第18話 アザモノ

「アレ?マダイキテル。コイツモ“ノア”カ?」


厄災は不思議そうにカンナリを見つめる。

これまでの厄災とは違う。

はっきりと言語を話している。

知性があり、意識もはっきりしている。

これが厄災の成長個体、アザモノか。


異形化させた右腕でカンナリの腹を貫いた厄災は、左腕も異形化させた。

トドメを刺す気だ。


「やめろ!」


俺は両腕にありったけの白い炎を溜め、厄災めがけて解き放った。

【聖炎(ホーリーフレイム)】


炎の塊が、厄災に向かっていく。


「ジャマスルナヨ。」


厄災は両腕の異形化を解き、俺の攻撃から華麗に身をかわした。

カンナリは地面に倒れ、辺りが血で染まっていく。


「カンナリッ!大丈夫ですか!?」


俺はすぐさま、カンナリを抱き抱えた。


「ハッ、...ハッ、...。」


良かった。

かろうじて息がある。

しかし、どうする。

彼を守りながらでは、戦えない。

まず、彼をどこかに隠さなければ。



“なんだなんだ、今の音は。”


大きな音を聞きつけた、町の人が家から出て来た。


“朝っぱらから騒がしいな”

“うるせぇんだよ!静かにしろ!”

“おい、あいつ血だらけじゃないか!”


騒ぎがどんどん大きくなり、町の人が集まってくる。

その中には、泊めてもらった宿の女性もいた。


「ちょっと、誰か!セスクを知らない?起きたらいなくなってて。」

「おばさん、ここだよ!」


セスクの形をした厄災がそう答える。


「ダメじゃないか、勝手に出ていっては。」


女性はセスクに駆け寄り、抱きしめる。


女性は、セスクが厄災だなんて、微塵も思っていない。それもそうだ。

異形化を解いているので、見た目はただの少年、とても厄災になんて見えない。

さらに厄災は、まるで自分が人間の子供かのように振る舞っている。


厄災がニヤリと笑った。

それと同時に感じる強い殺意。


「危ない!セスクから離れて!」


俺がそう言って駆け出した時にはもう遅かった。

両腕を異形化させた厄災は、女性を文字通り八つ裂きにした。

肉と骨が引き千切られる音と血が飛び散った。


“キャアアアア!!”


突然の出来事に、町の人々は混乱し、叫び、逃げる。

その逃げる人々を厄災はお菓子でも摘むように1人ずつ殺す。

殺そうと思えば、一気に殺せるだろうに。

わざと1人ずつ殺している。

遊んでいるのだ、人殺しをゲームのように。


俺は、どうすることも出来ず、ただ立ち尽くしていた。


やばい、どうする。

炎で厄災を吹っ飛ばすか?

いや、ダメだ。

俺の攻撃対象の選択は、まだ自動選択(オート)、これだけの人数にめがけて炎を放てば、厄災以外を傷つけないとは限らない。

くそっ。

何も...出来ない...。



「キャンベル様!何してるんですかっ!?」


気がつくと、ジンが俺の肩を揺さぶっていた。


「えっ、あっ、厄災が突然...。」

「なら、ボッーとしている場合ではありません!カンナリ様は私に任せてください。キャンベル様は今すぐ厄災の破壊を!」

「でも、町の人たちを巻き込んでしまうかもしれません。」

「勘違いしないで下さい。あなたの任務は、厄災の破壊、人命救助は二の次です。ここで、厄災、それもアザモノを逃すことの方が問題があります。今は、アザモノを破壊することだけを考えて下さい!」


ジンはそう言うと、俺からカンナリを受け取って走っていった。


俺は落ち着くため、深呼吸をする。


「スゥーッ、ハーッ。」


ジンさんの言う通りだ。

ここで厄災を倒すことが最優先。

他のことは考えるな。


白い炎の勢いが増した。

方舟も戦えと言っている。


足の裏に炎を溜め、放つ。

物凄いスピードで、厄災の目の前まで近づけた。


右拳に炎を集め、厄災を殴る。

次は左、右、左。


その間にも繰り出される厄災の攻撃も全て炎でガードする。


いける、いけるぞ。


白い炎はまるで俺の手足のように、俺の思い通りに動いた。

方舟を使っていた時と使っていなかった時、炎の操作度がまるで違う。

これがノア専用の武器、方舟か。


攻撃力、防御力、精度、全てにおいて俺が勝っている。しかし、さすがアザモノ、決め手となる一発がなかなか当たらない。


「もう、諦めろ!お前に勝ち目はない!」

「ウルサイッ、ウルサイィィ!」


厄災の攻撃がまたズンッと重くなる。

ガードに意識が向き、さらに攻撃が当てづらくなる。


早く決着をつけなければ。

俺はまだ、ノアの覚醒者になって間もない。

なので、力の調節が上手く出来ない。

今も、おそらく必要以上の出力を出している。

それに何より、俺の体がこの大きな力に慣れていない。


体感で分かる、あともう一度でかい技を出せば、俺のノア化は解ける。

つまり次の大きな一発で倒せなければ、俺の負けだ。


「かはっ、。」

「グウッ、。」


俺と厄災、同時にお互いの攻撃が直撃した。

厄災の攻撃は、鞭のようにしなり、衝撃が全身に伝わる。

しかし、俺の炎も対厄災には効果抜群、かなりのダメージが入ったはずだ。


厄災の動きが一瞬、止まる。


俺は激しく痛む体を無理矢理動かし、右拳に残った全ての力を注ぎ込む。


「これで終わりだっ!」

【聖爆炎(ホーリーブレイム)】


「グウゥアァァァァッッ!」


炎の塊は、厄災に直撃し、腹から下、そして左腕を吹き飛ばした。


残った上半身が地面に転がる。


「やっ...た...。」


俺は力を使い果たし、半分白目を剥きながら、膝から崩れ落ちた。


なんとか、死なずに倒すことができた。

安堵の気持ちが溢れるが、気持ちのいいものではない。

厄災とは言え、姿は子供。

ドルド王国の王女も幼かったが、今回はさらに幼い。

こんな小さな子供でも、厄災になるのか。

いち早く、神の肉片を全て破壊しなければ。


まあ、何はともあれ、これで任務は完了だ。

ジンさんと合流して、アークに帰るとしよう。


何とか痛む体を起こした時だった。


左横腹から全身にかけて衝撃が駆け巡った。

鞭のようにしなる、何かで攻撃された感覚。


そう、厄災は死んでいなかった。

いわゆる死んだふりってやつだ。


俺は、建物の石壁を突き破り、吹き飛ばされた。


「ぐっ...くそっ、油断した...。」


厄災は、死ぬと神の肉片を残し、灰になる。

それを確認するまで、厄災の破壊は完了していない。

初めての任務なんて言い訳は通用しない。

命が懸っているものだと分かっていたはずだ。

俺はそれを怠った。

当然の結果だ。


俺にはもう、ノアの力を使う体力は残っていない。少し身体能力の高い、ただの人間だ。

それに、今の攻撃で、骨が数本いかれて、動けない。


厄災は残った上半身を引きずりながら、こちらへと近づいてくる。


「ユダン...シタナ..ノアッ!」


厄災は残っあ右腕を異形化させる。


俺の2度目のスーパーハードモードな人生。

こんなところで終わるのか。


そう思った時だった。


“ァァァ”


ん?なんだ?

鳥のような、甲高い声?音?が聞こえた。


“ィャァァァァァ”


女性の...声?

どんどん音が近づいてくる。


「キャアアアアアアッッ!」


ドカーンッという、大きな音ともに、降ってきた何かによって、厄災は潰された。


パラパラと砂埃が舞う。

砂埃の中から、降ってきた何かが出てきた。

天使のような白い髪が揺れる。


「いてて、また着地失敗しちゃった。」


目が合った。


「あなたは...いったい...。」

「え!?君、大丈夫!?」


俺は混乱していた。

ついさっきまで殺されかけていたのもあるが、空から降ってきた何かの正体に驚きを隠せない。


俺が何を言っているのか分からないだろうが、あえて俺が見た、そのままを伝えよう。


空から美少女が降って来ました。

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