第4話 初めての任務

ミズイが『ザ・カヴン』の二番隊に入隊してから、1週間ほどの日にちが経過した。


その間にミズイは色々なメンバーと出会い、時にはルーグをはじめとする他のメンバーと交流することもあった。


そうして暮らしに慣れてきた頃……。


「ドクトさんってここの副隊長だったんですねー」


ミズイは副隊長のドクトと話をしていた。


「副隊長だなんて……いやいや、私は偶然もらったこの能力のおかげで成り上がれただけだよ。もっと弱い能力だったらきっと今でも下っ端だったね。それと……」


「それと?」


「ミズイくん、今日が君の初任務だよ」


ミズイはそう言われて目を輝かせる。自分にはどんな初任務が待っているんだろうかと思いながら口角を釣り上げた。


「今回の二番隊の任務は……最近ジオシー共和国の各地を襲っている例の連中の事件を処理することだ」


「例の連中って誰のことですか?」


「君も私に連れてこられる前に遭遇しただろう?例の連中っていうのは『腐敗教団』のことさ。最近この辺りで都や田舎を問わずに略奪や殺しを続けている無法集団でね。……と言っても、本人たちの中ではルールに則って活動しているみたいだけれど」


「そうなんですか……そういえば、あの僕がこの前出会ったあのオレンジの『999』の女の子はどこの隊の所属なんですか?」


「オレンジの女の子?あぁ、スラミーちゃんか。彼女は四番隊の所属だ。四番隊には戦闘に向かない回復や事後処理などを担当する非戦闘員が集まるからねぇ。彼女は構成員の癒しを担当している」


「なるほど、そうなんですね……」


「もうすぐ隊長が来るよ。急いで準備をしよう」


ルーグは手袋をつけた手でトントンとミズイの肩を叩いた。手袋越しだったので、ミズイが死ぬことはなかった。


「あっ、はい。そうですね。といっても今の俺には水筒ぐらいしか持ってくるものはないんですけど」


ミズイはそういうと水筒を持って、ドクトとともに二番隊のドアの前に移動した。


「おはよう、ミズイ。今日はお前の初任務の日だ。よろしくな」


「はい!」


ミズイはそう言って元気よく頷く。ちなみに昨日聞いたところによると、この団長の名前はランゲルというらしい。


「とりあえず、今日は俺を含めて5人でいくぞ。まずは新人研修だからミズイと俺、そしてドクトは欠かせないな。それとあとは……キャストル、クロシェをこっちに連れてこよう」


キャストル、クロシェ……どんな人だろうと想像してみるミズイ。


しばらくしてやってきたのは、義眼と義手をして茶色い服に身を包んだ男性で、「914」の数字を持つキャストルと、可愛らしいワンピースに身を包んだ赤い毛の少女である「1048」の数字を持つクロシェだった。


「キャストルです。よろしくお願いします、ミズイさん」


「クロシェだよ。小さいけどこう見えても私、ミズイくんの先輩なんだよねー。まぁ、よろしくねぇ」


「ああ、はい、よろしくお願いします……」


「それじゃあ、被害があったマーチ市まで歩くぞ、俺は地図をすでに読んでるから俺についてくるように」


ランゲルは後ろを向きながらドアを開け、そのまま首を元の角度に戻して歩いた。残りの4人も後ろをついてマーチ市へと歩く。


この隙にミズイはキャストルとクロシェに、彼らの能力について聞いた。


その結果、キャストルは触れることで物体を「改造」「等価交換」「分解」することができ、クロシェは自分で製作したテディベアを生きているかのように操ることができる能力であることが判明した。


その結果として、クロシェの後ろには10匹ほどのテディベアがいて、まるで親ガモについていく子ガモのように可愛らしく彼女の後を追っている。


そのテディベアたちは一応鋭い針を所持してはいたが、テディベアが戦うところをあまり想定できないミズイは、彼らが戦えるのか少し不安になった。


「マーチ市についたぞ。ここで犯人を探そう」


そこからマーチ市での散策が始まった。しかし、直後に謎の叫び声が聞こえたので、叫び声が聞こえた方に向かった。


ドアを開けると、そこにいたのは惨たらしく喉を刺された女性と、ナイフを手に持っている初老の男性だった。男性は足音に振り向き、こちらを向いて立ち上がる。


「ああ、お客様ですか。わたくしはデーズ、クリスティーナ様に使える執事でございます。それではあなた方には……私の仕事を邪魔したので死んでもらいます」


そう言いながらデーズはナイフをこちらに向けてくる。ミズイは咄嗟に彼の攻撃を石化してガードした。その後ろからドクトが気づかないように回り込み、手袋を外すと指先で触れただけでデーズを殺してしまった。


(相変わらずドクトさんの能力って怖い……)


「おいドクト。そいつの能力の番号は?一応記録させておこう」


ドクトは死体を力をこめて裏返し、倒れたデーズの死体をチェックする。しかし、その首には何の数字も刻まれておらず、驚愕のあまりドクトは一瞬息を止めた。


「なんだと?数字が刻まれていない?ということは能力の影響を受けた一般人か?それとも……」


しばらく可能性を考えるランゲル。しばらく考え込んだ後、二番隊は捜査活動を再開する。しかし、そこには先ほどのデーズと瓜二つの男性が街を歩いていた。


ミズイはそれをみて、思わず敬語が崩れて「えっ!?これってどういうことだ?」と大きな声で言った。


驚愕のあまり5人は立ち尽くすしかなかった。


――――――――――――――――――――――――――


作者メモ(今回からつけていこうと思います)

オブジェクトクラスは危険度とは関係がないので、元のSCPのオブジェクトクラスと能力の強さには関係がない。

強いSafeの能力者もいるし、弱いKeterの能力者もいる。また、どんなSCP能力者にも得意な相手や苦手な相手はいる。


作中能力の元ネタになったSCP

SCP-914 - ぜんまい仕掛け

http://scp-jp.wikidot.com/scp-914


SCP-1048 - ビルダー・ベア

http://scp-jp.wikidot.com/scp-1048

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