第32話 簡単な任務
次の日の正午頃、馬車が止まった。
任務についてレイから説明されることもないまま、目的地についた。
そして馬車から出たとき、俺は広がる光景に目を疑った。
辺り一面、霧で真っ白だったのだ。
隣にいるレイさんでさえ、ぼんやりとしか見えない。
これでは厄災に襲われた時、反応が遅れてしまう。
「レイさん、これ…どうしますか?」
「ん?進むよ。」
真っ白の視界プラス方舟が使えない俺は警戒度マックスだったが、そんな俺とは正反対にレイは至極冷静だった。
流石は解放者、余裕が違う。
「そ、そうですよね。進みましょう。」
「はぐれないでよ。」
俺はレイから離れないよう、彼の後ろにピッタリと張り付きながら進んだ。
レイはそんな俺を邪魔そうに何度も振り返り、嫌な顔をしていたが、気を使う余裕なんて俺にはなかった。
「レイさん。」
「なに?」
「今回の任務の内容って...。」
「あー、言ってなかったっけ?」
「え...はい...。」
嘘だろ!?
忘れてただけだったのかよ!
「もちろん、厄災退治だよ。簡単な任務さ。」
「あの...もっと詳細を...。」
「えー、面倒くさいなー。どうせ倒すんだから知らなくても一緒でしょ。」
「そ、そこを何とか。」
「しょうがないなー。」
レイはダルそうにそう言うと、渋々説明を始めた。
「あのね、ここは元々、多くの旅人が行方不明なることで有名だったんだ。おそらく厄災が関わっているんじゃないかとアークは睨んでいたんだげど、確証が無かったから後回しになってたんだよね。でも、最近あまりにも行方不明者が多いから探索班を数名向かわせたんだ。」
「それでどうだったんですか?」
「誰も帰って来なかった。探索班は覚醒者ではないとはいえ、厳しい訓練を受けた対厄災のプロだ。戦う事は出来なくても、逃げる事くらいは出来る。そのプロが1人として帰って来れなかった。これは厄災が複数体いると見て間違いないだろう。と言う事で、僕がこの任務を選んだんだ。」
「選ぶとか出来るんですね。」
「僕は特別だからねー。でも、この任務を選んでのは君のためだよ。」
俺のため?
どう言う事だ?
「レイさん、それはどういう...。」
「しっ!静かに。」
レイが突然、立ち止まった。
密着して歩いていたので、レイの背中にぶつかる。
「ど、どしたんですか?」
「囲まれてる。」
「な、何に...。」
「厄災に決まってるだろう。」
一気に緊張感が走る。
俺は全く気づかなかったが、俺たちはいつの間にか厄災に囲まれていたようだ。
どこにいる?
全く分からない。
「レイさん、どうしますか?」
「ルーク・キャンベル、頭を下げて。」
レイの言う通りに俺がしゃがむと、レイが右手を振り上げた。
すると、その右手が光った。
太陽を見た時のように、目を瞑らざるおえないほど明るい光だ。
「うっ、」
俺は咄嗟に目を瞑った。
【完全解放】
レイがそう呟くと、キーンッという耳鳴りのような音が響いた。
そして数秒後、俺が目を開くと、霧は晴れ、大量の灰が舞っていた。
「っ...。」
俺はあまりにも一瞬の出来事に驚き、動けないでいた。
灰の量からして、厄災は20〜30体、もしくはそれ以上いたはずだ。
その量の厄災をレイは今の一撃で葬った。
強いなんてもんじゃない。
次元が違う。
「ふぅー、これでよし。」
「もう...終わりですか?」
俺がそう言うと、レイの顔は一瞬歪み、大きなため息をついた。
「君、覚醒者なのに本当に感覚が鈍いね。これで終わりなわけないでしょ。それじゃあ君をここに連れてきた意味がない。ほら、あそこを見て。」
彼が指差す先には厄災が一体、無傷でこちらを見ていた。
そう、レイはあれだけいた厄災をたった一体だけ残して攻撃したのだ。
とんでもない精度だ。
「一体だけ残してどうするんですか?」
「君が倒すんだよ。決まってるじゃん。」
へ?
俺いま、方舟使えないんですけど。
「ちょっ、ちょっと待ってください!む、無理です!」
「無理とかないから。逃げたら僕が君を殺すよ。ほら、行って。」
彼はそう言うと、俺の尻を蹴った。
そして俺はふわりと宙に浮かび、厄災の目の前に投げ出された。
「グルルルルッッ」
目の前に転がってきたノアの覚醒者を見て、厄災が殺気をはなつ。
それと同時に右から大きな塊が迫ってくるのが分かった。
俺は咄嗟にノア化し、ギリギリその厄災の攻撃をかわす。
「ハァ、ハァッ、あっぶねぇ。」
今のスピード、攻撃力からして、おそらくまだアザモノには至っていない。
しかし、普通の厄災よりは明らかに強い。
アザモノになりかけの厄災って感じだ。
もちろん方舟があれば、このレベルの厄災なんて余裕で倒すことができる。
でも、今は使えない。
ということは今の俺とあの厄災の実力は同等、もしくはそれ以下だ。
厄災の攻撃を避ける間に俺も数発、攻撃してみたが、あまり効いている様子はなかった。
攻撃は最大の防御だ、とはよく言ったものだ。
自分から攻撃できないと、ここまで戦いにくくなってしまうとは。
そんなことを考えている間にも厄災の攻撃は止まない。
やばい。
これじゃあ、やられるのも時間の問題だ。
一体、レイさんはどういうつもりなんだ。
レイの方へ、ちらりと目をやると彼は顔色ひとつ変えず、俺と厄災の戦いを見ていた。
覚醒者が今1人減ってしまうかもしれない時に。
「ルーク・キャンベル、戦いの間によそ見をするな。死ぬぞ。」
「そ、そんなこと...っ!」
そして案の定、戦いの間によそ見をしていた俺に厄災の攻撃が直撃した。
「ぐはっ!」
俺が吹き飛ばされると、レイが空中で俺を受けとめた。
「もー、何やってるの?君、やる気ある?」
「レ、レイさん、マジで死んじゃいます...。」
「じゃあ、尚更早く倒さないと。ほら、早く行って。」
「待ってください、方舟を使えない俺がどうやってアレを倒せと?」
方舟なしで戦ってみて、改めて分かる。
方舟の無い覚醒者は弱い。
それ程に方舟というものはノアの覚醒者にとって必要不可欠なものなのだ。
「はぁ、君はねノアの力の使い方ってものがなっていない。あの程度の厄災ならば、方舟無しでも十分に倒せる。これは僕だからじゃない、君もそうだ。いいかい?身体中の血管を通して血を流すようにノアの力を流すんだ。いや、君なら炎か。全身の血という油に着火するイメージで、ノアの力を使え。」
「や、やってみます。」
イメージする事が大事ということ以外よく分からなかったが、とりあえず言われた通りにやってみる。
まずは目を閉じる。
集中するんだ。
そして、全身に流れるノアの力を感じる。
・・・
よし、次はそれに一気に着火だ。
・・・
・・・
くそっ...。
途中までは上手く行っているように感じた。
でも、体から溢れ出る力、炎はいつもと同じで変わった様子はない。
「ダメでした...。」
「いや、ルーク・キャンベル...、これは...。」
ふと前を見ると、レイはひどく驚いた顔をしていた。
「な、なんですか?」
「首元のそれ...。」
レイは俺の首元を指差した。
俺がその方向へ視線を落とすと、首元にかかるゴフェルが光っているのが分かった。
そしてそれは俺の両腕に分かれ、グローブの形になった。
その瞬間、白い炎の勢いがこれまでにないほどに増す。
「えっ...。方舟...!?」
驚くことに、加工されていないゴフェルが方舟の役割を果たしている。
形は少し歪だが、確かに俺の方舟の形だ。
それに、完全解放した時の形に近い気がする。
何がきっかけになったのか、そもそも加工前のゴフェルがなぜ方舟の役割を果たせているのか分からないが、とにかく俺の方舟は復活した。
「君、それどうやったの?」
「わ、わかりません..。」
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