第10話 襲撃と違和感

護衛当日、俺はゆっくり宿で休んでいると、衛兵がわざわざ宿に迎えに来た。

報酬を持って逃げるのを防ぐためだろう。

さすがは国の仕事だ、しっかりしている。


宿の外に馬車が用意してあったので、俺はそれに乗ってドルド城へと向かった。


ーーー


城に着くと、昨日の豪華な部屋に案内された。

部屋には既に6人が集まっている。

昨日、帰り道で俺に話しかけてきた男はまだ来ていない。

あれだけ俺に言っておいて逃げたのだろうか。


全員揃うまで待つのかと思いきや、俺が到着するとすぐに宰相のサイが説明を始めた。


「では、改めて今回のサラ王女の護衛について詳細を伝える。目的地はナルタシア王国の国境付近までだ。失敗は許されないからな。死んでも守れ。」


宰相から執事のゼンに変わり、説明は続いた。


「今回は護衛のため特別にサラ王女に謁見することを許可されています。では王女様、こちらへ。」


執事がそう言うと、衛兵に囲まれた1人の少女が出てきた。

年齢は12.3歳くらいだろうか。

王女という称号にふさわしい、美しい顔立ちだ。

しかし、何かに絶望しているような虚な目をしている。

こんな幼い少女が国同士の会談に行くのか。

王族というと、金持ちくらいしか印象がなかったが、意外と大変そうだ。


王女様は少し前に出てきただけで、何か言葉を発することもなく、すぐ後ろに引っ込んでしまった。

王女様が引っ込むと、雇われの男たちがヒソヒソと話し始めた。


“おい、あんなガキを護衛するのかよ。”

“やめとけ、王女様だぞ。聞こえたらどうすんだ。”

“それにしても、なんで俺たちが雇われんだろうな。”

“細かいことは気にすんな。高い報酬貰えんだから。”


この男たちと同じように俺もこの仕事に少し違和感を感じていた。

この幼い王女様が会談にでなければならない事や失踪者のことと言い、おかしな点が多い。

もしかして、何か俺たちに隠している事があるのだろうか。

いや、あまり詮索するのはやめておこう。

こういう世界の王族は何か気に触る事があれば、処刑だー!とか言い出しそうで怖い。


そんな事を考えていると、すでに全員部屋にはいなかった。


「キャンベル様、どうなさいました?」

「だ、大丈夫です。何でもありません。」

「では、出発するので外にお集まり下さい。皆さん先に行ってしまいましたよ。」


執事に促され、俺は城の外に出た。


ーーー


外に出ると、綺麗な毛並みをした真っ白の馬が引く馬車が待っていた。

もちろん、俺たちが乗る馬車ではない。王女様が乗るものだ。

俺たちには別で1人に1匹、馬が与えられた。

心なしか、衛兵の馬より、俺たち雇われの馬のほうが貧相に見える。


「ではキャンベル様、お願いします。」

「な、何を?」

「魔術です。馬車に施して下さい。」

「あ、はい、分かりました。」


執事に言われるがまま、馬車に術式を書き、魔術の準備をする。


「王女様はもう中に?」

「はい、既にいらっしゃいます。」


王女様はいつのまにか馬車に乗っていた。

これから命懸けで守ってやるっていうのに、俺たちに挨拶の一つもする気はないらしい。


「よし、できました。」


今、俺が施せる最高強度の魔術を馬車に施した。

これで中から外には出られるが、外から中には王女様以外入れない。

しかし、難しい条件を加えたせいか、魔術が安定するのに少し時間が掛かりそうだ。


「す、すごい。」


俺が魔術を張る様子を見て、執事は驚いていた。


「私も少し魔術をかじったことがありますが、ここまでのものは見たことがありません。」


当然だ。

伊達に何年も魔術を練習してきた訳じゃない。

そんじょそこらの奴に負けはしない。


とは言っても、俺はシモン以外の魔術を見たことがない。

なので、自分の魔術の実力についてどの程度なのか分かっていなかった。

この驚き方を見るに、どうやら俺は有能寄りらしい。


自分の有能さに浸っていると、あっという間に魔術は安定した。


「では、準備が整ったようなので、ルートの説明をします。ここから半日も行けば、大きな森が見えます。その森を抜ければ目的地です。」


執事が淡々と説明を終えると、馬車が動き出した。

護衛スタートだ。


ーーー


護衛が始まり、2日経過した。

既に森に入り、目的地まで半分を切った。

これまで、特に何も起こっていない。

日が出ているうちは、怖いくらい順調だ。


しかし、日が落ちると話は変わる。

月の光はあるが、辺りは真っ暗で、前がほとんど見えなくなってしまう。

なので、夜は馬から降りて徒歩で進む。

衛兵が馬車を囲み、馬車の前を俺たち雇われが歩く。

少しの睡眠の時間以外動きっぱなしで疲れているので、皆んな無言だ。


しかし、何も起こっていないとはいえ、真っ暗な森はかなり不気味だ。

はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。

さっきからガサガサと音がしてる気がするし、動物のような何かの鳴き声も聞こえる気がする。


俺が1人で怖がっていると、隣の男が小声で話しかけてきた。


「おい、あとどれくらいだ?」

「わ、分かりませんよ。明日中には到着するんじゃないですか?」


俺の声が震えていることに気付いたのか、男はニヤニヤして俺を見ている。


「まさか、怖いのか?」

「こ、怖くないですよ。」

「嘘つけ、声が震えてるぞ。まあ、この国には墓地が多いもんな。出るかもな、幽霊。」

「は、はははっ。ゆ、幽霊...ね。」


男は笑いながら俺の背中を叩いた。


「はっはっは。幽霊なんている訳ねぇーだろ。」

「で、ですよね。」


俺はどこからか襲ってくるかもしれない敵に加え、一応幽霊も気にしつつ森を進んだ。


ーーー


敵が出ることもなく、(もちろん幽霊も)森の出口がうっすら見えるところまで来た。

あともう一息だ。


襲われるとすれば、森だっただろう。

身構えていたが、案外簡単な仕事だった。


そう安心した時だった。

突然、後ろから叫び声が聞こえた。


「て、敵襲だぁぁ!!」


後ろを振り返ると何かが高速で動くのが見えた。

既に数人やられており、倒れている。

敵は木から木へと飛び移りながら、馬車に近づいてくる。


シュンッ


何かを切り裂くような音と共に、鎌の様な武器が飛んできて、馬車に突き刺さった。

魔術で張った結界が崩れた。


嘘だろ!?

そんな簡単に!?

俺が今使える最高強度の魔術だぞ。


誰が襲ってきたのかは分からないが、俺の魔術を簡単に壊すなんて、普通じゃない。


敵は衛兵と雇われを次々と倒していく。


早すぎる。

何とかしないと全滅だ。

一旦馬車に新しく魔術を施さなければ。


そう思い、魔術を使おうとした時だった。

敵は鎌の様な武器を構え、既に俺の目の前にいた。


「やばっ、。」


ー死ー


その文字が頭をよぎった時、白い炎が俺の体から溢れ出した。

命の危機に陥ったからなのか、俺はノアの力を使うことができた。


溢れ出た白い炎は完全に敵をとらえていた。

しかし、敵は空中にも関わらず、体を逸らし、ギリギリで避けた。

すごい身体能力だ。


敵は空中で体勢を崩して、地面に膝をついた。

俺はそれを見逃さず、右手にありったけの白い炎を溜め、敵に向かって放つ。


【聖炎(ホーリーフレイム)】


ノアに覚醒してから、ずっと技名を考えていた。

まさか、こんなタイミングでお披露目する羽目になるとは。


俺は今の一撃で敵が諦めてくれることを祈り、王女様が乗った馬車と共に逃げた。


ーーー


どれくらい馬を走らせただろうか。

何とか敵を振り切ることができたようだ。


俺の他に残ったのは衛兵が2人と雇われの男が2人、あと馬車の中にいる王女様だ。

だいぶ人数が減ってしまった。

もし敵がまた襲ってきたらどうしようか。

このままでは王女様を守りきれない。


しかし、何だったんださっきの敵は。

あの身体能力は普通の人間ではない。

もしかして、厄災だったりして。


そんなことを考えていると、馬車の扉が開き、王女様が降りてきた。

肩から血が出ている。

おそらく、敵が投げた鎌が原因だろう。

王女様を見た衛兵がすかさず近寄った。


「王女様っ!大丈ですか!?」

「・・・。」


衛兵の質問に王女様は答えない。

表情ひとつ変えず、自分の傷をみつめている。


王女様はおそらくまだ10代前半の幼い少女だ。

痛みと恐怖から泣き叫んでもおかしくない。

しかし、王女様は痛がる素ぶりすら見せない。


王女様のこの無機質な感じは何なのだろうか。

この異常なまでの冷静さをもはや不気味に感じる。


まぁ、今はそんなことどうでもいい。

何とかこの少ない人数で王女様を目的地まで送り届けなければならない。

しかし、馬車では目立つ。

足で行くのが一番安全だろう。

幸運なことに目的地まで、足で行けない距離ではない。


「王女様、雇われの分際で恐縮なのですが、ここからは徒歩で行きましょう。馬は目立つので置いていった方がいいと思います。」


ダメ元で、王女様に提案してみる。



「・・・。」


返答はない。


「えー…っと。どうでしょうか?」


俺は王女様から衛兵に視線を向け、質問の相手を変えた。


「うんー….。確かにそうだな。」


そんな訳で、ここで馬を捨て、目的地までは徒歩で行くことになった。

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