第3話「勇者と勇者」
王国暦450年7月1日午前11時46分 西方諸国北方都市「ターミナル」訓練場にて…
路地裏で自分を勇者と名乗る不審な少女に遭遇した後、コールと合流した後にすぐ帰って来たのだが、やけに訓練場内部が騒がしい。
「やっとおかえりになられましたか!!リアム様!!」
「どうしたんだ?」
騒いでいる理由にあの少女が関係してないと良いんだが…
「先ほど観測班が西の草原地帯で強い空間の歪みを感知しました!!」
それだけでこんなにあの観測班が騒ぎ立てるか?
「それがどうしたんだ?」
「それと同時に、強い魔力の歪みも発生したんですよ。その歪み方が先代の勇者様が亡くなられた時のものと瓜二つでして…」
師匠の!?
「俺は今すぐそこへ向かう。観測班にはターミナルに怪しい魔力の反応がなかったか聞いておいてくれ。」
「はい、分かりました!」
そう言い残すと俺は、すぐさま西の草原地帯へと向かった。
西の草原「グリーンフィルド」は師匠が亡くなった場所だ。
ここから一般人だと徒歩だ六時間程度かかるがどうってことない。
ドラゴンに姿を変える魔法で空を駆ければ15分程度で着く。魔力の消費が痛いが背に腹は変えられない。
脳裏によぎるのは二人の人物。
ターミナルで出会った怪しげな少女。
もう一人は、三年前に亡くなった師匠の顔。
もうすぐ歪みの発生源に辿り着く。
あれは!?
目にうつったのは人の寄り付かない草原を歩く“よく知る“一人の女性。
すぐに草原に降り立ち人へと姿を戻す。
その姿を俺はよく知っていた。
白銀色の赤みがかった長く伸びた髪。
体型に見合わぬ安心感のある立ち姿。
碧い瞳に騎士の家系特有の菱形の瞳孔。
そして腰には勇者の剣…
「勇者の…剣?」
勇者の剣は今俺が持っている。なぜこの人も持っているんだ?
よく見ると違う…
師匠にあったはずの頬の古傷が無く、代わりにあるのは首筋にある無数の古傷。年齢も若く17歳程度だ。
師匠に…エルさんによく似ているが、違う。
「ユーリさん?」
小さな声で少女が呟く。
多分彼女も、俺のような人を知っているのだろう。
勇者の勘が言っている…
彼女が異世界の勇者なのだと。
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王国暦450年7月1日午前11時50分
西方諸国北方都市ターミナル西部 草原地帯「グリーンフィルド」
私は今この景色に感動しています。
青い空、白い雲、広い草原に遥か遠くに見える雄大な山脈。
思わず美しい景色に見惚れていると、街の方から何かが飛んで来るのが見えました。
「蒼いドラゴン?」
そのドラゴンの姿を私はよく知っています。
ユーリさんのもう一つの姿。ユーリさんはその姿で私を海まで乗せて言ってくれたこともありました。
どんどんそのドラゴンがこちらに近づいて来るにつれ、その記憶が鮮明に思い出されます。
やがてドラゴンが真上まで来ると私を見つけて目の前に降り立ち、人の姿に変わりました。
その人は私のよく知る人と全くと言って良いほど外見が酷似していました。
紺色の短髪。
勇者の名に恥じぬがっしりとした立ち姿。
竜族の末裔特有の淡い紫色の瞳孔。
「勇者の…剣?」
聞き覚えのある声が耳に届く。
長らく聞いていなかったとても安心できる声…
「ユーリさん?」
違うとわかっていても訪ねてしまう。
私はユーリさんが生き返った未来をどうしても信じたかったのです。
でも現実はそんなに優しくはありませんでした、彼はやっぱり別人だったのです。
「残念かもしれないが、俺はそのユーリさんじゃない。話が聞きたい、ついて来てくれないか?」
私もいろいろ聞きたいことがありました、この世界のこと、あの少女のこと、そして何よりこのユーリさんのそっくりさんのこと…
「はい、私も聞きたいことがあります。」
私はついていくことにしました。
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王国暦450年7月1日午前13時30分 西方諸国北方都市「ターミナル」
「異世界の勇者、滅んだ世界、異世界を渡り歩く謎の少女の存在…全く訳が分からない。」
先程グリーンフィルに突如として現れた謎の異世界の勇者「ミーシャ」今はそのミーシャに事情聴取をしているところだ。
「私も訳が分からなくて、爆弾が爆発して目が覚めたらここにいたんです。」
「何も異世界の勇者だってことは疑ってない、なんせ勇者の剣が今ここに“2本“も存在しているんだからな。それよりも例の少女だ、そいつの正体が知りたいんだ。」
「いやだから、分からないって言ってるじゃないですか!!あなたじゃ話が通じません、さっきの勇者さんを読んできてくださいっ!!」
先程から話の進まない事情聴取に遂に痺れを切らしそうになっていた。
尋問官なのに話を聞かない馬鹿と、説明の下手な自称勇者…
まるで子供の言い争いを見ているようで頭が痛くなってくる。
「やっぱり俺が話をするよ。」
「待ってください!!尋問している相手は仮にも勇者を名乗る謎の人物。もし勇者様に何かあれば我々は、実質上人類の最高戦力を失うことになります。慎重に行動してもらはないと…」
「チッ…どいつもこいつも馬鹿ばかりだな。もし俺に何かできるような気があって、それに伴う実力があるならもうとっくの昔にに何か仕掛けてきてるだろう?それにあいつをここに一人で連れてきたのは俺だぞ?」
「そうですけど、万が一ってことが…」
「だから俺が話を聞くから、とにかくあの無能な尋問官をさっさと引っ込めろ。」
「…はい、分かりました。」
この尋問官にどこか思うとが彼にもあったのか、先ほどまで話をしていた尋問官の補佐はそさくさと尋問室に入って行って、尋問感をなんとか説得して出てきてもらったようだ。
「クソッ…話の通じないガキどもめ…」
なんだかガキみたいに不貞腐れていたような気もするが、俺にはそんなこと1ミリも関係ない。
俺は尋問官の代わりに尋問室へと入り異世界の勇者と再び合間見える。
何度見ても師匠にそっくりなその顔に少々緊張してしまうがそれは致し方ない。
「あの尋問官に代わり俺が君と話すことになった。俺の名前はリアム=ニューマン、好きに呼んでもらって構わない。まず初めに何度も聞いて悪いが自己紹介をしてくれ。」
「…はい、私の名前はミーシャ、ファミリーネームはないです。」
「わかった、まずはこれを見てくれ。」
そう言うと、俺は勇者の剣を二本机の上に置いた。
「私の剣…が2本?」
「そうだ、この剣はこの世界では勇者の剣と呼ばれるアーティファクトでこの世界に一本しか存在しなかったはずのものだ。だけど、俺が見てもこの2本の勇者の剣はどちらも本物、だから君が異世界の勇者だってことを誰も疑ってはいない。重要なのは、君が異世界で何を見たのか、何を考えて行動し、どういう目的を持つのかだ。それによって俺たちに敵対するのか、味方をするのかを見極める。」
「分かりました…長くなりますが良いですか?」
「ああ、構わない。」
俺が了承すると、彼女は自分自身の過去について語り出した。
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