第四十八話 領都解放

 シグルドの報告を受けた王城内は、酷くざわついていた。それもそのはず、会議の際にペスカが語った事が信憑性を帯びて来たからだ。

 重鎮達の中には、「現在生産中の武器を持って、こちらから侵攻すべき」と声を大にする者がいた。反対に、「ロメリア教徒が暴れている中、領地を空にする訳にはいかない」と声を上げる者もいた。


 どちらも正しい。内も外も混乱を極めている。その中で、最善の策は有るのか。それを見極めねばならないのは、為政者の難しさであろう。


「クラウス、シリウス。其方達は残って、王都の軍を再編成せよ。他の者達は領地に戻って軍の編成を急げ」

「「はっ」」

「北方、南方、それと東の国境沿いの領地には、各領から援軍を出す様に! 無論、王都から援軍を出す。くれぐれも用心せよ!」


 王の命令により、城は俄かに騒がしくなる。もう、狂信者とモンスターだけを相手にしていれば良い時間は、とうに過ぎ去ったのだ。これから始まるのは戦争の準備だ。


「それとクラウス。兵器の生産はどうなっている?」

「順調に進んでおります。三日も有れば、全軍に行き渡らせるには充分かと」

「よし、街道付近にモンスター共を近付けさせるな!」

「必ず、量産した武器を各地に運んで見せます」


 こうして、エルラフィア王国も戦いの渦に巻き込まれていく。ただ、今は誰もが信じていた。直ぐにこの混乱は解消されるのだと。誰もが願っていた。戦争の準備が無駄に終われば良いと。

 しかし、悪神はそんなに甘くは無い。既に隣国である帝国は、魔の手に落ちようとしているのだから。


  ☆ ☆ ☆


 一方、ペスカ達は領都の外に陣を張り、そこで帝国軍を含んだ遠征軍は野営を行った。そして翌朝ペスカは全軍に待機の指示を出し、冬也を連れて戦車に乗り込んだ。

 

「ペスカ。お前、何をするつもりなんだ?」

「お兄ちゃん。私が何も対策せずに、のこのこ帝国にやって来たと思うの? 秘密兵器はまだ有るんだよ」

「思わないけど、説明をしろよ」


 冬也の言葉に、ペスカは戦車内の荷物を漁りだす。取り出した荷物は、大砲の弾丸だった。


「領都を破壊するつもりかよ!」

「違うよ。これで領都を救うんだよ! いいからお兄ちゃんは、魔攻砲の尾栓を開けて弾を込めて」

「難しい事言うなよ。兄ちゃんにも解る様に教えてくれよ」

「も~。魔攻砲のマナを充填してる筒部分があるでしょ。そこスライド出来るから。開けたら弾を込めて閉める。わかった?」


 少し早口になるペスカに対し、冬也は多少もたつきながら弾丸を込めて、発射準備を整える。


「お兄ちゃん。領都を突き抜ける様に真っ直ぐ飛ばしてね」

「本当に大丈夫か? 領都を吹き飛ばさないか?」

「可愛い妹を信じなよ! ほら行くよ! よ~い、発射!」


 轟音と共に、魔攻砲から発射された弾丸は、真っ直ぐ領都へと飛ぶ。領都に届くと同時に飛び散り光りを放つ。そして光は、大きな円状に領都中を包んだ。

 暫くすると、硝子を割った様な大きな音が領都から聞こえ始める。円状に包み込んだ光が崩れ始め、光は領都へ降り注ぐ。光は領都中を輝かせた。


 起こった現象を目の当たりにした、トール隊、カルーア領軍の両方に、どよめきに似た歓声が起こる。ペスカは冬也に向かい、笑顔でポーズを決めた。

 

「成功したね、多分」

「何かすげ~ぞ! ぶわって光ってキラキラって落ちて! 何だよあれ!」

「拡散型マナキャンセラーだよ。邪神ロメリアが仕掛けた空間結界の解除と、住民の精神汚染解除を同時に狙ったの」

「すげ~な、お前天才だよ。やったな!」

「そう思うなら、ペスカちゃんの可愛いお口にチュッてして!」

「するか馬鹿! 何か色々台無しだよ!」


 冬也はガックリと肩を落とす。そして不満気な表情のペスカはトールに命じ、帝国軍を領都の調査に向かわせる。また、シルビアとメルフィーには、それぞれ帝都外の調査を命じた。

 小一時間程で、帝国軍が戻って来る。トールは驚きと嬉しさが半々の様な表情を浮かべていた。


「ペスカ殿、住民達が次々と動き出しました! 皆、意識がはっきりとしており、大きな怪我をしている様子も有りません」


 少し肩を震わせながら、トールはペスカに報告する。そしてペスカは、領都の状況の変化を問いただした。


「それで、何か新しい情報は出てきた?」

「全ての住民に聞けた訳では有りません。ただ皆が一様に、一週間以上の記憶を失くしている様です」

「あなた達と同じね。領軍の行方は?」

「知っている者は見つかりませんでした」


 ペスカは、少し考え込む様に腕を組む。そこに冬也が問いかけた。


「どうするペスカ? このまま全員で帝都に向かう予定だったろ?」

「う~ん。こんなに上手く行くと思わなかったからね。トール、あなたの部下を五十人位、領都の警備に置いて行こうか」


 トールはペスカの言葉に強く頷き、走って部下達の下へ向かう。トールに続き、シルビアとメルフィーがペスカに報告へ来る。

 

「ペスカ様、帝都へ続く街道に、大軍が通った様な跡が、うっすらと残っておりました」

「ペスカ様、他の街に続く街道には、大軍が通った形跡は見当りませんでした」

 

 報告を聞き終えたペスカにシグルドが問いかける。


「どう思われますか、ペスカ様?」

「帝都に進軍中なのは間違い無いだろうね。領軍を追って帝都へ向かおう。シグルド、王都への報告よろしく」


 ☆ ☆ ☆


「へぇ~。あれを壊せるんだ。中々やるね~」

「どうする? 邪魔にならない内に潰しとくか?」

「いや~。それは止めとこうよ。せっかくだし、もう少し高みの見物がしたいじゃない」

「悪趣味だな。どの道、育ってからじゃないと、やり合っても面白くねぇしな」

「一人、面白そうなのが居るから、そっちは君に任せても良いよ」

「そりゃあ良い。育てよ、糞人間共。それで俺を楽しませろや」

「それで、女神達の様子はどうだい?」

「変わりは無いようね」

「ハハッ、相変わらず呑気だね~。だから僕にしてやられるんだよ」

「人間共を皆殺しにして、神々の力を削ぐ。そして私達がこの世界を獲る。良い作戦ね」

「前回は、人間を殺さなかったから女神にしてやられたんだ。今回は手出しをさせないよ」

「あの小娘はどうするんだ?」

「あんなのに、何かが出来るとでも? 少しはやるようになったみたいだけどさ」

「用心するに越した事は無いぞ」

「大丈夫さ。任せておきなよ、今回も楽しませてもらうさ」

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