本音の、自由くん
「ねぇねぇ、天方くん〜」
「今日さ、この後時間ない〜??」
「うちらともお話しよ〜?」
た、たたた大変だ。
自由くんが、女の子たちに囲まれている…。
いや、囲まれてるのはいつもなんだけど、なんかこう、女の子たちのアタックが強いというか…。
たぶん、今朝のことで、自由くんの塩対応が崩れることがわかったからだろう。
で、なにが大変かというと____自由くん、たぶんあれ、相当嫌がって…、
ガタッ
自由くんは、突然立ち上がると、女の子には目もくれず、教室を出ていってしまう。
「なに、あれ」
「感じ悪〜」
周りで見ていた人たちも、ヒソヒソヒソヒソ。
うう、やっぱり我慢の限界だったか…。
でも、誤解、されてほしくないな…。
周りを遠ざけてしまう彼の、本当の理由を知ってほしい。そして、それを受け入れて、助け合ってほしい。
それって、おせっかいなのかな…。
私は悶々とした気持ちのまま、自由くんを追いかけた。
「葵色」
「え、よ、自由くん!?」
手話同好会の部室のドアを開けた直後、自由くんに抱きつかれているこの状況。
「自由くん、どうしたの…?」
「っ、ごめん」
我に返ったのか、パッと腕が離される。
「ごめん、なんか、無意識だった」
その、泣きそうに笑っている自由くんの顔。
それで、私は思った。
____やっぱり、絶対おせっかいなんかじゃない。
孤独感が滲み出ている彼を見た私の体は、勝手に動いていた。
ぎゅっと、レモンの香りを包み込む。
「え、葵色?」
「そんな顔しないで」
私はそのまま自由くんを見上げる。
「心に溜まってるもの全部、吐き出して。私、今から人形になるから」
「え?」
「なにも聴こえないから」
ちょっとびっくりしていた自由くんは、直後、目をくしゃっとさせて笑って、そして、私の背中に腕を回した。
「____やっぱ、無理かも」
自由くんのつぶやきが、教室に響く。
「人が話すたびに、ああ俺は聴こえないんだって、再確認させられる。あんな天ぷら食べた後みたいな唇、読む気にもならないし。どうせ外見で寄ってきてるだけ。あいつらに限ったことじゃない。みんな、俺の耳のこと知ったら、きっと____。やっぱり、大人しく、ろう学校行っていればよかったのかも」
「__行かなかった理由、聞いてもいい…?」
私は、思わずそう言っていた。
「ふっ。人形って喋るんだ」
「あ、いや、ごめん…。その、答えたくなかったら…」
「葵色になら、いいよ」
再び、私をギュッとして、話し出す自由くん。
「____認めたくなかったんだと思う。今もそう。急に聴こえなくなって、親に受験する高校変えろって言われて。そんな、話……、ああはいそうですかって、できるわけない。それで結局、親の反対押し切ってここ受けて。でも____」
そこで自由くんは言葉を切る。
私は、背中をさすらずにはいられなかった。
「そういう人形だから、気にしないで」
「ふはっ。なにその人形」
自由くんの泣き笑いが、私の目に映る。
「____でも、葵色に会えたから、こっちきて正解。
____好きだよ、葵色」
愛おしそうに細めた目から、涙が流れてキラキラ光る。
「もう、それ、いいよ」
「心に溜まってるもの全部って言ったのは、どこの誰でしょう」
「っ〜。し、知らない」
「ふーん、俺は知ってるけど」
う、もう、やめてください。恥ずかしい…。穴があったら入りたい。
傾いてきた太陽の光で、自由くんの顔が照らされる。
その表情は、どこかスッキリとしているように見えた。
「さ、手話同好会の活動、始めましょうか、部長」
自由くんが腕を私から離す。
あれ、今、私、ちょっと寂しいって思った…?
いや、気のせい…、だよね。
「どんなことから始めますか?」
「うーーん。まずは、指文字からやりたいとこだけど…。自由くん、なにか知ってる手話ある?」
その後、にやっと笑った彼が、手をあごの下ですぼませながらおろし、私の顔を真っ赤にさせたのは言うまでもない。
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