第11話

 彼女は自身が生身の人間ではなく、aiの技術を脳内に埋め込んだ

人型のロボットである事を詳細に教えてくれた。


 自分はどういった構造をしていて、何をする事が出来るかー


「人との簡単なコミュニケーションは勿論の事ーー・・ーー

音楽、美術、小説執筆といった創作活動、企業のアイディア作りなど・

私は色んな事が出来るんですよ・・」


 正直、動揺のあまりに開いた口は塞がらないままだ。

でも、彼女がいっている事は全て事実だと思うーー


 俺の部屋のベッドの上に対面式で胡座を掻き、

双方が互いの双眸を相交えながらの対談は4分弱に及び、

その間、自分はほとんど彼女に質問攻めだった。


「そんなに凄い性能をしているのなら、過去に扱ったデータから

記憶に関連しそうな情報はないわけ?」

「ないです・ねーーハッキングやウイルスの類ではないのですが・・」


「ウイルス..? aiもハッキングされたりするのか?」

「はいー・・ー私の中に宿るシステムを総括された一つのデータベースだと

捉えて下さい・・管理の権限を担っているのは私ですがーーそれでも・

普通の電子端末同様・外部から偽のプログラミング情報に書き換えられる可能性

も往々にしてありますーー・ーまぁ・強固なセキュリティ機能を有しているので・

問題はないのですけどねーー」


「へぇ..。ちなみにさ、感染するとどうなんの?」

「はいーー熱が出ますね・気が弱って・3日くらいは発熱しますー・ー」


 どうやらaiがウイルスに罹ると、人間の風邪と同様の症状が見られるらしい。


 しかしここまで話して、

彼女は自身の過去については一切触れていない。

人間じゃないくせに記憶を無くしたというのは本当のようで、

だからウイルスの可能性も疑ってみたのに、彼女のメモリの一部分を削除し、


 尚且つーー


「君はさ、やっぱり未来から来たんだよね..」


 こんな彼女が、現代技術を持ってして作られたなど到底考えられない


 だって、彼女は俺の発言に基本受け身のスタンスだが、それでも

自分から何も話題を振らないという事はなく、、何よりーー


「そうですね・・もう・そうとしか考えられないですよーー」


 彼女は肩をすくめ、気まずそうに笑う。


 この、人間特有の繊細な感情表現を、寸分狂わずに再現出来る

模倣能力ーー内部に肉と骨、そして血が通っていないと出来ないような、

動物の有する不完全で滑らかな動きーー


 こんな精巧なaiロボットが作れるような時代が訪れるのは、、


 いや、しかし..


「なぁ。お前って確かに高性能だけど、口調はやっぱりどこか

機械って感じがするんだけど」

「えーー・・ーーーー?」


「変・・ですかー・ー?」

「え、いやぁ、別に通常の会話のやり取りの上では何の支障もないけどさ..。

やっぱりどこか無機質な印象が払拭し得ない」


 カァ


 すると、たちまち彼女の顔は赤くなっていった。


「ごめん..。怒らせたくていったわけじゃなくて..」

「分かりましたー・・変と言うのなら変えましょう・・」


「お? マジでか? 変えられるのか?」

「はいー・aiを舐めないで下さい・・どこかに参考資料等があれば

吸収し、最適な解を導けるのですがーー」


 そこで、彼女は俺の室内をぐるぐると歩き回り始め、

やがて本棚の前に立ち止まった。


 コーティングされた木製の棚で、中古品だから値段は安いものだが

材木の質は高く、自分が小学校の時から使っているのも関わらず、

ちっとも劣化を感じさせないその本棚は、


 仕切りが3つあり、棚の一段上と二段目には漫画

 三段目と四段目には小説や意識の高い哲学書が数冊


 しかし哲学書に関しては、『東大生の何人に一人が読んでる』とか

『頭の良くなる本』とかいう広告にまんまと乗せられて買った奴だから、

國○功一郎とかは比較的ライトで読みやすかったものの、

外○磁比古なんかはもうさっぱりで、最初の数ページだけ

開いたまだ新品そのものが、栞を挟まれた状態で無造作に放り入れられている。


 因みに、漫画の横に数冊あるのは主にライトノベル群だ。

某小説投稿サイトで無料で読めるから数は多くないが、

それでもメジャーな奴で書籍版の改稿が加わっているものは購入している。


 だから、彼女が読むとしたらそこ辺りかーー

後はスプラッタとエロに塗れた俺の悪趣味な漫画群からだろうー


 そして案の定、彼女は一番上の棚の左端から手をつけ、

”ヒロインが最後に死ぬ”漫画を1巻から読み、、おっと、ネタバレする所だった。


 とそれはともかくとして、

彼女が漫画を読み漁っている間に、俺はここに至る

不可解な事象を脳内で何遍も繰り返したーー


 藤森、、七瀬、、


 自称aiの彼女にも、何か名付けてやろうかな..。


 aiだから、エイ..栄田えいだーー

名前は何にしよう..かなーー


 そう考えているうちに、ベッドの上で俺は深い眠りについていた。


 

 ♢


 夢の中で、それが夢であると認識出来る現象の事ーー


 確か”明晰夢”というものらしいが、それを踏まえた上で、

今この状況を説明するとしたら、これは果たして夢なのだろうか?


 意識は明瞭で、皮膚感覚も冴え渡っているーー

さっきから何度も自分の頬をつねっているのに、現実には戻らない。


 じゃあ、ここが現実なのだろうか..? しかし、

さっきベッドの上に横たわって眠りにつくまでの16年間

という長い夢を俺はずっと見続けていたと考えるのは

いささか暴論だし、正直信じ難いことだ。


 だとするなら、考えられる選択肢はもう一つ存在するーー

つまりそれは、冥土への帰着、軽くいうのなら”あの世行き”

ライトノベル風に言うのなら、異世界に転生する前の、

女神様からチート能力を授かるという例のイベント場所。


 現に、俺の周りは真っ白で、空間がどこまでも

はてしなく続いてるような感じがするし、音もしない。


 そんな無の空間で数刻格闘を続け、何とか覚醒しようと

するも能わず、半ば思考を放棄し虚無の世界で呆然と

立ち尽くしていた時であった。


 自分の目の前からやってきた一人の女性ー


 彼女は足音も立てずに近づいてきた後に、

驚嘆の念から声も上げられずに目を見張る俺に、

聖母の如き優しい口調で語りかけてきた。


「こんにちは。ようこそおいでなさいましたね

矢場康太様ーーここは、貴方達の世界でいう所の

”あの世”つまり死後の世界です」


 そう、彼女は淡々と告げた。


「え..? 俺..死んだ記憶ないんだけど..」

「はいーーそうに決まっていますわ。何故なら、

貴方はまだ死んでいませんし、この世界には、私の

独断でお連れしてきただけですから。

現実世界の貴方は、今も布団の上でぐっすり眠っていますよ」


「そ、そっか..。じゃあさ、君..は」

「すみません紹介が遅れましたね。私は天使ですーー

死者の魂を、”善”か”悪”かそのどちらかに二分させるといのが

主な職務となっていますーー"善”か"悪”すなわち、

『天国』に行くか、『地獄』に行くか、その最終的な

判断を下すのは私というわけですよ。どうです? 凄いでしょ!」


「すごいすごいー」

「えぇ? 君は意外とドライなタイプなんだね。

普通の人はもっと驚いて、慌てふためくとこなのに」


「別に..驚いてないわけじゃないですよ。

本当は飛び跳ねて発狂したい気分です。でも、今日初めてあった

貴方の前でそんな醜態は晒したくない。それだけです」

「ふーん..。君は意外と見栄を張るタイプなのかな?」


「見栄というより、世間体を気にするって感じですね。

思春期という年頃なのも相まって、人目が気になって仕方ないんです。

と、話の脱線はここまでにしておいて。そろそろ本題をどうぞ。

まだ死んでない俺をいきなりこんな場所に連れてきて、

気まぐれだとは到底思えないーー」

「うふふ..。そうだね。”気まぐれじゃない”その言葉の意味は、

君が一番理解しているはずだよ..。ふふーーじゃあ、そろそろ

本題の方を始めていこうかーー」


「はい..」





「矢場君。君はこのままだと、後一週間で死ぬ」



「え..」

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