第4話「悪魔使いの魔女」

 彼女が生まれた時、すでにその世界は砂漠と少しの赤い海に覆われた荒廃した世界だったらしい。水は手に入らず、年に数回降る雨と赤い海の水を利用してなんとか生き延びていた。


 彼女が住んでいた場所は数少ないオアシス、年中水が手に入り、少しの緑と多くの人が集まり命を繋いでいた。


 その世界がそこまで荒廃してしまった理由は魔王にあった。


 魔王はその強力な魔力と肉体を長い間維持し続けるために、星の命の素である魔鉱水というものを吸い続け、星の環境は滅茶苦茶に、生態系も気候も荒れいつしか手も付けられないほど大地は廃れてまったのだ。


 彼女は自分の師匠、勇者「ユーリ」と共に魔王討伐を目指したらしい。


 彼と長い旅路を共にし、遂に魔王の根城に辿り着く。


 いざ魔王と戦い、善戦するも自分が人質になってしまい勇者は魔王に敗れてしまった。


 だがその直後、星の魔鉱水が底を尽きたのか魔王がもがき苦しみ始め、そこを彼女が勇者の剣でとどめを刺す。


 その時彼女は、魔鉱水を大量に含んだ魔王の血を浴び、死ぬ事ができない体になったらしい。


 そのせいで、星の命が尽き仲間が全員死んでしまった後も彼女は一人生き続けた。


 そんな時、彼女の前に一人の少女が現れここにつれてこられ今に至る。


 ざっとまとめるとこんな感じだ。


 悲惨な話だ。彼女の話を聞くに、まだ狂っていないだけ流石勇者と言ったところだろう。


「わかった、君のことを信用しよう。」


「ほ、本当ですか!?てっきりこのまま牢屋にでも入れられるんじゃないかと思ってました…」


「そんなことはしないよ、仮にも勇者なんだから。部屋は用意する、生活費も俺から支給するからゆっくりしてもらってかまわない。」


「ありがとうございます!!」


「これが部屋の鍵、建物の3階の一番奥の部屋だ。また話を聞く機会があるかもしれないからその時は地下一階の第3階会議室に来てくれ。もし分からないなら送るが…」


「大丈夫です、部屋には自分で行けます。」


「そうか、じゃあゆっくりして行ってくれ。」


「はいっ!!」


 これまでにないほど元気な返事をすると、彼女は自分の部屋に向かった。


「俺も家に帰るか…」


 今日は色々あって疲れた…


 家への帰り道、今日会った事が次々と頭をよぎる。


 謎の少女、二日以内に訪れると言う9人の勇者、その言葉を核心に変えたミーシャという名の異世界の勇者、魔王によって滅んだ世界、俺に似た勇者の存在、二本の勇者の剣…


「あー…もう何が何だか…」


「そうよね、いきなりだったからね。」


「はあ、まったくだよ…」


 待て…


 今俺に話しかけたのは誰だ?


「驚いた顔をしてるね、私は『ベータ』悪魔使いの勇者だよ。」


 声のする方向に急いで目線をやると、一人の女性がこちらをじっと見つめていた。

 

 年齢は三十代ほど、大きな帽子を被り華麗なドレスを見に纏っている。


「何の用だ?」


 気配が全くしなかった…


 コイツかなり強い。


 敵意は感じないが、静かに勇者の剣を構える。


「勇者のアーティファクト…この世界じゃ剣なのね。少し野蛮な気もするけど嫌いじゃないわ。」


 この世界…


 やはり異世界の勇者だな。


「あの少女にあったのか?」


 との世界にきたのなら少なくともあの少女に接触しているはず。


「会ったわ。とても素敵な子よね、とても…」


 その女はリリスのことを思い出しているのか、恍惚とした表情を浮かべている。


「何が目的でこの世界に来たんだ?」


 リリス、ミーシャ共にこの世界に来た勇者は皆何かしらの目的を持っていた。

 

 この勇者も何かしらの目的を持ってここへ来たはず…


「うーん難しい質問ね…強いて言うなら…」


 見る見る内に女性の口元が歪んでいく。


「貴方よ。」


 来るっ!!!


 女の手元で大きな魔力な歪みが発生する。


 やがてそれが一つに纏まり凶悪な力を帯びてこちらに飛んできた。


 俺は咄嗟に反応して魔力の渦を弾き返す。


 ガンッ!!


「クッ!!」


 重い一撃


 それは今まで感じたことのない感覚だった。


「私の一撃、効いた?私のアーティファクトは悪魔の書、悪魔の力が使えるのよ?刺激的じゃない?」


「悪魔、まさにお前にぴったりの言葉だな!!」


「あら?そう?」


 全く話を聞いてくれる気配が全くと言って良いほどない。


 次々と放たれる凶悪な魔力の渦、勇者の剣を持ってきておいてよかった…


 無かったら今頃とっくに死んでいた。


「私わね…あなたの…龍族の身体が欲しいの。あなたは嫌だろうけど、私は自分の欲望を諦めないわ!!」


「ガハアッ!!」


 背後から飛んできた一撃が直撃した。


 意識が一瞬ぐらついて魔力弾に次々と被弾する。


(やばいこのままだと意識が…)


 朦朧とする意識の中、なんとか脊髄反射で弾を弾き続ける。


「見せて!!あなたの本当の姿!!」


 このままだと抑えが効かない。


 ここは一旦退避を…


 逃げるしかない!!


 ここで逃げないと…


 アイツが!!


「逃さないわよ?」


 ドスッ!!


 聞いたことのない音が耳に届くと同時に、腹部に強い痛みを感じる。


 モロ腹に食らった…


「ごめん師匠…約束破ることになっちまった…」


 意識が遠のいてゆくと同時に、頭が妙にスッキリする感覚。


 これは魔王と対峙して以来だ。




『ああ、痛いな…』


 


「勇者リアム」という完璧な仮面の内側に隠れた「リアム」の本性。


 “ソレ“はいつしか「リアム」の“勇者“と“邪竜“の側面とが分離し別々の人格として孤立した事で仮面の裏側に隠れて見えなくなった。


 元来“龍族“は凶暴かつ残虐で強力な種族。


 リアムはその末裔が勇者に育てられたことで発生したイレギュラーなのだ。


 故に不安定、何かのきっかけで“ソレ“は外部に牙を剥く…


 メリメリと音を立て、紫の瞳孔が縦に裂ける。




『殺すぞ糞尼』




 勇者としての側面はあくまで仮面。


 勇者リアムの本性が牙を剥く。

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