第2話 変化憑き (提供者:きゅうび/きつね四郎(25%半妖狐・オス))

 前置きしておきますが、このお話はあくまでもフィクションで、実在の妖物じんぶつとは無関係ですからね。


 それでは話を始めましょう。那須野ミクという妖狐の少女がいたのですが、彼女は変化術に長け、そして変化術を愛していました。

 だからこそ、彼女はいつも様々な物に変化していたのです。何しろ、変化術が得意である事を彼女自身も知っていましたからね。得意な事に酔い痴れるのは、それこそ若さの特権というやつではないでしょうか。


 ところで、変化術というのは実に奥が深い物でもあるのです。本来の姿とは異なる姿に変化する。ただそれだけの事ではないのです。

 その動き、その心まで別の物になりきり、演じる。それこそが変化の真骨頂なのです。そして変化術に長けた那須野ミクは、もちろんその事を心得ていました。

 幸か不幸か、那須野ミクは外見だけではなく内面的にも変化する技を習得していました――もしかしたら、それは、彼女の内なるコンプレックスゆえの事だったのかもしれません。本当の姿に自信が無くて、それ故に自分とは違うものに変化する事にこだわったのではないか、と。


 そんな彼女の変化ライフに変化が訪れたのは、ある夏の日の事でした。

 那須野ミクはある存在を知ってしまったのです。

 それは、ひっそりと祀られた、旧き神とも呼べる存在でした。そして、事もあろうに――それに変化してみたいと思ってしまったのです。何故そう思ったのかは定かではありません。その旧き神というのは貌のない神ゆえに無数の貌と化身を持ちうる――そうした謂れに惹かれてしまったのかもしれません。


 そして、それこそが、那須野ミクの破滅の序章でした。


 最初のうちは、特段異変もありませんでした。面白がって変化を繰り返し、神になったような気分になって自己満足的な喜びに浸っていただけです。

 ですがそうした彼女の遊びにも、次第に暗い影が落ちました。

 最初の兆候は、夢でした。貌のない、幾つもの化身を持つあの神に、彼女は夢の中で出会ったのです。

 のみならず、彼女は彼らに語り掛けられたのでしょう――汝は我らであり、我らは汝である、と。


 それ以降、那須野ミクはその神に、あるいはその神に変化したという事に魅入られてしまいました。未だに彼女は変化を続けますが……もはや自分が那須野ミクだった事は忘れてしまったのです。

 それどころか、自身が貌のない神の化身の一つであり、那須野ミクこそが偽りの姿である。そんな風に思うようになったのです。


――とまぁ、そのような事がございますから、変化術にはゆめゆめご注意を。情緒不安定な時に易々と行えば、変化に呑まれ、憑かれ、おのれを見失いますから、ね。


〈話題提供者のひとこと〉

 マジな話、情緒不安定な時は変化術は使うなって叔父たちに言われてたんです。変化って自分を見定めていないと案外危ないんですよね

 え、それってあなたの感想ですって……? いや、その通りかもしれませんね。僕はまぁ我の強い男だと思っていますけれど、意外と身内からは繊細だの神経質だのと言われますから……


 芸術家気質でもある、ですか。はは……(苦笑)それも否定できない所が歯がゆいですね。

 ですが、演劇は確かにフィクションだとしても、だからこそ真実をあぶり出す事も出来るそうですよ。それだけは、僕も心得てはおります。


※※

〈総括〉

 きつね四郎さんは、変化術の名手として有名なお方です。昨年は僕の兄や他の妖怪たちと共に同人ドラマも製作なさっていましたので、演技・演劇の方面でもプロ級と言っても過言ではないでしょう。

 ですが、見事な演技を魅せるきつね四郎さんも、内心では変化術に恐怖心を抱いている。その事実が垣間見えたのも、実に興味深い所です。


追記:元々きつね四郎さんは「きゅうび」のハンドルネームを使っていましたが、視聴者たちの中に本当の九尾が多い事から「きつね四郎」に改名したそうです。

 そうした所からも、きつね四郎さんの気質が現れているように思えてなりません。

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