第33話 歪

シモンから貰ったゴフェルが方舟の形に変わり、厄災との戦いは一瞬にして終わった。


少し歪な方舟は、俺がこれまで使っていた方舟とは全てが違っていた。

これまでに無いパワーとスピード。

完全解放をした時には劣るが、それに近い力を感じる。

それに炎の色だ。少し灰色?になったような、くすんでいるように見えた。


倒した厄災の灰が宙を舞う。


「レイさん...方舟が...。」

「それは一体なんだ?」


俺はレイのその問いに答えることができなかった。


方舟はゴフェルという特殊な木材を加工し、ノアの覚醒者が力を流し込む事で初めて完成する。

でも、今俺の両腕にある方舟は加工を施されていないゴフェルが変化したものだ。

あまり方舟の技術について詳しい訳ではないが、明らかにおかしい事が起こっている事だけは分かる。

いったい俺の身体と方舟に何が起こったと言うのだ。


「俺にも何が何だか...。」

「まぁ、こんな事は僕も初めてだ。今考えても仕方がない。ルーク・キャンベル、ひとまずアークに帰ろう。」


ーーー


ノア化を解くと、方舟はリング状になり、俺の両腕にブレスレットのように収まった。

これも同様、歪な形だった。


少しすると、馬車が迎えにきた。


「ルーク・キャンベル、そのゴフェルについて詳しく教えてくれないか?」

「はい、もちろんです。」

「じゃあまず、それはどうやって手に入れた?」

「これは...シモンから貰ったんです。」

「シモンってアーク所属している?」

「そうだと思います。」

「そうか…君はシモンさんと知り合いなのか?」

「はい。俺の育ての親であり、魔術の師匠です。」


俺がそう言うと、レイは下を向き、少し考え込んだ。

そして少しすると、レイはもう一度俺の方へと顔を向けた。


「うん、分かった。それなら大丈夫だ。」


レイは何かに納得したようだった。


「えっと...どう大丈夫なんですか?」

「シモンさんは僕が最も尊敬する人の1人だ。それだけで十分だ。」

「レイさんは...シモンを知っているんですか?」

「もちろん、僕の師匠だからね。僕は魔術じゃなくて覚醒者としてだけど。」

「えっ、そうなんですか!?」

「うん、そうだよ。」


なんと、驚いた。

俺に兄弟子がいたとは。


「じゃあ、シモンも解放者なんですか?」

「あぁ、そうだ。それに医療班の班長でもある。君は知らないかもしれないが、アークでは皆がシモンさんを尊敬している。」


シモンが解放者である事は予想していたが、医療班の班長まで務めているとは。

思っていた以上に凄い人なんだな。


「解放者と班長を同時に...。」

「うん、兼任はかなりしんどいね。でも兼任している人は少なくない。僕もハムシーク家当主と兼任だし。」

「そうなんですね。他にも解放者は...。」

「おい、いくつも質問をしないでくれ。任務が終わったばかりだ。休ませろ。」


ーーー


アークに着くとレイは報告に、俺はゼインの元へ向かった。

早くゼインさんに方舟のことを報告しなければ。


「ゼインさん!」


俺は研究室を勢いよく開けた。

そんな俺の様子に驚いたゼインは走って俺の元に駆け寄ってきた。もちろん犬も一緒に。


「キャンベル、どうしたんだ?今、任務から帰ったばかりだろう?」

「はい、でもゼインさんに早く報告しないといけないことが。」

「そ、そうか。ほら、ここに座りなさい。」


ゼインは研究室の椅子を1つ持ってきて俺の前に置いた。


「ありがとうございます。」

「うん、それで話とは何だ?」

「あの、これなんですけど。」


俺は両腕にブレスレット状に収まった方舟をゼインに見せた。

するとゼインは驚き、目を見開いた。


「それは...。」

「方舟です。」

「ああ、確かにそう見える。今、発動できるか?」

「わかりました。」


俺はノア化し、方舟を発動して見せると、ゼインは更に驚いた表情をした。


「確かに方舟だ。でも、どうして...?」

「シモンから貰ったゴフェルが突然、この形に。」

「そのゴフェルについて、シモンからは?」

「何も聞いてません。」

「そうか...、分かった。その方舟を私に少しの間、預けてくれないか?調べなければいけないし、それに少し形が歪だ。加工が必要だろう。」

「はい、もちろんです。」


ーーー


研究室から出ると、ドアの外でニコ班長が俺を待っていた。


「やあ、ルーク君。」

「あっ!ニコ班...長?」


俺に労いの声をかけたニコ班長の顔は少し険しい表情だった。


「任務お疲れ様。」

「はい...。えっと...何かあったんですか?」

「レイから方舟のことを聞いたんだ。」


あぁ、そのことか。

ニコ班長、心配してくれてるだな。


「少し形は変わりましたが、俺には何の問題もないので、心配ご無用です。」

「うん、それは...凄く良かった。でも、1つ忠告しにきたの。」

「忠告...ですか?」


忠告?

何のことだろうか?

俺、何かしたっけな。


「そうよ。ルーク君は、完全解放の件や今回の件と言い、少し覚醒者としておかしな点が多い。君は評議会に目をつけられている。」

「評議会…?」

「アークを創った3つの当主からなる議会よ。評議会はアークの全てを決める。そして、彼らは異物を嫌う。だからルーク君、自分でどうこう出来ることでは無い事はわかってる。でも気をつけて。」

「わ、分かりました。」


ニコ班長は凄く真剣な様子だった。 


俺はアークにとって異物ではない...と思う。

でも、最近の俺にはそう思われても仕方のないくらい奇妙な事が起こり続けている。


これ以上何かあれば、俺は評議会で死刑でも言い渡されるのだろうか。

ニコ班長の言う通り、これからは少し、気を配って生きよう。


ニコ班長と別れ、俺は方舟が再び使えるようになった事をエマやカンナリに伝えようと思ったが、2人とも任務に出ているとのことだった。


ニコ班長に気をつけるよう言われた手前、あまり言いふらす事ではないことは分かっている。

でも俺はノアの覚醒者として任務に再び当たれることが嬉しかったのだ。


今は早く2人に会いたい。

あんなに嫌な奴だと思っていたカンナリにさえも。


2人が無事に任務を終えることを祈ろう。




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