【トール】第6章:超弦理論の11次元空間
私たちの旅は、超弦理論の11次元空間へと続いた。そこは、これまで訪れた場所とは全く異質な領域だった。微小な振動する弦が、すべての物質とエネルギーの根源となっている光景は、私の想像を遥かに超えていた。
「ここでは、すべての基本粒子と力が統一されているんだ」
ダンが説明を始めた。
「重力を含むすべての相互作用が、弦の振動モードとして表現される」
私は唖然とした。目の前に広がる光景は、まるで宇宙の設計図のようだった。しかし、それを理解しようとすればするほど、私の頭は混乱していった。
「待って、ダン」
私は困惑した様子で言った。
「これは……私には理解できない。11次元? 弦? これは現実なの?」
ダンは意外そうな表情を浮かべた。
「トール、君ならこれを理解できると思っていたよ。君の数学的才能をもってすれば……」
その言葉に、私は突然怒りが込み上げてきた。
「才能? そんなの関係ない! これは……これは狂気だわ!」
ダンは驚いた様子で私を見つめた。
「トール、落ち着いて。これは……」
「落ち着けないわ!」
私は叫んだ。
「あなたは私を試してるの? それとも、私を狂わせようとしてるの?」
ダンは静かに、しかし力強く言った。
「違う、トール。私は君に真実を見せているんだ。これが宇宙の姿なんだよ」
私は激しく頭を振った。
「嘘よ。こんなの……こんなの現実じゃない。私はもう……もうついていけない」
突然、私は泣き崩れた。これまで抑えてきた感情が、一気に溢れ出した。
恐怖、混乱、そして深い孤独感。
それらが私を押しつぶそうとしていた。
ダンは優しく私の肩に手を置いた。
「トール、大丈夫だよ。これは正常な反応なんだ。宇宙の真理に触れるということは、時に恐ろしいことでもある」
私は涙を拭いながら、小さな声で言った。
「でも……私は理解したいの。でも、できない。私には……才能がないのかも」
ダンは静かに首を振った。
「違う、トール。才能の問題じゃない。これは、人間の限界に触れる体験なんだ。誰もが最初は混乱し、恐れる。それは、新しい世界への扉を開く過程なんだよ」
その言葉に、私は少し落ち着きを取り戻した。
「じゃあ……これは正常なの? この混乱と恐れは?」
ダンは優しく微笑んだ。
「そうだよ。むしろ、これを恐れないほうがおかしいんだ。君の反応は、君が真摯に宇宙と向き合っている証拠なんだ」
私は深く息を吸った。
そして、もう一度目の前の光景を見つめた。
確かに恐ろしい。
しかし、その中に美しさも感じ取れる。
「ダン」
私は震える声で言った。
「私……もう一度挑戦したい。この世界を理解したい」
ダンは嬉しそうに頷いた。
「その意気だ、トール。さあ、一緒に探索しよう。ゆっくりと、一歩ずつね」
私たちは再び11次元空間の探索を始めた。今度は、私の中の恐れと向き合いながら、少しずつ理解を深めていった。
この体験は、私に大きな教訓を与えた。真理の探求は、時に恐ろしく、混乱を招くものだ。しかし、その恐れと向き合い、乗り越えていくことこそが、真の成長につながるのだと。
私たちが超弦理論の世界を後にする頃には、私の中に新たな勇気が芽生えていた。未知の世界への恐れは消えていなかったが、それと共存する方法を学んだのだ。
この旅は、宇宙の謎を解明するだけでなく、自分自身の限界と向き合い、それを超えていく旅でもあるのだと、強く実感した。
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