや。

安全に幸せに生活を送ろう。



「先生」


ジェフリーが挙手する。


「失礼なようですが、ルーカス君が本当にそのレベルか確認する必要があると思います」


「ん? ルーカス君が嘘を言っているというのかな?」


「そういうことではないんですが、確認しないと…」


ジェマ先生が困った子ね、という顔をしている。


しかし、ジェフリー。

なかなかに骨がある子供かもしれない。

ついさっき、剣で負けたばかりなのに、今度は魔法の授業でちょっかいを出してくる。

もしかしたら、魔法の方が自信があるのか?

それほど高い魔力でないと思うけど…


「ま、いいわね。じゃあ、新人さんの実力を確認しましょう。その方が今後の勉強も効率的にできるでしょう。じゃ、みんな外に集合!」


で、生徒全員で校庭に集合する。

魔法の訓練場らしい。

前方に数本丸太が立っており、そこに的を書いた板が打ち付けてある。

あれに魔法を打ち込むのだろう。

よく転生者が豪快に破壊して、他の生徒を唖然とさせるやつだね。


そうだね…

どの程度がこの世界の標準かが知りたい。

それに合わせて魔法を調整しよう。

なるべく目立たないようにだ!


「では、ルーカス君、クリフ君、あの的に魔法を撃ってみて! 何でもよいわ」


「はい、先生! 誰かに手本を見せてもらいたいです」


「じゃあ、言い出しっぺのジェフリー君お願いね!」


「はい。先生」


ジェフリー君が自信満々に出てくる。

ゆっくりと勿体つけるように…

そして、手を前方に出す。

魔力を練り、魔力が手に集まる。

魔法陣が出現し、魔法の火の矢が出現し的目がけて飛ぶ。


まあ、ちゃんと発動できているね。


あれ?

火の矢が的にあたる瞬間に、消えた?

ああ…

的に何かの魔法がかかっていそう。

魔法が吸収されたように見える。

なるほど、魔法の訓練で毎回的が壊れたら面倒くさいからね。

結構高度な技術じゃないだろうか?


さて…彼がドヤ顔でこっちを見ている。

「君にできるかな」ってことだろう。


うーん…どの程度の魔法を使えばよいのか、難しい。

同程度の魔力を使って、同程度の大きさの魔法の矢を、同程度の速度で打ち出す。

結構制御が難しいかも。


「やり方はわかったわね。じゃあ、クリフ君、やってみて!」


「は、はい…」


クリフ君は緊張気味に出てきて、魔法を撃つ。

魔法発動までに時間がかかって、戦闘ではまだ使えないレベル。

魔法で拳大の水の球ができて、的に向かう。

スピードは遅く、途中で落ちそうだ。

それでも何とか的まで飛んで魔法が消える。

ジェフリーのと比べると明らかに弱い。

きっと魔力の制御が拙いからだ。

出現した魔法陣が薄い。

魔法のイメージが弱いのかもしれない。

それでも、魔法が正常に発動しからだろう、クリフ君はホッとした顔で戻ってくる。


魔法、苦手なのかなクリフ君?



「次はルーカス君ね」


「はい」


前に出る。

的の方に手を差し出す。


ここだぞ、ルーカス!

慎重にだ。

慎重に、魔力の量を間違わないように、大きさを間違わないように、スピードを間違わないように、魔法を発動する。

出現した風の矢(風は見えないが魔法が発動したかを分かるために緑色の矢が形成されるのかもしれない)が的に飛ぶ。


よし!

大きさ、スピードはジェフリーと同程度だ!

魔法の矢は的に接近し、的にかけられた魔法に吸収…されずに貫いた……


あれ?

何故?


「はい。しっかり魔法が発動していますね。ずいぶん魔法の変換効率が良いですね! さすがはエリカさんに教わっているだけあります。合格ラインである『的に魔法をあてる』をクリアしています!」


…あ、そっか。


魔力の変換効率か…

魔力を効率的に無駄なく魔法に変換したんだね。

魔法の密度が高くて、威力が全然違ったんだね…

そりゃ、赤ん坊のころから魔法制御を鍛えているんだから、普通の人よりうまいはずだ。


うん、失敗した…

だけど、的に魔法を当てて、魔法の授業をクリアしただけだ。

初めから分かっていたレベルを証明しただけだ。

問題ない…はず?


「その歳で『的を壊す』までできるとは驚きです!」


「え、『的を壊す』のが魔法の授業の最終試験ですよね?」


「いいえ。『的に魔法を当てる』レベルが終了条件です! 的自体にも魔法防御が施されています。『的を壊す』ことができるのはこの村でも片手の人数くらいでしょうかね」


…ソウナンデスネ。


僕の魔法は予想以上に強くなっていたようです。

手加減して撃った魔法が村の上位でした。

やっぱり精霊との契約のせいかなあ?…

…ちょっと失敗。

けど、まだ村の上位レベルだ。

国になったら、村の上位レベルなんて、掃いて捨てるほどいるだろう。

問題はない…と思われる。


誰かが言っていたっけ。

やって失敗した後悔より、やらなかった後悔のほうがより後に残るって。

これはやって失敗した後悔だと思う。

だから、将来たまに思い出してちょっと叫びたい気持ちになるくらいで済むだろう。

きっとね…


ああ…

姉とクリフ君が一緒に喜んでいるね。

いつの間に仲良くなったんだか。


もういいや…

魔法の授業は隅っこの方でクリフ君に魔法を教えて大人しくしていよう。

これ以上失敗しないように。

…ちょっとクリフ君に失礼?

普通に彼に魔法を教えよう。

すぐに卒業レベルまでもっていってやる!



ちなみに、この学校の授業終了だけど、教科の終了条件をクリアする必要はないらしい。

この授業が自分に必要がないと思ったら授業をとる必要はないとのこと。

学ぶ機会は平等に与えるけれど、それを受け取るかは本人の自由とのこと。

厳しいものだ…

まだまだ子供なのにその判断を任せるなんて。

前の世界だとまだ早いとか問題になりそうだな。



まあ、この世界は色々と厳しい。

魔獣がいて、医療技術も低くて…まあ、僕は光の回復魔法が有るから良いけど。

厳し世界ではあるけど、頑張れば、そこそこ生きていけると思う。

世間の変化が緩やかだから、将来の予測がなんとなくできる。

両親の背中を見ると、なんとなくそこに自分の未来が見えたり、見えなかったり。

将来が全然想像できないとすごく不安だけど、なんとなく分かるから不安が少ない。


…ああ、そうだ。

魔王の侵略とか、そういうイベントが発生する可能性があるんだった…


こんな辺境の村は巻き込まれない、そう願います。

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