第8話 5歳児は魔法の師匠を得た、そしてバレる
季節は移り、秋になった。
実りの秋、読書の秋、スポーツの秋である。
この世界にスポーツはあるのだろうか?
少なくとも村では見たことがない。
太陽の光は柔らかくなり、過ごしやすい季節だ。
前世と同様、四季のある地域だ。
とても嬉しい。
僕は恵まれている?
そこはちょっとだけ神様に感謝だ。
もし生まれたのが北の果てで、一年のほとんどを雪で覆われた土地だったら?
……うーん、それはそれで、そこで暮らしている人もいるんだし、なんとかなるかも。
畑にはサツマイモとかが収穫時期を迎え、栗やリンゴが大きな実をつけている。
砂糖が高価なので、甘みのある果物、野菜は大変助かる。
子供は大喜び、女性も大喜び、僕も好き。
トウモロコシが穫れたので、家にリネットとスージーを呼んで、茹でトウモロコシを食べた。
甘くてプリプリで美味しい。
二人も大満足だった。
母さんは初めて息子が友達を呼んできたことに喜んでいた。
どっちがルーカスのお嫁さんになる?と、気の早いことを言っていた。
さすがにこの年齢で未来のお嫁さんを決められるのは厳しい。
農作物の収穫は忙しいので、家族で手伝う。
僕はまだ体は小さいが、剣の修行により体力は増し、魔力による身体強化があるため、結構戦力になっている。
もちろん姉も体力自慢。
母も結構体力あるよね……
接近戦闘もイケる派?
家族が仲がよくて本当に嬉しい。
ちょっと貧乏でも、家族仲がよい方が嬉しい。
収穫はつつがなく終わる。
あとは冬支度かな。
ちなみに剣の修行は順調だ。
これは師匠が優秀なためだと思う。
性格はあれだが、剣の腕は確かだ。
たまに姉に捕まり、剣の稽古になるが、以前ほど遅れを取らない。
師匠に感謝だ。
ただ師匠は相変わらず、女性の尻を追いかけている。
相手にはされない。
あの年齢でその積極性だけは尊敬に値するけれど、それだけだ。
剣の師匠のこと。
師匠の家族は村にいない。
子供もいない。
あんなに女性好きなのにどうしてだろう?
やっぱりモテなかったのかな……
それとも一人の女性に捕まるのが嫌で、街ごとに恋人がいて系だったり。
まあ、失礼なので聞けない。
そして、師匠のことなので割とどうでもいい。
剣に比べて、進展が少ないのが魔法の方……
家には初級の魔法書があったが、中級以上の魔法書がなかった。
たぶんそれは高価なのだろう。
初級の魔法はすべて覚えてしまっているので、中級へと進みたいのだが、それができない。
そして魔法は独学だと難しく、やはり、誰かに教えてもらうのがよいと思うようになる。
ふむ、母さんに相談してみよう。
母さんは家で一番の魔法使いだ。
水も魔法で出すし、風も使って洗濯物を早く乾かしたりしている。
だけど一番の得意は火魔法じゃないかと思っている。
怒ると周囲に炎が現れる。
無意識に発動させているのじゃないか……
怒らせない方がよい。
最近、なんとなく魔力の強い弱いがわかるようになった。
たぶん、魔力はパパよりママのほうが高い。
ママは今の僕の魔力と同じくらいなのではなかろうか。
僕の魔力は普通の主婦と同じくらい?
ちょっとホッとする。
まだ大丈夫、普通の人の範囲内だ。
母さんは台所で栗を剥いている。
お姉ちゃんも珍しくお手伝いをしている。
母さんはきれいに栗を剥いているが、お姉ちゃんのほうは実がだいぶ小さくなっている。
栗を剥くのって面倒で大変なんだよね。
すごく時間がかかる。
でも美味しい。
後で、僕も手伝おう。
「ママ、僕、魔法を習いたい」
「ん? どうしたの、ルーカス。魔法の本、一生懸命に読んでたじゃない。わからないところがあるの?」
「んーん。本は読み終わったの。中級の魔法が習いたいの」
母さんは少しびっくりした顔をする。
しまった、五歳で初級の魔法を終了するのは早かったのか……
「そう、凄いじゃないの。見せてもらっていい?」
まあ、五歳児がいきなり初級魔法を全て覚えたって言ったら信じないよね。
僕は水の魔法で水の球を出し、宙に浮かべる。
それを流しに飛ばし、リリース、下水に流す。
床は濡らすと母さんに怒られそうなので。
母さんはちょっと驚いていたが、満足そうに頷いた。
お姉ちゃんはびっくりしている。
彼女が魔法が苦手なことを知っている。
身体強化は天才的に得意なのだけど、魔法陣を覚えるとか苦手みたいだ。
ま、一つお姉ちゃんに勝つところがあるってことはよかった。
自信になる。
「ルーカスは魔法が得意みたいね。うん、ちょっと知り合いに頼んでみるわね」
「やった!」
これで中級以上の魔法を覚えることができる!
通常、なろう系では初級ではまともに魔物に勝てないことになっている。
初級魔法しか使えない現地人と極大魔法が使える主人公たちという構図だ。
いや、一部初級魔法しか使えないが、膨大な魔力のゴリ押し系もあるか……
まあ、いろいろな魔法が使えるに越したことはない。
早速、翌日、母さんに連れられて、その家へ。
こぢんまりとしていたが、庭には花が咲き誇り、甘い香りがしている。
この香りは知っている。
たぶん金木犀だ。
秋の匂いがする。
ちょっと懐かしさを感じる。
『ふーん……ここのおばあちゃんか』
風の精霊、エイリアナが僕の周りをふわふわついてきている。
今日は暇らしい。
どうも、ここの主人を知っているみたいだ。
『この村でルーカスより魔力が高い一人だよ』
さすがは魔法の先生!
精霊と契約して魔力が増えてしまっている僕よりも魔力が高いとは。
うーん、街にいけば僕くらいは普通にいるかな?
村に三人いるとして、街に村の人口の十倍いるとして、三十人程度?
なかなか凄いな、異世界。
そして、僕はまだまだってことだ。
『私はこの辺にしかいたことがないからわかんないけど。この家はいつも花が咲いていて、何となく気持ちがいいんだ。たまに来るわ』
「ここのご主人は精霊使いではないの?」
『うーん、精霊を何となく感じる程度かも。見えていないとは思うよ』
エイリアナが以前言っていたより精霊使いは少ないのかもしれないな。
「ごめんください。マイラです」
「あら、マイラちゃん。お久しぶり。庭にいるから入っておいで」
ママが声をかけると、屋敷から優しそうな声が答えた。
庭には安楽椅子が置いてあり、これまた優しそうなおばあちゃんが座って、編み物をしていた。
年齢は八十代だろうか。
髪の毛は全て白髪になっている。
可愛らしいおばあちゃんだ。
若いころはとても綺麗だっただろう。
うん、「若いころ」って言葉は口に出したら失礼だな。
気をつけよう。
「お久しぶりです、エリカ先生。あまり顔を見せられずに申し訳ありません。これはウチで採れたサツマイモと玉ねぎです」
お土産が生活感あふれるところが村って感じ。
「あらあら、気を使わせてしまって。マイラちゃんとこのお野菜は好きよ。ありがとうね。それで今日はどうしたのかしら?」
「この子なんですけれど……」
おばあちゃんが僕を見つめる。
優しい眼差しだけど、見透かされているような感じがする。
長い人生を生きて、培ってきた眼力のような……
ちょっと怖い。
「あら、マイラちゃんの息子さんかしら。目元がそっくりね」
「はい、息子のルーカスです。ほら挨拶なさい」
「ルーカスです。よろしくお願いします」
頭を下げる。
「素直そうな、いい子じゃない。魔力も高そうね」
凄いな、見るだけでわかるんだ。
一応隠しているつもりなんだけど。
……もっと魔力を隠す訓練の必要がありそう。
『ある程度の魔法使いになれば、相手の魔力を測れるのよ。普通相手は実力を隠しているから、その上で相手の実力がわかるようになることが重要ね。剣の修行と同じ』
風の精霊が僕の肩に腰かけておばあちゃんをじっと見ている。
『やっぱり、このおばあちゃん、ルーカスよりも魔力高い。村一番の魔法使いだと思うよ』
「ん、学校の先生は?」
『ちょっと見たことあるけど、ルーカスより魔力はないわよ。このおばあちゃんのほうが一枚も二枚も上手じゃないかな』
「ふーん、先生を見に行ったんだ。もしかして、僕が魔法に興味があったから、学校でどんなことしてるか確認してくれたの?」
『たまたまよ! 風はどこにでも行けるんだから!』
怒ったふりをして、ふいっと窓から出て行ってしまった。
照れたのだろうか?
ちょっと可愛い。
さて、村一番の魔法使いが師匠になってくれるなら、これほど望ましいことはない!
一生懸命アピールしようと思う。
「僕、魔法がうまくなりたいです。一生懸命頑張りますので、どうか教えてください。お願いします」
「そうね……初級魔法は覚えているのかしら?」
「はい。初級魔法入門を読みました。全部覚えています!」
「あら、そう。全部使えるのね……」
おばあちゃんは優しく微笑む。
大丈夫だろうか。
何か受け答えを間違えてない?
途端に不安になる。
前世でも、面談は苦手だった。
就職試験ではガチガチに緊張したし、それが原因かはわからないけど、何社も落ちて、トラウマになっているほど。
もうちょっとうまく自分をアピールできたら、あんな会社に入らないで、楽しく仕事ができて、死んでなくて、ここにはいなかったのかな?
たらればを言ってもきりがない。
今できることをやるしかないよね。
「うん。いいでしょう。私が面倒見ます」
よし!
おばあちゃんは引き受けてくれた。
よかった!
これで魔法を学べる。
頑張ろう!
今までは風の精霊に簡単な概要を教えてもらい、初級魔法入門を読んで、独学で頑張っていた。
パパはあまり魔法を使えなさそうだったし、ママは魔法を使えそうだったけど、僕にはまだ早いって立場だったからね。
独学では限界を感じていたところだった。
これで次のステップに進める。
翌日、畑の仕事の手伝いを終え、おばあちゃんに魔法を教わりに行く。
本日は剣の修行はお休みの日だ。
おばあちゃんはハーブティーを淹れて待ってくれていた。
華やかな香りがする。
ハーブティーって味はほとんどない、香りだけ。
だけどその香りでほっこりとする。
前世では飲まなかったけど、今は結構好き。
「ねえ、君。転生者でしょ?」
おばあちゃんの爆弾発言!
思わず、紅茶を吹き出してしまった。
……何でわかった?
「大変! これで拭いて」
布巾をもらい、口を拭う。
幸いお茶請けのクッキーに被害はなかった。
よかった。
……いや、そうじゃなくて、何でわかった?
「私はね、召喚者。異世界召喚された人なのよ」
おばあちゃんの爆弾発言その二!
召喚者?
生きたままこの世界に連れてこられた人のこと?
勇者召喚とか、そういうの?
「…なんで…僕が転生者ってわかったの?」
「君ね……4属性の魔法を使えて、高い魔力。そして決め手はその歳でその落ち着きかな。普通の子供に見えないわ。演技がヘタクソね」
演技がヘタクソって……
すっごい凹む。
家族には何も言われないんだけどな。
しかし、すっかりバレている。
4属性の魔法使えるのって普通じゃなかったのか?
初級魔法書にはそんな制限は書かれてなかったはず……
手抜きか魔法書!
決して僕が読み逃したってことじゃないはず、たぶん。
まあ、落ち着け、落ち着け。
おばあちゃんは笑っている。
お茶を一口飲む。
香りを楽しむ。
やっぱりハーブティーはよい。
体に力が入っているかをチェックしていく。
顔が強張っている。
こめかみに力が入っている。
力をゆっくり抜いてく。
呼吸をゆっくりとする。
……よし!
ちょっと落ち着いた。
「僕が転生者ってのは、そうだよ」
「やっぱり!」
「僕が『転生者』だとして、問題になる?」
「『転生者』はチョコチョコいるからそれほど問題ではないかもしれないわね。でも、珍しいから隠しておいたほうが平和かな」
やっぱり隠した方がいいらしい。
先輩のアドバイス、ありがたい。
あの神様は異世界、もしかしたら主に『日本』から、ちょこちょこ『転生』させている?
衝撃の事実だ……
何のためなのだろうか?
『召喚者』もいるということだから、『勇者』とかはそっちだと思う。
僕にもあまりやってほしいことは言わなかったし、ここは魔王に侵略されている国って感じもしない。
あまり意味はないのか?
神の気まぐれ?
おばあちゃんは僕が『転生者』だということは公表しないと約束してくれた。
感謝!
僕が他の人に言わなければ大事にはならない。
僕が目指しているのは普通の人生を送ること。
そして幸せになること。
有名になるとか、世界を救うとか、そんなことは考えていない。
目指せザ平凡だ。
冷静に考えて、僕の事情を知る人がいるということはよいことではないだろうか?
味方になってくれるかもしれない。
優しそうな人だし。
いろいろと僕のしらない情報を知っているだろう。
うん、きっとよいことだ!
まず一番の興味は『召喚』だ。
聞いてみる。
「ねえ、師匠のこと聞きたい。召喚者って本当?」
「そうよ。私は高校生の時に召喚されてね。もう60年以上前の話になるわね」
「世界は同じ?」
「『日本』よ」
「僕も『日本』」
……日本ね。
ただ『日本』だとしても、同じ『日本』とは限らない。
『異世界』があるということは『並行世界』もある可能性がある。
似て非なる世界からの召喚かもしれない。
いや、その違いは問題にならないか。
似ていれば、『日本』なら、あまり細かい違いに意味はないかもしれない。
元の世界に戻れるわけじゃないし。
もし、おばあちゃんの世界に僕がいなくても、この世界では影響はない。
「じゃあ、師匠って……」
「師匠ってやめようか。同じ転生者だし、絵里香でいいわ」
「うん。……絵里香さんって勇者?」
「そうね……私はちょっと違うけれど、似たようなものかな。相手は一応魔王ってことになっているけど、一般的なヤツよりもうちょっと小物だったかな」
「倒したの?」
「倒したわよ。結構強かったんだから。怖かったわよ。でも何とか勝てて、ここにいるのよ」
絵里香さんは懐かしそうに目を細めた。
魔王みたいな魔物?と戦ったのなら、相当大変な戦闘だっただろう。
きっと死ぬかもしれない場面だって何度もあったはずだ。
もしかしたら仲間の何人かが死んだり……
それが一緒に召喚された友達だったら……
『召喚』はそれまで普通に平和に生活していた高校生が、急に魔物と命を懸けた戦いを強いられる。
戦いは壮絶だったはず。
召喚した方が負けそうだったからこそ、『召喚』にすがったわけだ。
召喚者は負け戦を引っ繰り返さないといけない。
たった数人の高校生で……
たとえチートを与えられたとしても、そんな状況は僕に耐えられるだろうか、いや耐えられない。
戦い、戦い、戦いの日々……
心が折れる。
僕は『転生』でよかった。
普通の家に生まれてきてよかった。
それを乗り越えてきた目の前の絵里香さんには申し訳ないけれども。
そう思った。
さて、わかったこと。
魔王がいて、それに対抗するために『勇者召喚』を行う者がいるってこと。
平和な暮らしをするには、それに近づかないようにしないといけない。
勇者なんて物騒な生き物、関わらないのが最善だ。
魔王は退治されたということだが、しかし、また生まれないとも限らない。
いや、大概生まれる。
それが僕の生きている時代か、そうでないかだけだ。
もし魔王が生まれて、この村に襲いかかったら?
そう、自分たちを守る力がないといけない。
世界を救うためではない。
自分と家族、できるのなら村の人たちも守る力だ。
それが欲しい。
異世界で『力』と言えば、剣と魔法。
僕には精霊がついているが、なんかちょっとだけ頼りないんだよね。
あんまり戦いには向かないかもしれない。
結構優しい子たちだしね。
剣はおじいちゃんに教わり、魔法は絵里香さんに教わる。
それでどこまで強くなるかはわからない。
神様は少しだけ才能をくれたようだけど、それがどの程度なのかもわからない。
わからないことだらけだ。
だけど、わからないからって、恐怖に竦んで、何もしないわけにはいかない。
やることは決まっているのなら、やればいい。
ただそれだけ。
それが意外と難しいけど……
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