【ビューザ】【第9章:心理療法の多次元空間】
ビューザとダンが次に足を踏み入れたのは、まるで万華鏡の中にいるような空間だった。周囲には無数の部屋が浮かんでおり、それぞれが異なる雰囲気を醸し出していた。
「わあ……」
ビューザは目を見開いた。
「ここは……なんだか不思議な空間ね」
ダンはにっこりと笑った。
「ここは心理療法の多次元空間だよ。精神分析、行動療法、認知療法、人間性心理学など、あらゆる心理療法のアプローチが交錯している場所なんだ」
「すごい!」
ビューザは興奮して言った。
「まるで心理学の百貨店みたい!」
「そうだね」
ダンは楽しそうに答えた。
「でも、返品不可だからね。一度手に入れた洞察は、元には戻せないよ」
ビューザは思わず吹き出した。
「もう、ダンったら。相変わらずジョークが好きね」
彼女は言いながら、ふとダンの横顔を見つめた。その瞬間、胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。
(あれ? この感覚は……)
ビューザは自分の心の動きに少し戸惑いを感じた。
「さあ、どの部屋から見学する?」
ダンの声で我に返ったビューザは、慌てて答えた。
「そうね……まずは精神分析の部屋かしら」
二人が精神分析の部屋に入ると、そこにはフロイトの有名なカウチが置かれていた。
「おや」
ダンが面白そうに言った。
「ビューザ、君はこのカウチに横たわって、自由連想をしてみる勇気はあるかい?」
ビューザは少し緊張した様子で答えた。
「え? で、でも……私の思考がすべて明らかになっちゃうんじゃ……」
彼女は言いかけて、ハッとした。自分がダンに対して抱き始めている感情が露呈してしまうのではないかという恐れが、彼女の心をよぎったのだ。
「大丈夫だよ」
ダンは優しく微笑んだ。
「ここでの体験は、すべて君の成長のためのものさ。怖がることはない」
その言葉に、ビューザは少し勇気づけられた。しかし同時に、ダンの優しさに触れるたびに、自分の心が揺れ動くのを感じた。
(私、ダンのことを……好きになってるのかもしれない)
その認識が、彼女の心の中でゆっくりと形を成していった。
次に二人が訪れたのは、認知行動療法の部屋だった。
「ここでは、思考と行動のパターンを変えることで、感情をコントロールする方法を学べるんだ」
ダンが説明すると、ビューザは少し考え込んだ。
「ねえダン、私の……ダンに対する気持ちも、ここで変えられるのかしら」
言葉が口をついて出た瞬間、ビューザは自分が何を言ったのか気づいて顔を真っ赤にした。
ダンは少し驚いたような、でも嬉しそうな表情を見せた。
「それは、君が変えたいと思う気持ちなのかい?」
その質問に、ビューザは言葉につまった。
「わ、私は……」
彼女は深く息を吸い、勇気を振り絞って言った。
「いいえ、変えたくないわ。この気持ち、大切にしたいの」
ダンの目が優しく輝いた。
「それこそが、君自身の選択だね。心理療法は、自分自身を理解し、受け入れるためのものなんだ」
ビューザは、自分の気持ちを認めた瞬間、大きな解放感を覚えた。同時に、これからダンとの関係がどうなっていくのか、期待と不安が入り混じった感情が湧き上がってきた。
「ねえダン、これからどうなるのかしら……私たち」
ダンは優しく彼女の手を取った。
「それは、これからの冒険で一緒に見つけていこう。心理学の旅は、自己理解の旅でもあるんだから」
ビューザは頷いた。彼女の心は、科学的探究心と個人的な感情が美しく調和し始めていた。
「さあ、次の部屋に行こうか」
ダンが言うと、ビューザは新たな決意を胸に抱いて頷いた。
彼らの前には、まだ多くの心理療法の扉が開かれていた。そして、その探索の過程で、ビューザは自分自身との、そしてダンとの新たな関係を築いていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます