【エリザ】第5章:文化人類学の超空間

 エリザとダンは、文化人類学の超空間に到達した。そこでは、文化を考察する行為そのものが、新たな文化的次元を生み出していた。


「文化とは、観察する者とされる者の相互作用の産物なのね」


 エリザは気づく。


「私たち研究者も、文化の一部なのだわ」

「その通りだ」


 ダンは頷く。


「我々は、文化を客観的に記述できると思い込んでいる。だが、記述する行為自体が、新たな文化的リアリティを作り出している」


 エリザは、自分自身の研究を振り返った。

 確かに、未知の部族を観察し、記述する行為は、部族の文化を変容させずにはおかない。観察者と被観察者は、切っても切れない関係にあるのだ。


 エリザは、過去の自身のフィールドワークを思い出した。

 アマゾンの奥地で未知の部族を観察し、記述した経験が蘇ってきた。


「そうだわ...」


 エリザは深い溜め息をついた。


「私が部族を観察し、彼らの生活を詳細に記録したことで、部族の文化が変容してしまったのよ」


 彼女は具体的な出来事を思い出しながら語り始めた。


「例えば、私が彼らの儀式を撮影したことで、儀式の意味が変わってしまった。カメラの存在が、儀式を"見せるもの"に変えてしまった。本来は神聖で私的なものだったのに」


 エリザは続けた。


「それだけじゃないわ。私が彼らの言語を学び、記録したことで、彼らの言語使用にも影響を与えてしまった。私との会話のために、彼らは自分たちの言葉を"説明"しようとして、本来の使い方から逸脱することもあったの」


「さらに、私が持ち込んだ現代的な物品...懐中電灯や時計なんかが、彼らの生活リズムを変えてしまった。夜の活動が増え、時間の概念が変わっていったのよ」


 エリザは苦悩の表情を浮かべた。


「私の存在自体が、彼らの文化を変容させる要因になってしまったの。観察者としての私も、彼らの文化の一部になってしまった。これは文化人類学の根本的なジレンマね」


 エリザはため息をついた。


「私の研究は、果たして正しいことなのかしら?」


 エリザは、自問する。


「私は、文化を理解しようとして、かえって文化を破壊しているのではなくて?」


 ダンは、エリザの肩に手を置いた。


「君は、文化の本質を見抜こうとしている。それは、崇高な営みだ。たとえ文化が変容しようとも、真理を追究する意義は失われない」


 ダンの言葉に、エリザは救われた気がした。彼は、自分の悩みを理解し、励ましてくれる。まるで、心の奥底を見透かされているようだ。


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