第3話 魔物

臥龍岡ながおかさん。本当に俺に話しかけてないんですか?」


俺は痛みに耐えながら確認した。


「話しかけてない。よく考えてみて。


生首を目の前に置いたって言うけど、生首ってどこに隠し持つの?


あんなのポケットに入らないよね。」


臥龍岡ながおかさんがしゃがみ込んで下を向く。


「バイクを運転している君の目の前に生首置いたら、こうなるよね。


危うく君も私も命を落とすところだった。」


確かに。


臥龍岡ながおかさんが言っている通りだ。


先を急いでるのに邪魔してるようなものだ。邪魔している?


「これはね、見に行くのを邪魔さてるんだよ。」


臥龍岡ながおかさんが俺と同じことを思っていた。


「だからね。早く見に行かなきゃならないんだ。」


臥龍岡ながおかさんは何を知っているのか。


全てを知っているのは間違いない。


「わかりました。臥龍岡ながおかさんのことを信じます。」


どうにか動けるようになり、体の痛みもひいてきた。ただスマホが無い。


もしもの時に連絡できるようにしていたい。


バイクの周辺を探した。するとバイクから50メートルほど先にあった。


俺のスマホだ。「頼む。ついてくれ。」ボタンを押す。


ついた。電源が入った。電波も入っている。


俺はホッとした。「ブブブッ!ブブブッ!」電話だ。


ミアからだ。電話に出る。


「早く、そのおじさんから逃げたがいいよ。」ミアが開口一番指示を出す。


「なんで、さっき電話が切れた?」俺はミアに確認する。


「おじさんに邪魔されたんだよ。この電話も長くは持たない。


早く逃げて。また電話する。」ミアが電話を切った。


「くそ〜。」どっちの言い分が正しいのか。


まるで見当もつかない。


また、バイクを走らせている途中で生首が出たら、次はあの世行きだ。


しかし、早く出発しないと戻る時間が延びるだけだ。


「くそ〜。絶対に負けんぞ。さぁ!行こう。」


臥龍岡ながおかさんがテンション上がってるんだけど。俺はもう行きたくない。


臥龍岡ながおかさん!俺はもう限界です。


バイク貸しますから一人で大事な用事を済ませてください。」


俺が一緒にいけないことを告げる。


「くっそう〜。絶対負けないぞ〜。」


臥龍岡ながおかさんはバイクの周りをぐるぐる回りながら俺の言葉が聞こえていない。


臥龍岡ながおかさん。もう勘弁してください。


膝が曲がらないんですよ。バイクに乗れません。


すぐ救急車呼んでください。」


臥龍岡ながおかさんが俺の所へダッシュで飛んできた。


臥龍岡ながおかさんが俺の目の前で手をつく。


「どうか。どうか。無能で、どうしようも無い私を送り届けてください。」


臥龍岡ながおかさんが俺に土下座をする。俺は天を仰ぐ。


「どうか。どうか。私は返納しちゃって免許持っていないんです。自転車も乗れないし!」


そして臥龍岡ながおかさんが俺の胸に飛び込んでくる。


「わかりましたから。俺の傷口に障りますから。


どうか、座ってください。」


俺は天を仰ぎながら臥龍岡ながおかさんを引き剥がした。


臥龍岡ながおかさんはうずくまって泣き始めた。


すると背後から「ヒタッ。ヒタッ。」と足音が聞こえてきた。


歩いて来たのは2メートルはある頭に羊の角を持ち、下顎から牙を生やした人間?


背中にはコウモリの羽が生えており、足は動物の後ろ足のようであった。


この生き物?が俺と臥龍岡ながおかさんの横に立って見下ろしている。


臥龍岡ながおかさんは泣いて蹲っており、気付いてない。


俺は声が出なかった。するとその生き物?は足で臥龍岡ながおかさんを踏みつけた。


臥龍岡ながおかさんは泣いているだけだった。


その生き物?は手に生首を持っていた。その生首の表情は両目を見開き叫び声を上げるような表情だった。ただ眼球は入っていなかった。俺は声だけではなく、息も止まりそうだった。


「おじさん。」


呼ばれたので俺は振り返った。


そこにはビルの中で見た子供の幽霊が立っていた。


「あっちに、残ってたんじゃないの?」俺は何を聞いているのか。


「おじさん。大丈夫だよ。あいつは追い払った。」


俺は生き物?の方へ振り返ると消えていた。


臥龍岡ながおかさんは四つん這いでこっちを見ていた。


「おじさん。早く、この警備員の人と来てよ。待ってるから。」


俺はどこに?と聞こうとしたら子どもの幽霊も消えていた。


「君、誰と喋ってたんだい?」臥龍岡ながおかさんが不思議そうに聞いてきた。


「多分、幽霊です。」


と俺が答えると、「そうなんだね。私にも霊感があると良いんだけど。何にも見えなかった。」


臥龍岡ながおかさんは驚きもせず寂しそうに言った。


俺はこの短時間に色々あり過ぎて、情報を整理できないが、子どもの幽霊が可哀想すぎると直感で思った。


臥龍岡ながおかさん、神栖には何があるんですか?」俺は尋ねた。


「子どもの頃に遊んでいた空き地の向こうに築10年くらいの公営団地があったんだよ。」


臥龍岡ながおかさんが初めて俺の話に反応した。


「その団地には1部屋だけ住んでた人がいたんだ。


それ以外の部屋には誰も住もうとしない。


入居しても翌日には逃げるように引越していった。


みんなが住もうとしない原因はその唯一住んでる人だったんだ。」


臥龍岡ながおかさんが昨日のことにように話し始めた。


「子供ながら私も気になってね。近所のおばさん達の井戸端会議を盗み聞きしていたよ。」


臥龍岡ながおかさんの表情が暗くなってきた。


「あの部屋にはね。子どもを攫(さら)ってきては屍体をバラバラにしていたそうなんだよ。それがなんと10年も続けていたんだ。」


俺は気分が悪くなってきた。その部屋に行くつもりなんだと思い俺まで暗くなってきた。


「今も公営団地あるんですか?」


俺は臥龍岡ながおかさんに聞いた。


「実はね。それを確認したいんだよ。」


臥龍岡ながおかさんがまたウロウロし始めた。


「僕はね。夕方、外からあの部屋を見てたんだよ。遊びに夢中になって、みんなが帰ってるなんて、一人になって気付いたよ。そしたらね。目が合ったんだよ!」


臥龍岡ながおかさんの声が急に大きくなった。


「あの部屋から私を見てたんだよ。そして、見えたんだよ。」


臥龍岡ながおかさんがしばらく無言になった。


「何が見えたんですか?」俺が恐る恐る聞いてみた。


「あれは…。」


俺は臥龍岡ながおかさんを後部座席に乗せ、神栖へ向け、バイクを走らせていた。


臥龍岡ながおかさんから見えたものを聞き、あの部屋へ向けバイクを飛ばしている。


俺に何が出来るのか。分からない。


ただ、1秒でも早くあの部屋を見に行かなければ、臥龍岡ながおかさんを連れて行かなければ手遅れになる。


途中トイレ休憩でまたコンビニのイートインスペースで水と珈琲を飲んでいる。


早く行かなければ。


「いや〜年取るとね、トイレが近くなっていかん。すまんね。」


臥龍岡ながおかさんからはすまないと言う気持ちは伝わってこなかった。


「ブブブッ!ブブブッ!」ミアからの電話だった。


「よく、休憩していると分かるな?」俺は今日、霊感を信じている。


「コマンダー、早く逃げたがいいけど。しょうがないわ。」


よく、しょうがないとか日本語が自然に出てくるな。イギリス人なのに。


「いい。私はロンドンだから電話しかできないけど、必ず言う通りにしてね。


状況を説明するわ。一番危ないのはツノが生えてる奴、魔物よ。」


だろうな。俺は思った。ミアが続ける。


「子どもの亡霊、あれは味方よ。助けてくれるわ。」


そうなのか。理由はわからんが。助かる。


「あと、警備のおじさん。あれは、敵よ。絶対背後を取られないで。」


俺は背筋が再び凍った。ゲームじゃ無いんだから、背後とか無理だろ。


ふと振り返ると臥龍岡ながおかさんが真後ろにいた。


俺は悲鳴をあげた。電話を抑えながら「ちょっと待ってください。すぐ電話終わりますから。」


俺は臥龍岡ながおかさんから離れ電話を続けた。


「とにかく俺はあの部屋に行く。臥龍岡ながおかさんが敵だろうが、あの人でないと場所が分からない。」


俺は部屋に行く気満々だった。


「だから〜。その場所に行ったらアウトだって。あの警備員のおじさんの罠…。


プーッ、プーッ、」


突然電話が切れた。振り返ると臥龍岡ながおかさんが冷ややかな目でこっちを見ていた。

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