第四十四話 国境門鎮圧戦 前編

 遠征隊と領軍の隊長は、ロメリア神関与の可能性を共有した上で、作戦行動の打ち合わせを行った。ただ、ここでも口火を切ったのは冬也であった。

 冬也の考えていたのは、単純な疑問だ。ペスカの作った兵器が有効であると信じていたからの疑問でもあろう。


「なぁ隊長さん。あいつらの武器は剣や槍とかだろ?」

「魔法や弓兵部隊もおりますな」

「それならさ、こっちの方が遠くから撃てるんだし、一方的な感じで終わるんじゃね?」

「いやいや、お兄ちゃん。戦いってのは、最悪を想定するもんだよ」

「最悪って?」

「例えばだよ、冬也。帝国軍に攻撃している間に、背後からモンスターが攻めて来たらどうする?」

「それなら、俺とシグルドが打って出ればいいだろ?」

「はぁ。だからお兄ちゃんは脳筋なんだよ」

「冬也君。ドラゴンが出てきたら?」

「そりゃあ、シルビアさん。あんたか、ペスカが魔攻砲で叩き落せばいいだろ?」

「では、冬也様。国境門の後方に帝国軍の本体が控えていたとしたら?」

「いや、セムスさん。そんなに酷い状況になるのか?」

「セムスの言う通りですよ、冬也様。ペスカ様は、最悪の状況を想定すべきと仰ったじゃないですか」

「そうなると。最悪なのは、何にも対処出来ずに囲まれて、俺達が全滅するって事か?」

「わかってるじゃない、そう言う事。先ずは相手の状況を確認しないとね」

「では、ペスカ様。私達は周囲の警戒を行います」

「そうだね、シグルド。私が乗って来た戦車を使って、二手に分かれて周囲の警戒ね」

「ではペスカ様の車両は、私とシルビア殿で使わせて頂きます。そして、セムス殿とメルフィー殿は我々が乗って来た車両を使って下さい。領軍の皆さんは、国境門に注視を!」


 そして各々が配置に着く。そして、ペスカは運転席のスクリーンに映る帝国兵を拡大した。隊長が語った事を疑う訳ではない。だが、何をするにも確認は怠らない方がいい。何処に落とし穴が有るかわからないからだ。

 しかし、そこに映っていたのは、そう難しいものでもなかった。


「あ~。何と言うかロボだね」

「そうだな。確かにロボ軍団って感じだ」


 ペスカと同じ感覚を、冬也も抱いていた。


 帝国軍の兵士達は報告で聞いた通り、誰もが表情が無い。兵士達に会話は無く、弓や魔法で単調な牽制攻撃を繰り返すだけ。ただし国境門に近寄ろうとするものは、動物であろうと的確に射止める。それは帝国兵の練度を感じさせた。


 帝国兵に感じる違和感は、その行動にもあった。例え軍隊と言えども、人の集まりである。どれだけ訓練を重ねても、実践の場で複数の兵が全く同じ動きをする事は、不可能だし意味もない。だが帝国兵は、弓に矢をつがえる所から放つ所まで、完全に揃った動きを行う。


 決められた行動を淡々と熟す帝国兵には、意志を感じさせない。ある意味では、理想の軍隊なのであろう。だがそれを機械と呼んで、間違いは有るだろうか?

 

 どんな集団でも統率する者がいなければ、烏合の衆であり脅威にはなり得ない。帝国兵にも隊を率いる者がいるはずである。しかし帝国兵を見て思うのは、国境門を閉ざし帝国への侵入を防ごうとしてるだけである。ともすれば彼らに与えられた命令は、ペスカ達を足止めする事だけなのかもしれない。


「嫌な予感がするね」

「嫌な予感って、さっきの囲まれてってやつか?」

「それか、他の何か?」

「他の何かって?」

「例えば、私達が帝国に行くのが困るとか?」

「ロメリアが帝国で何かやらかそうとしてるのか?」

「まだ、わかんないけどさ。一応、国境の外も見てみようか」


 そう言うと、ペスカは載せて来た荷物を漁る。取り出したのは、冬也も見た事が有るプロペラがついている機械だ。


「ドローンかよ! 相変わらず、いつの間に作ったんだよ?」

「便利でしょ? これで、国境門の奥に帝国兵が居ないか確認するの」

「撃ち落とされんなよ」

「ふふん、ペスカちゃんに任せなさいって」


 帝国兵は国境門を封鎖して、威嚇攻撃を行っているのだ。そんな状況下に有って、国境門の奥側を偵察する事は、領軍には難しい事だったろう。

 ペスカは慎重を期してドローンを飛ばす。魔法や弓が届かない程に高く。そして、国境門全体が見渡せる程に高く飛ばすと、ドローンで撮影した光景をスクリーンに投影する。


「特に、帝国兵が控えている感じは無さそうだね」

「これなら、囲まれなくても大丈夫か」

「ところで、シグルド。こっちからはモンスターの影は見当たらないけど、そっちはどう?」

「今のところは、モンスターの気配は有りません」

「それなら、とっとと鎮圧して国境門を解放しようか」


 そしてペスカは、隊長を呼び出すと作戦を伝える。

 

 先ずは、、アサルトライフルの試射を行い帝国兵の反応を見る。正気に戻る様な反応があれば、一斉攻撃を開始し国境門を制圧する。

 ただし制圧時には、正気にもどった兵が意識を失う可能性が有る為、制圧班と回収班に分かれて行動する。

 制圧班はアサルトライフルで攻撃を続け、回収班は正気に戻った兵達を国境門から連れ出し一か所に集める。

 もし帝国兵に変化が無ければ、睡眠系の魔法で全体を無力化し制圧する。その場合、制圧後は全て捕縛する。なるべく死者を出さない様に務めるが、激しい抵抗を行う場合はやむなしとする。

 

 作戦の打ち合わせが終わり、隊長から領軍へ指示が飛び、約百名のカルーア兵が国境門を取り囲む。そして、アサルトライフルやロケットランチャーを抱えて、領軍の射撃準備が整えた。

 

 ペスカは指揮のタイミングを計り、戦車の中から国境門の様子を見ていた。


 王城の会議で聞いた帝国兵の数は約二百名である。国境門の表と裏側に各五十名程がひしめき合っている。他の兵は国境門の中にいるのだろう。

 国境門の上にいる連中を素早く鎮静化して、国境門を開いた後に中の帝国兵も手早く鎮静化させるべきだろう。

 

「帝国兵の相手は領軍だけね。シグルド達は、周囲の警戒を怠らず」

「承知しました。ペスカ様」


 こちらが何かを仕掛けると邪魔をしてくるのが、ロメリアという神なのだ。『警戒をし過ぎる』なんて事にはなるまい。

 そしてペスカは戦車から顔を出し、領軍に待機の合図を送る。領軍の一人がアサルトライフルをセミオートモードにし片膝立ちで構え、国境門の上で魔法を放つ帝国兵に照準を定めた。


「射撃よ~い! て~!」


 ペスカの合図と共に、兵士はアサルトライフルを撃つ。放たれた弾丸は、帝国兵の胸に当った瞬間も弾ける様に光る。光を浴びた帝国兵は、崩れる様に倒れた。


「今更だけどさ、やっぱこれは無いわ。ファンタジー感もミリタリー感も全部ぶち壊しだよ」

「役に立てば、細かい事は良いんだよ。気にし過ぎると剥げるよ」

「剥げる前に白髪になりそうだよ!」


 暫く様子を見ていると、撃たれて倒れた兵士が、頭を振りながら起き上る。起き上った兵士は大きな口を開けながら、目を閉じたり開いたりを繰り返し周囲を見渡している。その後、周囲の兵士達に話しかけたり、肩を揺さぶっていた。肩を揺さぶっても何も反応が無い事に、ふらつく様子を見せた兵士は、カルーア領側に向かい大きく手を振り始めた。


「お~! 成功したようだね」

「だな。でも、あの人を放置じゃ可哀そうだぞ」

「そうだね。一気に仕留めよう。全軍、撃て!」

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