第6話 5歳児と畑に生えていたモノ

剣の基本を学んだところで、おじいちゃんから魔力による身体強化の方法を習うことになった。


練習方法は単純。

魔力を体全体に広げて、その状態で動く。

ランニングや素振りを行う。


しかし、これがなかなか難しい…

まず魔力を全体にいきわたらせるために高い集中が必要。

そのまま動くとすぐに集中が切れ、魔力が消えてしまう。

魔力を体に満たしている状態を息をするようにできるようにならなければならない。


まずは、ゆっくりと動くことから始める。

魔力を確認しながら、慎重に…

これを数日繰り返し、何とか走るくらいはできるようになった。


この状態ではただ魔力を満たした体で動いているだけ。

魔力を身体強化に使えていない。

この状態で全力で動くことを繰り返すと、体が魔力を使いだす、らしい。

魔力がある状態に体が慣れ、それを運動に使うことを覚える。


とにかく鍛錬が必要とのこと。

まあ、気長にやっていくさ。


一か月が過ぎたころ、少しずつだけど身体能力が上がった気がする。

いつものランニングが疲れにくくなったし、速く走れるようになった。

木刀もしっかり振れている。

日頃の鍛錬の賜物か、身体強化の効果か…


身体強化をしないで、木刀を振ってみる。

おお、明らかに遅い!

出来始めているんじゃない、身体強化!



「ほお、まあまあじゃな。今の練習を続ければ、よくなるじゃろうて」


おじいちゃんから褒めてもらった。

一応の合格かな。


「5歳でそれだけできれば十分じゃて。あとは頭を魔力で強化して、思考を強化できないとの。そうすれば相手の動きがよく見えるようになるはずじゃ」


思考の強化?


あれか?

野球の選手がゾーンに入ったときに、ボールが止まったように見えるってヤツ。

この世界では魔力で身体強化するのが普通だとすると、その速さに普通の思考速度では追いついていかれないだろう。

いくら体を早く動かせることができたとして、思考が追いつかなければまともに制御できないし、戦えない。

うん、必須な技術だ。


あとは勉強するときに役に立つかもしれない。

7歳から習うのは剣術だけではない。

学校? 寺子屋なようなもの? では、読み書きから計算、歴史と生きていくうえで必要な常識も学ぶらしい。

頭の強化、使えれば簡単に満点をとれるんじゃない?

魔法の学習も効率的になるかも。


転生物の主人公の場合、前世の知識で算数とかは大体問題ない。

歴史あたりが大変かもしれない。

まあ、他の子とスタート地点は一緒だけどね。


年齢も低いからスポンジのように知識を吸収するはず。

大人になるとね、覚えが悪くなるんだよ……

ちょっと悲しいよね。


しかし、あれ、小学生はすごいと改めて思う。

彼らは一日中椅子に座って勉強しなければならい。

よく我慢できるものだ…


僕はどうだっただろうか?

ほとんど授業の記憶がない。

社会の授業が退屈で眠気と戦っていたことは妙に覚えている。

自分の興味のない教科は何で眠くなるのだろうか?


学校の行事とか、友達とバカ話したとかの記憶はあるのだけど、授業の記憶はない。

友達と一緒の帰り道に話したチョットしたこと。

少しだけ好きだったあの子のこと。

話しかけることもできなくて、別の高校になって、そのままだったこと。

ちょっとだけ、同級生と喧嘩したり。

夏休みの朝のラジオ体操だったり。

あれ、最近はラジオ体操なくなったんだっけ?


結局授業はほぼ覚えていないんだよね。

よく話題で、過去に戻れるなら何歳に戻りたいとかあるけれど、僕は学生時代には戻りたくないな。

学校の授業が耐えられない。

帰りの時間まで強制的に座らされている状態が絶対に嫌だ。


そういえば社会の授業は嫌いだったな。

高校になったら倫理とかもね。

大人になった(もう前世だけど)から社会の授業の重要性は分かっているよ。

常識とか、今の世界がどうしてそうあるのかとか。

生きていくには必要な知識だよね。


ちなみに一番大事なのは文章を読む能力だと思う。

本が読めれば、自分で歴史とか学べる。

大人になっても学習は続いていて、だけど学校みたいに教えてはもらいえない。

自分で本やら読んで学習するしかない。

だから、文章を読むことができるのが大事。

僕も理系だから結構苦労したなあ…


その点、ここの学校では読み書きが一番重要視されるとのことだ。

大抵、田舎だと識字率が低いからね。

この村では全員が読み書きができることになる。

すごいことだと思う。


今世の僕の場合、文字はもう読めているし、書けるようにもなった。

自宅に少数だが書籍があり、それを読んでいる。

いや、読めないと暇だったから、頑張って読めるようになった。


本の数が少ないのはやはり高価だからだろう。

家にある本は、初級の魔法書、農業関連の本、宗教関連。

それはもうすべて読んでしまっていて、内容を暗記するくらい。

魔法も初級はすべて覚えてしまっているし、そろそろ中級以降の魔法を覚えたい。

学校には本があるのだろうか?



もちろん、父さんの農業も手伝っている。


父さんの動きをよく見てみると、微かに魔力を感じる。

やっぱり身体強化を行っている。

たぶん、この村の大人たちは体を動かす仕事をする際に、身体強化を使っているんだ。

全然気づかなかった。

あれだ、見ようとしないと見えないってヤツだ。


前世で「狩人&狩人」で、常に目に念を使って、見ないといけないって、ロリ婆さんの師匠に言われたあれだ!


この魔法が有る世界で生きていくからには、常に魔力を感知しないといけない。

死活問題だ。

いくら、前世の知識があるといっても、ちゃんと実践し身につけなければいけない。

漫画も役に立つなあ…


父さんの身体強化はとても安定している。

他の大人の人のを見たことがあるけれど、比べ物にならない。

もしかすると父さんは身体強化が得意なのかもしれない。

そして、その血は娘に……

僕もちょっとだけ才能があると嬉しい。

父さんの子供だしね!


さて、本日は草むしりだ。

少しでも気を抜くと雑草がすぐに増える。

面倒だが、こまめに草むしりが必要だ。

プチプチと草をむしっていると、見たことのない雑草が生えていた。

何か、人の頭っぽい。

大きさは小さいので、実際の人間の生首ではないと思うけど、なんか気持ち悪い…


あれかな、マンドレイク的な何かなのだろうか?


抜くと悲鳴をあげて、抜いた人間が死んでしまったりして?

確か、抜き方は…犬に抜かせるんだっけ?

犬は死んでしまうけど。

可愛そうに…


ちょっとつついてみると、意外に柔らかかった…

植物というよりは人間に近い?

若干温かいし。

生き物?

…普通に寝ているようにも見える。


父さんはちょっと遠くで畑を耕している。

トウモロコシやらを育てる畑を準備している。

相談しようかと思っていると、その頭、目が開いた!


ビックリした!


「うわ、生きてる!」


冷静になれ、僕…

よく見ると琥珀色のきれいな済んだ瞳だった。

ちょっと垂れ目の可愛い小さな顔。

でも首だけだからな……


『あー、お邪魔しています。この畑の持ち主でしょうか? 見える人ー?』


コテっと頭を傾ける。

ちょっとかわいいかも。

見える人って、あれか、幽霊がとかそういうこと?


『このあたりの土はいいですねー。栄養満点、元気百倍ですー』


「え、と。あなたはどちら様でしょうか」


『あー、失礼しましたー』


ボコっと、土の中から出てくる。

普通に人型だった…

土に埋まっていただけ。

いや、埋まっているっておかしいだろ!


『わたし、土の妖精でハーマリーと申しますー』


にこっと微笑む。

優しそうな笑みで、かわいい。

が、すぐにへにゃと崩れ、畑にうつぶせになった。


『あー、ここの土は気持ちいいですー。寝るのにちょうどいいですー』


土の妖精。

ダメな子かもしれない…


「あの、ハーマリーさん」


『あー、ハーマリーでいいですよー』


「…ハーマリー。畑で寝られると困るんだけど。野菜が育てられないよ」


『大丈夫ですー。土の妖精がいる畑は収穫量が多いのですー。わたし一人分の面積くらい大丈夫ですよー。畑に土の妖精、お得ですよー』


確かに、土の精霊がいればいい野菜が採れそうだ。

確かに? いや、なんとなくだね。


いやいや。

それ以前に、ここはパパの畑。

僕のではない。

許可をとれば?

うーん、僕が精霊と話せること信じてくれるだろうか?

いや、精霊使いとかバレるのは、変なルートに入りそうだから、止めておいたほうがよいかも。


「ダメだよ。僕の畑じゃないし」


『しぶちんですわねー。じゃあ、こうしましょうー。わたしと契約しましょー』


契約?

精霊と?


精霊使いルートまっしぐらじゃないか。

あれか、精霊と仲良しなエルフ、猫人とか犬人とかの獣人に担ぎ上げられて、人類と戦うルートか?

獣人たちは人類に虐げられて、大変なことになっているのだろうか?

……獣人がいるのだろうか?

猫人とかいたら見てみたいな。

どの程度人間で、どの程度猫だろう?

猫要素多めでも可愛いよね。

耳だけ猫ってのもそれはそれで良い。


『えーい』


痛い…

ハーマリーが手で僕の顔を殴った。

力は弱いから、ちょっと痛いくらい。

しかし、何故?


『手の甲にキスをすることで契約になるんですよー。ロマンティックですねー』


いや、手の甲で殴ったよね。

キスじゃないよね。

強制だよね。

それに僕がハーマリーの手の甲にキスしたら、主従が逆じゃないかな?

ん、違うか。

僕と精霊は対等な関係。

上下はないってことでよいよね。

決して僕がハーマリーの従者じゃないよね。


体がドクンと熱くなった。

何だ?


『精霊と契約するとちょっと魔力が強くなるんですよー。お得ですー』


急いで「ステータス」を確認してみる。

魔力が1000増えている!


『すごいでしょうー。えっへん』


ハーマリーが薄い胸を張っている。

…そういえば、風の精霊も胸が薄かった。

精霊はスマートな体系が基本か…


「で、ハーマリーは何ができるの」


『んー。野菜の味を良くしたり、雑草の生えるのを少なくしたり…あとは石飛ばして攻撃とか? できたかも?』


「雑草少なくなるの! いいじゃない!」


雑草抜きは重労働なんだよ。

結構根の深い雑草もあるし、力を使う。

抜いてもすぐに生えてくるし。

時間を取られる。

雑草が生えにくくなるなんて、いいじゃないか!


「君と契約して本当によかった! これからも末永くよろしくね」


彼女の小さな手をとり、目を見つめる。

きっと今僕は満面の笑みだろう。


『あー。愛の告白みたいなー?』


精霊が照れている。

うん。

可愛い…


土の精霊!

農家にとって、必須なのではなかろうか。

生涯を添い遂げるほどに。

うん。

いい契約をした。



『って、なに土の精霊と契約してるの!』


あ、最近姿を見なかった、風の精霊。

元気そうだ。

ちょっと怒っているかな?

何で?


『あー。風の精霊だー』


『おい、土の精霊! コイツは私のほうが先に知り合ってたのよ! なんで、契約してんのよ!』


『? なんで契約しなかったのです?』


『…いや、だって…まだ小さいし、ね』


『それなら、契約する気はなかったってことでしょー。わたしが先に契約しても問題ありませーん』


ハーマリーってホワホワしている割に、結構自分が強いよね。

押しが強いっていうか。

まあ、弱いよりは良い。


『あんたは、こんな腹黒綿菓子が好きなんか!』


おっと、会話が僕に向いた。

風の精霊に睨まれる。


「いや。これは僕の意思じゃないていうか。だけど、土の精霊は便利というか。農家は有難いというか」


『そうです。土の精霊は畑の味方ですー』


『あんたは黙っていて! あたしが、ルーカスと話してるんだ。いいや、もう面倒!』


これは痛い!

風の精霊が僕の顔面に頭突きをしてきた。

土の精霊の何倍も痛いぞ…


『額にキスをすることで契約になるの!』


だから、キスじゃない。

頭突きだって!

今回も無理矢理に契約させられた。

精霊っていうのは暴力でしか契約できないのかな?

そして、2回目の心拍数跳ね上がり。

慣れない…

ステータスを確認すると、また魔力が1000上昇している。


『これであなたはあたしの下僕ね!』


風の精霊がこれまた無い胸を張っている。

下僕の契約をした覚えはないのだけれど…

面倒なのでツッコまない。


そういえば、名前、知らないな。


『エイリアナよ! 覚えておくように!』


とても得意そうだった。


では風の精霊は何をできるのだろうか?

農業に役に立つのか?


たぶん農業はすべての自然現象によって成り立っている。

土、風、水、火。

必要なのは火ではなくて光かもしれないけど。

きっと、この子も何か役に立ってくれるはず、だ…


エイリアナに聞いたところによると、よく分からないらしい。

農業には興味がないから、だそうだ。

僕と契約をしたのなら、これからは農業に興味を持ってほしい。


さて、魔力が2000ほど上がってしまったが、精霊に聞いたところ、それくらいな人間はたまにいるらしい。

この村にも数人はいるとのこと。

普通の村にもいるレベル。

なので、まあ、ギリギリ、チートにはならないかな…


とはいえ、少数ということなので、5歳が持つ魔力量としては異常だと思われる。

バレると非常にマズイ。

魔力を隠す方法があるということで、精霊たちに学ぶ。

魔力操作を訓練していたこともあり、1日程度で身についた。

これで魔力が高いことを隠せるはずだ…たぶん。


村人の魔力が高いということは察知する能力も高いってことなんだよね……

考えるのはよそう。

魔力が上がってしまったのは元に戻せない。


しかし僕はチートにならない!

勇者にならない!

目指せ、普通の農家だ!

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