第2話 出会い
魔法使いはゆっくりと少年に近づいてきた。
少年の住む町には冒険者を
しかし、今こちらに近づいてくる魔法使いを少年は知らなかった。
――町の人じゃないみたいだ。誰だろう。
少年は朦朧とした意識のまま、震える手で剣を
魔法使いの所持品は、杖といい身に着けているローブや靴といい、かなりの高級品に見えた。
さらに先ほど狼の群れに放った魔法の威力と合わせて考えると、相当に高位の魔法使いであると推測できた。
――こんなにすごい魔法使いがどうしてこの場所にいるんだろう?いや、それは後だ。とにかくお礼を言わないと。
少年は狼から救ってくれた礼を言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
既に、狼に咬まれた右足の痛みと出血で思考が回らなくなってきていたのだ。
魔法使いが目の前まで来た時、少年は立っているのも限界になり、その場に倒れ込みそうになった。
「おっと」
すると少年が地面に倒れこむ寸前、魔法使いが駆け寄って体を支えてくれた。
その時、少年は初めて魔法使いの顔を見た。
少年は思わず驚いた。
まず、魔法使いは目を奪われるほど美しい顔立ちの女性だった。
年齢も少年の予想よりずっと若く見えた。自分より5歳ほど上くらいにしか見えなかったのだ。装備品の質や魔法の威力から、もっとずっと年上の熟練の魔法使いだろうと無意識に予想していたのだ。
「狼に咬まれたのね。可哀想に……」
魔法使いは憂いを帯びた表情でそう言うと、少年を優しく地面に寝かせた。
「待ってて、今手当するから。傷、見せてもらうね」
魔法使いはそう言ってズボンの
魔法使いは
エメラルドのように鮮やかな緑色の液体が傷口に注がれだ。
最初の一瞬はしみるような痛みがあったが、その後はポーションの治癒作用により次第に痛みが引いていくのを感じた。
「大丈夫よ。このポーションと包帯は本物だから」
「本物?」
「ああ、何でもない、気にしないで。包帯巻くね」
――本物って……高級品ってことかな……。
少年がそう考えていると、その間に魔法使いは慣れた手つきで、傷口に包帯をきつく巻きつけていった。傷の周囲の包帯はすぐに赤く染まったが、出血はだいぶおさまった。
少年のすっかり血の気が引いていた顔に少し生気が戻った。
「とりあえず応急処置はこれくらいかな」
「あ、あの……ありがとうごさいます……」
少年はようやっと震える声でお礼を言った。
「これ、残りは君にあげるね」
魔法使いはそう言って残りのポーションと包帯を少年に渡そうとした。
少年は受けとるのを
魔法使いは少年の思考を感じとったのか続けて言った。
「気にしないで受けとって。私が持ってても使えないから」
――使えない?どういう意味だろう
少年は魔法使いの言葉の意味がよくわからなかったが、善意を無下にするのも悪いと思い直して受けとることにした。鞄を開けると、中には採取した薬草がつまっているが、ちょうどポーションと包帯が入るくらいの空きはあった。
「君は薬草を集めに来たのね」
魔法使いは少年の鞄に薬草が詰まっているのを見て言った。
「は、はい。町のギルドの依頼と……それと、友達が体調を崩しているので、その友達の分も集めようと思ったんです。そうしたら狼に襲われて、普段はいないはずの場所なんですけど……」
「そっか……友達のためにそこまでするなんて君は優しいんだね」
「い、いえ、そんな事……」
少年はどもりながら答えた。
「君、名前はなんていうの?」
「僕は、ラルクといいます」
少年はポーションと包帯を鞄にしまいながら自分の名前を答えた。
魔法使いは自分の名前をイライザと名乗った。
「さてと……」
イライザは立ち上がって周囲を見渡した。
「君はどっちから来たの?」
イライザに聞かれてラルクは自分の町の名前と方角を答えた。
ここからはまだ距離がある。
「まだ傷が痛むと思うけど……」
イライザの声色と表情はさっきよりも真剣なものとなっていた。
「急いでこの場所から離れないといけないわ。匂いにつられて他の魔物が集まってくるから」
ラルクが剣で斬り倒した狼は多量の血を流して血のにおいを漂わせているし、イライザが雷魔法で倒した狼はまっ黒焦げになり肉が焼け焦げるにおいを発している。どちらも魔物や野生動物を
「わ、わかりました」
「大丈夫?なんとか歩けそうかな?」
「大丈夫……だと思います」
ラルクはなんとか立ち上がろうとしたが、右足に力を入れると痛みが走りそのまま体勢を崩した。
「あっ……」
そのままだと転倒してしまうところだったが、ギリギリのタイミングでイライザが抱きかえて身体を支えた。
「もう、辛いなら頼ってくれていいのに」
「ご、ごめんなさい……」
「いいのよ、気にしないで」
イライザはにっこりと笑ってラルクの右側から脇の下に潜りこんで身体を支えた。
「歩けるところまででいいよ。とにかく魔物が集まってくる前にここからは移動しないと。私が肩を貸すから、足が辛いときは私に体重をかけてね」
「は、はい。ありがとうございます……」
ラルクは
時折、痛みに耐えかねて転んでしまいそうになったが、その度にイライザが体を支え、励ましてくれた。
2人は1歩ずつ、歩き続けた。
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