第2話 前世の記憶

「あー、疲れた……ぎりぎり終電間に合ったわ……」

 へとへとになって家へと帰ってきた。

 明かりを点けると、散らかった部屋がいやでも目に入る。あーいい加減片付けなきゃなぁ、と思いつつ邪魔なものを足でどけてスーツから部屋着に着替える。

 わたしは特に何の変哲もないOLだ。

 毎日ぎりぎり終電で帰れるWHITE企業で働いている。そう、ぎりぎり家に帰れるのでぎりぎりWHITEなのだ。

「ふう、危ない危ない。もう少しでブラック企業に就職するところだったわ……ホワイト企業で働けてよかったぁ~」

 なんて言いつつビールを開けながらノーパソの前に座る。

 いつもなら即ベッドに倒れ込むところだけど……ふふ、実は明日は休みだ。何日ぶりの休みだったかはもう覚えていない。でも、とにかく休みだ。

 今なら何でも出来る。気持ちの上では飛ぶ鳥も落とす勢いで空を飛べそうな勢いだ。まぁだいたいそれって気のせいで終わるし夕方まで寝て休日は終わるんだけどね。テヘ☆←アラサーの自覚のないアラサー

 さて、それでは寝る前にちょっとだけプレイしようかしら。

 当たり前のように、流れるようにカーソルをエ〇ゲーのアイコンに合わせる。

 職業OL。

 顔面偏差値は中の中。

 年齢はアラサーど真ん中。

 趣味は……エ〇ゲー。

 うん。

 我ながら色々と終わってると思う。

 しかもエ〇ゲーってのはいわゆる男性向けだ。

 いや、一つ言っておくとちゃんと女ですよ? 生物学的にはね?

 ただ残念ながら喜ばしいことに、わたしはとにかく可愛い美少女が大好きなのだ。

 たまたま女に生まれてしまったというだけで、中身はほとんどおっさんのようなものだと自分でも断言できる。きっと前世はしがないおっさんだったのだろう。自分でもそう思う。とにかくよく分からないくらい、自分でも美少女が好きで好きでたまらないのである。あ、もちろん美少年も好きだけどね?

 最近のお気に入りは『黒と白~邪神と女神のロンド~』というゲームだ。

 このゲームを売り出しているブランドはフルプライスではなく、だいたいが低価格のゲームだ。

 そして、そのタイトルのほとんどが流行っている物の二番煎じであることが多い。

 恥も外聞も無く、とにかく流行りに乗ってそこそこの売り上げを狙っていくハイエナのようなブランドだ。

 でもネットでは価格の割にそれほど悪くはないと評されている。価格と内容を天秤にかけて、批評〇間でつねに70点から75点がつけられている感じと言えば伝わるだろうか。伝わらないか。ごめん。

 ちなみにこのゲームは悪役令嬢やら聖女やら婚約破棄やら、そういう要素がてんこ盛りに盛り込まれている。本当に流行り要素には見境がない。

 でもそういう要素って女性向け作品の要素じゃないの? と思うかもしれないけど、これは男性向けだ。

 ……しかし、このゲームはとにかくわたしのへきに突き刺さった。

 まるでわたしのために作られたようなゲームだとさえ思った。

 主人公はエミリアという美少女。

 このゲームにはいわゆる攻略対象などはいない。とにかくこの可愛い主人公が可哀想な目に遭うという、ただそれだけのゲームだ。

 ようするに陵〇ゲーだ。

 とにかくエミリアは可哀想な目に遭う。

 プレイヤーは彼女が可哀想な目に遭っているところを、背徳感と共に見守る。わたしのようなゲスには本当にたまらないゲームだと言えよう。

「ふ、ふへへ……おっと、よだれが……ふへ」

 エ〇シーンを見ていたら思わずよだれが出てしまった。

 部屋着の袖で口元を拭っているとブラックアウトした画面に変な女の顔がドアップで映った。誰だこのキモい女。あ、わたしか。ははは。

「ははは……はぁ」

 思わず溜め息を吐いた。

 ……仕事から帰ってきて他にすることもなくエ〇ゲーやってニヤニヤしてる女の人って……。

 我ながら泣けてくる……そう思っていると、急に頭がくらっとした。

「……あ、あれ?」

 目の前が歪んだ。

 ふわふわとした感覚に包まれる。

 気付いたらそのまま床に倒れていた。

 身体がまったく動かせなかった。

 ――あ、あれ?

 え? なにこれ?

「――」

 声も出なかった。

 ちょ、何かやばい気がする。

 救急車呼ばなきゃ――そう思ったところで、わたしの意識は途絶えた。

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