第13話 7歳、初めての学校、友達できるかな?

春。

雪が解けて、虫が起き出し、鳥がさえずり、花が咲き始める。

残念なのは「桜」がないことだ。

あの淡い色の花びらが一斉に散り落ちる、桜吹雪。

あれは見事だよね。

また、見ることができたら…きっと、叶わないけれど。


この世界、良かったことの一つ。

花粉症が無いこと。

前世は花粉症がひどかった。

花粉の季節はほとんど外出を控えていた。

ここでは杉、檜が少ないのか、花粉症という病気を聞いたこともない。

これはすごくうれしい。


花粉症。

一年の2か月程度、体調不良になる。

12か月しかないのに、6分の1だよ。

すごい経済損失だ。

国民病ともいえる。


まあ、とにかく、雪が解けて、世界が起き始める感じ。

大きく深呼吸する。

ああ、気持ちがいい。



……春。

卒業の季節、入学の季節。

何かが終わり、何かが始まる予感な季節。

7歳の春。


この村でも、学校に行く年齢だ。

僕はこの春から学校に行くことになる。


今朝、両親に見送られて初めての学校に向かう。

姉と一緒なので、新しいところに行く不安が少し和らぐ。

けど、やっぱりちょっと緊張している…


新しい所、新しい人に会うのは苦手だ…

新しい人間関係を築くのはとても大変なことだと思う。

失敗したらどうしよう…


あれだ。

前世での新しい学年になって新しいクラスになって、初めての自己紹介…

あれね…苦手…

何言えばいいの?

僕の特徴って何さ?

趣味と言えるまで熱中してることなんて無いよなあ。

嫌な思い出……

ちょっと胃が痛い…



ちなみに7歳児のステータスは。

 体力: 700

 力: 300

 素早さ:350

 魔力: 4200


うん。

ずいぶん成長したものだ。

やっぱり魔力が突出している。

これは精霊のおかげ。

有難いことだ。

しかし、いまだ他の人のステータスが見えず…

この数体が良いんだか、どうだか?

学校に行けば何となく自分と他の子供のレベル差ってのが分かるかもしれない。



「…ルーカス、行く」


姉と手をつないで歩く。

僕より大きな手、大きな体…

きっと数年で追いつくと思うけれども、今は頼もしく思う。


たぶん姉はゆっくりと歩いてくれている。

たぶんというのは、それでも歩くスピードが早いからだ。

彼女の身体能力が高いため、ゆっくりと歩いているつもりでも、7歳の僕にはつらい。

いや、僕がギリギリついていけるので自分のスピードが早いことに気づいていないだけかもしれない。

よくよく見ると、優しい姉なので。


姉は3歳年上なので、学校は4年目になる。

今年あたり卒業するかもしれないな…


学校は7歳からになるが、卒業はその子供の進捗状況次第になっている。

基礎的なものが習得できれば卒業してもよいし、さらに残ってもよい。

とはいえ、村の子供は家の手伝いで忙しい。

基本、だいたい卒業のレベルに達したら卒業していく。

子供が忙しいので、学校の授業も、午前中の2時間だけだ。

前世の学校と比べればずいぶん時間が少ない。

学ぶことも本当に基礎的なところだけなのだろう。

それ以上のことを学びたいのなら各自でということになる。

もしくは街の学校に行くとか…聞いたことないけど。



教科は、読み書き・算数・歴史・剣術・魔法の5つだ。

読み書き・算数に一番力を入れている。

確かに生きていくうえで必要なものなので納得だ。

意外なことに宗教がない。

この世界には神が実際にいるのだから、宗教が強いと思うのだけれど、どうなっているのだろうか?

僕の家は農業の神を崇めているらしい。

農家だけに。

だけど村に教会はない。

異世界物だと教会って怪しくって、イロイロやらかすんだけどね…


で、教える側は、年齢で仕事を終えた人や、商売の合間に手伝ってくれる人。

善意で成り立っている。

子供の教育が村の存続に重要との認識らしい。

素晴らしい!

子供の教育を疎かにしたら、村の将来が無い。



…学校に到着した。


平屋の建物で、隣に小さな庭がある。

シンボルツリーだろうか立派な木が生えている。


校舎はこじんまりとしており、教室は一つのみ。

年齢の違う生徒全員がここで授業を受ける。

各人の進捗が違うので、同じレベルの授業をできない。

そのため、各人に合った課題を出して、分からないことは聞く進め方で行っているらしい。

前世の「9モン」みたいだ。

教えやすいように同じ年齢の子供は大体かたまって座る。

僕の隣には新入生の男の子が一人。

痩せていて、小さい子供だ。

可愛い男の子だ。


「僕はルーカス。農家の息子だよ」


「ぼ、僕は、クリフ。家は牛と羊を飼っているんだ」


彼はちょっと緊張しているようだ。

僕より緊張している子供をみると、僕の緊張が少しとれる。

僕は前世での年齢もあるし、純粋な子供じゃないしね。


彼の家は、酪農家だろうか。

同じ一次産業、食糧生産系の家みたいだ。

親近感がわくね。


「よろしくね」


「うん」


握手をしたら、もう友達だ。

うん。

僕は人付き合いは苦手だけれど、この子とは仲良くなれそう。

良かった。

学校でボッチは回避できそう…



生徒は全部で14名。

少ない。

僕と同級生はクリフ君だけ。

過疎化の村って感じだ。

人数も少ないから、その分ちょっと気楽。

少ない人数の学校で、イジメとかあったら大変だろうな…

でも、人数が少ないってことは、教師に対する子供の割合が少ないってことで、教師の目が行き届くんじゃないだろうか?

まあ、うちは姉がいるので大丈夫な気がする。


姉は明らかに強い。

生徒を見渡してみてたが、姉より強そうな子供はいないと思う。

姉より年上の男の子もいて、体も大きいのだけれど、怖さがない。

姉を前にしたときみたいな恐怖がない。

姉はどれだけ迫力があるんだってことになるけどね…



さて、この日は読み書きと、算数の勉強だ。

読み書きの教師はおじいちゃん先生、算数の教師は商人のおじちゃん先生だった。

商人の先生は店を奥さんに任せて教えにきてくれているらしい。

ありがたいことだ。


僕は読み書きはすでに完了している。

この世界、暇なので、本を読み漁っていた。

漫画もゲームもインターネットもなくて、子供は体を動かして遊ぶか、人形遊びくらいだし。

読書くらいかしやることがなかった。

…ということで、ちょいちょいとテストをして、学校の合格レベルに達していることを確認した。


合格がでている生徒は、他の生徒を教える教師側になる。

教師の数が少ないのと、生徒のレベルがマチマチなので、生徒同士の教え合いが必要になる。


とうことで、隣のクリフ君に教えることになった。

彼も歳が近い僕に教わった方が、緊張しないで良いかも。


彼は、今まで実家の手伝いが多かったらしく、ほとんど勉強はしてこなかったとのことだ。

文字は自宅での学習で少し勉強していたらしいが、全部は覚えていない。

まずはそこからだ。

繰り返し書いて、声を出して読んで覚える。

繰り返し、繰り返し、頭に刻んでいく。

これが一番かなあ?

面白くはないなあ……

子供用の読み物があればいいんだけど。

そんな親切な物ないんだよね…

作る?

やりすぎか…



算数の授業も同じだ。

前世の知識があれば、問題なかった。

簡単な加減乗除ができれが合格ライン。

こちらも、クリフ君の教師役となる。


入学してすぐ卒業レベルってチートぽくて、目立ってしまう…

ちょっと嫌なんだけど、今更簡単な授業を習うのも無駄だし、他の生徒と仲良くなることも大事からだから、多少目立つのはしょうがないという判断だ。


「ルーカス君、すごいね。もう、読み書きも、算数もできるんだ」


「うん。自宅で勉強していたから。クリフ君も、少し勉強すればこのくらいは分かるようになるよ」


「そうかな。僕、算数苦手かも…」


クリフ君は数字は覚えている。

物を数えることはできるようだ。

実家が酪農なので、動物の数を数えることはしているらしい。

ただ、計算は難しそう。

手の指を使って、懸命に計算をしている。


「慣れだと思うよ。問題の数をこなしていけば、覚えられるよ」


「うん。やってみるよ……」


ちなみに、姉は掛け算で苦戦しているようだ。

頭を抱えながら唸っている。

今日は、読み書き、算数と座学だけなので、姉は体が動かせないので、不満かと思ったけど、案外頑張っている。

実際、真面目だよね。

ちょっと力加減が分からないだけで。

…その力加減ができないことで、僕がどれほど苦労してきたか…

マイナス点が大きすぎる…



はて?

視線を感じる…


僕はこれでも、少し気配を感じられるようになっている。

剣術の稽古のおかげ。

ちょっとだけ強くなったのだと思う。

努力の甲斐があるというものだ。


で、この視線の方向は…たぶん、村長の息子 ジェフリーかな?

ちょっとヤンチャで、森とか入っちゃう子。

…目をつけられたかな?

自尊心強そうだし。

自分より優秀そうな子供が気に入らないかな?

街にいけば優秀な子供なんていっぱいいるだろうに、ね。


彼はまだ、小さいグループしか知らないからね。

そこでの順位にこだわるのかな?

大人になれば意味ないのに…


井の中の蛙大海を知らずってやつだよね。

まあ、この村の中だけで人生を終えるのなら、それでもいいのかな?



それはそれとして、ちょっと目立ちすぎただろうか?

今後は気を付けようと思う。



学校の帰り道。

姉と一緒だ。

帰り道は、行きと違って気が楽だ。

学校は…まあ、クリフ君という友達もできたし、何とかなる気がする。


「…ルーカス、ずるい。算数の授業、終わって」


「僕はクリフ君に教えているよ。遊んでるわけじゃないよ」


「…ずるい」


姉はふくれっ面。

本当に計算が苦手なようだ。

掛け算ね…

あれは理屈を理解して、後は体に染み込ませるしかないかな…

ガンバレ!


「そういえば、村長の息子さんいるけど、強い?」


「…ジェフリー? 弱い…ブライアンより弱い」


ブライアンというのは狩人のグレッグさんの息子さん。

12歳。

学校の最年長だ。

強さは、姉 > ブライアン > ジェフリー ということだろう。


しかし、姉に弱いって断言されるジェフリーもちょっと可哀そう?

まあ、実力は正確に把握しないといけないか…

姉はその辺シビアだよね。

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