【トール】第1章:量子もつれの万華鏡

 ダンに導かれ、私は量子もつれの万華鏡の中へと足を踏み入れた。そこでは、粒子が無限に絡み合い、新たな現実を生成し続けていた。私の目の前に広がる光景は、これまで想像もしなかったものだった。


「見えるかい?」


 ダンが問いかける。


「粒子の最小単位が、どのように宇宙の構造を構築しているかを」


 私は目を凝らした。すると、量子もつれの糸が踊るように動き、複雑な模様を描き出す様子が見えてきた。それは、まるで生命体のようだった。私の心は興奮で高鳴った。これこそ、私が長年追い求めてきたものだ。


 しかし同時に、言い知れぬ不安も湧き上がってきた。この知識は、人類にとって危険なものではないだろうか。私たちには、この力を制御する能力があるのだろうか。


 ダンは私の表情の変化を見逃さなかった。


「怖いの?」


 彼は優しく尋ねた。

 私は正直に答えた。


「ええ、少しだけ……。これは……私たちの理解を超えているように感じます」


 ダンは微笑んだ。


「御明察。でも、恐れることはない。理解できないからこそ、探求する価値があるんだ」


 その言葉に、私は少し安心した。

 しかし、心の奥底では依然として警戒心が渦巻いていた。

 ダンは本当に信頼できる存在なのか。

 彼の目的は何なのか。

 そんな疑問が、私の心を揺さぶり続けた。


「でも、これはまだ始まりに過ぎない」


 ダンは微笑んだ。


「次は、相対性理論の迷宮へ案内しよう」


 私は深呼吸をした。これから先に待ち受けているものが、どれほど驚異的なものであっても、私は真理を追求する覚悟を決めていた。しかし同時に、ダンへの警戒心も捨て切れずにいた。


 私たちは次の冒険へと歩を進めた。私の心は興奮と恐怖、好奇心と警戒心が入り混じった複雑な感情で満ちていた。これが、新たな宇宙理解への第一歩なのだ。

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