第二十五話 領都奪還戦 後編
ペスカ組がモンスターと対峙している一方、シリウス組は街に潜入し、工場へ向かっていた。
「ペスカ様のおかげで、順調に街に入れましたが」
「油断するな。恐らく奴らは工場に集中している筈だ。姉上には申し訳ないが、少しでも釣られてくれれば」
シリウス組の前に現れたモンスターは数体程であり、工場まで難なく進む事が出来た。それだけ上手く、ペスカ達がモンスターを誘導出来たのだろう。
そして問題の工場の周囲にはモンスターの影は無く、薄っすらと光に包まれた工場が有るだけだった。
「シリウス様、モンスターが全て、ペスカ様に引き寄せられたのでしょうか? 流石に変では?」
「確かにな。だが、事態は一刻を争う。私は扉の解錠を行う。貴様らは、周囲の警戒を密にせよ」
シリウスが呪文を唱えると、工場を包み込むような光が消える。シリウスが扉を開け、住民達の安否を確認しようとした瞬間、横薙ぎの突風が吹き荒れた。
「お待ちしておりましタよ。今代のメイザー卿は、随分と愚か者の様だネ」
「何者だ。出て来い!」
「イヤハヤ。忌々しいペスカの結解を、壊す事は出来なかったガ。そちらから開けてくれるとは。予想以上の出来ダ。住民どもを逃がしてやったかいが有ると言う物だネ」
現れたのは、真っ黒の身体に真っ黒な翼を持った、人間とドラゴンを掛け合わせた様な怪物だった。宙に浮かぶ異様な姿に、シリウス達は息を呑む。
「私を忘れたかネ? 会った事はアルのだが。名乗らないとワカラナイ程、愚かなのかネ」
「貴様らは、早く工場の中へ入り、兵器の用意をしろ! こいつの相手は私がする」
シリウスは、怪物を横目に部下たちに指示を出すと、怪物に向かい合った。
得体が知れない。あんな姿の化け物は見た事もない。シリウスは身構えると、直ぐにでも魔法が放てる様にマナを手のひらに集めていく。
「随分と、ナマイキな事を言うようになったネ。アネのカゲに隠れてオビエテイタ小僧が」
怪物が翼をはためかせると、突風が吹き荒れる。吹き飛ばされそうになりながらも、シリウスは魔法で、入り口を塞ぐ様に壁を作り出した。尚も怪物は翼をはためかせる。しかし、シリウスは工場を守る様に、魔法障壁を張り突風を防いだ。
障壁を張りながらもシリウスは、怪物の話し方に既視感を覚えていた。
「その話し方、ドルクか? 死んだはずだ!」
「ようやく解ったのカネ。ムカシもイマも頭の悪い小僧だネ」
「何故ここに居る? 何が目的だ?」
「オヤ。今度は時間稼ぎかネ。無駄だヨ。アァそうだ、これに耐えられたら、少し話してあげても良いヨ」
ドルクが大きく口を開けると、大人の男程の大きさの火の玉が数個、吐き出されシリウスへ向かった。シリウスはマナを注いで魔法障壁の強度を増し、火の玉に耐え様とする。しかし、威力に耐えきれず魔法障壁はひび割れていく。
一見、劣勢に見える勝負である。しかし、シリウスは冷静であった。寧ろ、窮地に立たされた時に冷静になれない者が、国王の懐刀と呼ばれるはずがない。
シリウスが選択したのは、自らが盾になる事である。時間さえ稼げれば、攻撃手段は有る。それがわかっているからこその、判断であった。
続けざまにドルクは火の玉を吐きだす。シリウスは咄嗟に、二重の魔法障壁を張る。火の玉の勢いを相殺する様に、魔法障壁は砕けていく。だが、それで良い。ドルクの絶え間なく続く攻撃を、シリウスは冷静に、幾つも魔法障壁を張り直しながら耐え続けた。
「少しはやる様になったのかネ。仕方ない、私が死んだかって? あれが私だと誰が言ったのカネ」
「姉上と確認した。確かにお前の死体だった!」
「そうか、ゾンガイ上手く行った様だネ。あの糞メスを騙すのは苦労したんだヨ」
「モンスターはお前の仕業だな」
「そうだ。それが何かネ」
「目的は何だ? 工場か?」
「工場? 馬鹿カネ、そんな物はついでだヨ。目的? キマッテいるヨ。あのイマイマシイ糞メスをワタシの手で殺してやるのだヨ。こうも見事に餌に食いつくとはネ」
興奮した様に、ドルクは早口で捲し立てる。そして大きく口を開け、工場よりも大きい炎を吐き出す。シリウスは咄嗟に、工場を包み込める程に大きい魔法障壁を、幾重にも張って対抗した。
しかし、威力はドルクの炎が勝っていた。巨大な炎は渦を巻き、熱風を作り出す。単純な炎の魔法ではない。周囲は、異常な高温に晒される。
そして、バリ、バリっと音を立てて、魔法障壁にひびが入る。それでも、シリウスは魔法障壁にマナを注ぎ込んで耐える。
それでも限界は訪れる。幾重にも張った魔法障壁が一枚一枚、砕けていく。そして、最後の一枚となった時、対消滅の様に炎は消え去った。
ただ消滅時の勢いは凄まじく、周囲に暴風をまき散らす。流石のシリウスもそれには耐えきれずに、工場内へ吹き飛ばされた。
「コウギの時間はお終いだヨ。ジュコウリョウは、命で支払って貰うヨ。小僧の死体を晒したら、あの糞メスはどんな反応をしてくれるのか。楽しみだネ」
空高く浮かび、熱波と暴風を避けたドルクは、平然とした表情で汚らしい笑みを浮かべる。そして、工場と共に全てを破壊しようと、ドルクは先程より更に大きな炎を吐き出した。
吐き出された炎は大きく広がり、工場を飲み込もうとする。シリウスも対抗しようとするが、魔法障壁が間に合わない。だがその時、工場内から一条の光が放たれ炎を吹き飛ばし、そのままドルクへ命中した。
ドルクは、大きく飛ばされ、後方の建物を破壊しそのまま瓦礫に埋もれた。
「姉上特製の魔工兵器はどうだ。効いただろ」
頑丈なドラゴンの肉体とて、都市を一撃で破壊しかねない威力の攻撃に、ドルクは半身が失われた状態になっていた。しかし、尚もドルクは瓦礫を押しのけ立ち上がろうとする。
怒りは頂点に達していた事だろう。全て掌の上で転がしているつもりが、思いもよらない反撃を受けて体を半壊させられたのだから。
「ペスカ。ペスカ。ペスカ。ペスカ。ペスカぁ~! 何故いつもいつも邪魔をする!」
苛立つドルクは、失われた半身で体当たりをしようと、勢いをつけ飛翔する。既に体勢を立て直していたシリウスは、飛び上がった瞬間を逃さずに攻撃命令を下す。そして、光の矢がドルクに向けて放たれる。光の矢はドルクに突き刺さり、力尽きる様に倒れ落ちた。
「さて、色々話して貰おうか」
シリウスがドルクに近寄ろうとした時、ドルクの身体が輝き破裂した。
「くそ。自爆したか」
「シリウス様、ご無事で?」
「問題無い。それより中の状態は?」
「重傷者は治療により、今のところ無事です。他の者達も無事な様です」
「そうか。貴様らは周囲の安全確認を行え。まだモンスター達が潜んでいる可能性が有る。安全確認終了次第、重傷者を療養所へ移送。急げ!」
「ペスカ様の方は如何致しましょう?」
「姉上があのレベルにやられるはずが無い。我らは我らの役目を果たすぞ。急げ!」
兵達に指示を出したシリウスは工場内に入り、場内に残る守備隊を集めた。
「状況を報告せよ。工場は襲われていたのでは無かったのか?」
「引っ切り無しに、モンスターの攻勢を受けておりました。しかしシリウス様が、封印を解除する少し前から、モンスターの体当たりする音が消えうせました」
シリウスは、考えをまとめようとするかの様に、動かずじっとしていた。シリウスが腕を組み頭を働かせていると、けたたましい声と共に、ペスカが場内に入って来た。
「皆無事? シリウスは? 大丈夫なの?」
「姉上、ご無事何よりです」
「外、凄い事になってるけど、何があったの?」
ペスカに問われ、シリウスは領都潜入時からの出来事を備に語った。ペスカは、驚きを隠せない様子で答える。
「あいつ、こっちにも表れたの?」
「それでは、姉上の方にも!」
「途中から、モンスターの数が急に減ったんだよ。シリウスが倒したって訳じゃないんだね」
「なぁ、シリウスさん。ドルクの狙いはペスカだったんだろ? これでお終いなのか?」
「余り良い予感はしませんな」
ペスカ達は、良くない事が起こりそうな、酷い胸騒ぎを感じていた。まだ、後続部隊は到着していない。次の行動を決めかねていると、慌てた様子の兵が駆け寄って来る。
「緊急連絡です。避難している民達の前に、モンスターの大群が現れました。現在守備隊が交戦中との事です」
「緊急連絡です。後続部隊の前に、黒い化け物が現れました。現在交戦中との事です」
慌ただしく入る連絡に困惑するペスカ達。戦いは、未だ終わりの合図を告げようとはしなかった。
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