第4話 5歳児は農業を志すも、姉から逃げられなかった
時は流れて、立ち上がれるようになり、歩けるようになり。
少ししゃべれるようになり、イヤイヤ気を通り越し、僕は5歳になっていた。
現在のステータスは以下。
体力: 200
力: 70
素早さ:70
魔力: 600
赤ん坊のころと比べるとずいぶんステータスも上がっている。
隠れてしている魔法の訓練のおかげか、魔力の伸びがすごい。
まだ他の人のステータスが見えないため、これがどの程度で、高いのか低いのかは不明。
だいぶ歩き回れるようになったので、体力を上げていきたいと思う。
長生きするにも、何か事を始めるにも、まずは体力がないとできない。
僕はまだ家の仕事を割り当てられていないので、よく食べて、よく遊んで、よく寝る、という日々の繰り返しになる。
その中にこっそりと魔法の訓練を入れている。
朝。
体を起こすために、しっかりと朝食を食べる。
朝食は大体決まったメニューだ。
パン。
茶色くて、ちょっと固いが、風味豊か。
精製していないパンというヤツだろう。
前世の意識の高い系の方々が食べてそうなもの。
ベーコン。
ちょっと獣臭い。
何の肉なのかまだ不明。
これも味は豊。
もうだいぶ匂いにも慣れたのでおいしくいただく。
茹でた野菜。
季節は春になってきているので、葉物野菜ができている。
油が高いので、茹でているようだ。
マヨネーズが恋しい。
牛乳。
これがあるのはうれしい。
強い体を作るため、健康のためにしっかりと飲む。
朝食が終わったら、すぐに散歩に行く。
すぐに行動しないと姉につかまる。
ちなみに姉は朝が弱く、しかし、食欲旺盛のため、朝食が終わるのに時間がかかる。
その間に、家を出てしまう。
姉に捕まると、色々連れまわされて、自分のしたいことができない。
とっとと逃げる。
本日も無事に家を出た。
天気も良く、ポカポカだ。
外をブラブラ散歩する。
僕が生まれたのは村だった。
人口は多分200人くらいだろうか。
小さな村だ。
やはり、この世界には魔物がいるらしい。
どうもこの村では魔獣と呼んでいるようだ。
だけど、村の周りに柵があり、その中なら安全らしい。
何年かにいっぺんに柵が破られて魔獣の侵入を許すらしいが…ちょっと、怖い。
村の外には出たことがまだない。
なので生きている魔獣は見たこともない。
だけど、猟師の人達がたまにとってくる大きな肉を見たことがある。
皮もすでに剥いで、処理されているので、元の形は不明。
あれが多分魔獣の肉なのだろうと推測している。
一匹だけで相当な量がある。
魔獣ってどれだけ大きいのだろうか。
だいぶ、怖い……
なるべくなら、出会いたくないし、戦いたくない。
僕はやはり冒険者には向かない。
スローライフを目指そう。
そうそう、僕の家は農家だった。
父さんは朝早くから、畑に働きに出ている。
僕は今、その畑を目指している。
今世では父さんと同様に農家になろうと思っている。
家業を継ぐのが一番しっかりとした将来になるのでは?
農家が簡単にできるとか思っているのではない。
そこは父さんにしっかりと教えてもらおう。
ということで、父さんの作業を学習するために畑に向かう。
家の裏手に畑がある。
思っているよりも広い。
これを父さん一人で管理している。
収穫の時期には家族全員で手伝ったりしている。
本当、仲の良い家族だ。
父さんは思ったより体力があるらしい。
鍬でザックザックと畝を作っていく。
春なので種蒔きの季節だ。
どの季節、タイミングで、何の野菜の種を蒔くのか。
学んでいきたい。
前世はプログラマーだったので、農業の知識は全くない。
すべてが勉強だ。
父さんも息子が農業に興味を示してくれるのがうれしいらしく、詳しく教えてくれる。
しかし、父さんは無口なので言葉が足りない。
よくよくその作業を見学しながら勉強するしかなさそうだ。
今年は、ちょっとだけ、種まきのお手伝いをさせてもらった。
「なんの種を蒔いているの?」
「…トマト、キュウリ、トウモロコシ」
トマトの種を蒔く。
穴をちょっとあけて、いくつかの種をいれる。
優しく土をかぶせる。
これが、数か月をかけて育って、夏にはきっと真っ赤な実をつける。
そして、村の人々の食卓に上がるんだ。
なんか良いんじゃないか。
…
少し経つと姉がやってきて、僕を連れていく。
弟は姉に抵抗できない…
父さんも姉さんに甘い。
自分に似た娘だ。
僕でも甘くなるだろう。
が、そこは「畑仕事があるから今日は休みね」とか断ってほしかった…
「…ルーカス、パパ好き」
こちらも相当不愛想。
そこは父さんに似なくてもよかったんじゃないかな?
顔は可愛いのに……
ちなみに僕は母さん似。
父さんのようにかっこよく、男らしいのが良かったが、まあ良し。
一般的な顔にはなっていると思う。
そう、そして僕の名前、「ルーカス」。
ルーカス・ブラウン。
きっと一般的なよくある名前だろう。
とりあえずホッとしている。
立派な名前だと、それはそれでプレッシャーがあるよね。
例えば…
多くの戦争で勝ち巨大な国を作った、アレキサンドロス、カール、キュロス、ラムセス、チンギス・ハン。
ローマ帝国の5賢帝。ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウス・アントニヌス。
偉大な王の名前とかだったら重かった。
ちなみに姉の名前は「イザベル」だ。
年齢は3歳年上。
美少女ではあるが、無口で不愛想、そして腕力で物事を解決する乱暴者だ。
ガキ大将だ。
この辺の子供は腕力で支配している。
「…剣の稽古いくよ」
鈴の鳴るような、可憐な声で死刑宣告をするのだ。
嫌いではないが、ちょっと苦手…
この村では、7歳から剣の稽古が始まる。
魔獣がでる世界なので、自分を守れるように剣を習うわけだ。
僕はまだ5歳のため、それには参加していない。
姉は8歳なので、2年目になる。
自分の習ったことを何も知らない僕に教えたいみたい。
先生になりたいのだろうか?
教え方がうまいのならまだよいけれど、姉は天才肌で、教えるのがヘタクソだ。
姉はかなり本気でやってくるので、僕の青あざが絶えない。
母さんは僕の痣を知っている。
止めてくれればいいのに、「強くなるために頑張っているのね」と、武家じゃないんだから。
「…打ち合うよ!」
姉が開始の合図。
その辺の木の枝を持たされて、稽古をやらされる。
僕はまったく基本も習っていない。
姉の動きを見よう見まねでやるしかない。
姉の動きは速い。
本当に8歳かと思うほど動ける。
才能があるのか、もしくはこの世界の子供はみんなこうなのだろうか?
姉の振り下ろす枝をなんか受けようとするけれど、力が違いすぎる。
僕の枝は簡単に弾き飛ばされる。
手が痛い…
「…ダメ。…もう一度」
稽古は続く…
どうすればよいのだろうか。
どうすることもできない。
逃げ出そうにも、体力が違いすぎる。
すぐに追いつかれ捕まるだろう。
僕が7歳になって、剣術を一緒に習えばまともに打ち合えるようになるのだろうか?
ああ、子供の3歳差は大きい。
きっと、ずっと、姉の後ろを追いかけるような気がする…
ここのままではいけないと思う。
今までは魔法を鍛えてきたが、剣技を鍛えることが急務だ。
姉との訓練で青あざを作らない程度にならないと、体が痛くてしょうがない。
それと、姉に簡単に負けるようでは魔獣相手にすぐにやられてしまうだろう。
この世界で平和に生き続けるためには多少の戦闘力も必要だ。
魔法で魔獣を倒せるようになるかもだが、接近戦で何もできないのではマズイ。
魔法職は接近戦に弱い。
死なないためには逃げられる程度の機動力は必要だ。
よし、剣の自主練をしよう!
家との反対側に、姉と行ったことのないところ。
家があり、その裏手にちょっとした空き地を見つけた。
誰もいない。
ここなら姉にそうそう見つからないはず。
ここで訓練しよう。
ちょうどよい重さの木の枝を見つけ、それを振ってみる。
剣道のように、上から下へ振ってみる。
あってる?
分からない。
とりあえず繰り返す。
いろいろ分からない。
握りはどうだ?
足の位置は?
どこに力を入れればよい?
変に力の入っている個所はないのか?
姉の動きを真似てはいるが…
ちゃんと真似られているのか?
まあ、始めたばかり。
焦ってもしょうがない。
とりあえず木の棒を振る。
わからないけれど、やってみる。
どうせ5歳の少年だ。
難しいことはできない。
やって、間違っていたら、やり直せばよい。
時間はある。
体を動かせば最低、体力はつくだろうし。
まあ、のんびりやろうやルーカス。
どこかのゲーム(某有名 竜探求4。好きだったなあ)で聞いたようなセリフが思い浮かんだ。
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