第11話 王女様の秘密

歩き始めて1時間以上は経った。

森の出口はうっすら見えているが、もう少し距離がありそうだ。


「王女様、大丈夫ですか?」

「・・・。」


衛兵は少し進むごとに王女様に体調の確認をしているが、王女様は相変わらず無視だ。


何も言わないということは、大丈夫だという事だと信じたい。しかし、さっきから王女様の息が荒くなっている気がする。

単純に普段運動していないから体力が無いのか、それとも肩の傷が原因か、どちらにせよ王女様はそう長くは歩けそうに無い。


今、あの敵がまた襲ってきたら終わりだ。

さっき戦った時の感覚がまだ残っているので、ノアの力を使うことは問題ない。しかし、戦闘力に明らかな差があった。戦えばまず勝てないだろう。

逃げることに徹すれば俺だけなら逃げれるかもしれない。しかし、王女様を庇いながらでは無理だ。


今はあの敵に見つからない事を祈ろう。


そんな俺の祈りはすぐに無駄に終わった。


「てめぇ、よくも邪魔してくれたな。」


さっき俺たちを襲った敵が森の茂みから出てきた。

全身黒い服を着ている。顔は暗くてよく見えないが、声からして性別は男だ。


まさかもう追いつかれるとは。

今は馬を捨てているが、男を振り切るために馬で逃げた。

人間が走って追いつける距離ではないはずだ。


「なぜ王女様を狙うんですか?」

「あぁ?お前には関係ねぇーよ。」

「俺は王女様の護衛をしています。彼女には指一本触らせるわけにはいきません。」

「...ちっ、時間の無駄だ。もういい。」

「もういいってどういう...。って..あれ?」


気がつくと目の前に男の姿はなかった。


「うわぁぁぁぁ!」


気がつくと、敵は王女様の目の前まで迫せまっていた。

雄叫びをあげて、2人の雇われが立ち向かったが、男に片手で軽々とふっ飛ばされた。

雇われの男達の方が男よりも一回りは大きいのにも関わらずだ。


男はそのまま、王女様めがけて鎌のような武器を振り下ろした。


俺はノアモード(俺がさっき名付けた)になり、王女様と敵の間に入った。

男の鎌のような武器を白い炎を纏った腕で受け止める。

その時、炎に照らされ、初めて俺は男の顔が見えた。


男はすごく綺麗な顔立ちをしていた。

おかっぱの様な髪型で、声を聞いていなければ、性別が分からなかっただろう。


そして男と目が合った時、俺は驚きを隠せなかった。


「お、お前、その目...。」


男の目には十字の紋様が浮かんでいた。

間違いない。

この男はノアの覚醒者だ。

じゃあ、何で俺たちを襲う?


「なんだ?知ってんのか?」


突然、体に雷が落ちた様な痛みが走った。


「ぐあっ!」


俺はその場に倒れた。

体が動かない。

全身が麻痺している様な感覚だ。


倒れている俺には目もくれず、男は再び王女様の方へ向かう。

男が鎌を振り上げた時、衛兵2人が王女様を守る様に覆い被さった。


男は振り上げた鎌を下ろそうとはしない。

王女様以外を傷つける気はないらしい。


「ちっ、邪魔だ、退け。」

「モウ…ガ...イ。」


王女様が初めて口を開いた。

何を言ったのかは聞き取れない。

王女様は男を睨み、額には血管が浮かび上がっている。


その王女様の様子を見て、男の顔色が変わった。


「おい!お前ら今すぐそこから離れろ!」


男がそう叫んだ瞬間だった。


「モウッ!ガマンデキナイィィィ!!」


ドスのきいた声が響き渡った。

王女様の服が内から張り裂け、黒い触手が姿を現す。

近くにいた2人の衛兵は一瞬で肉塊となった。

王女様は、厄災

だったのだ。


「うっうわぁぁぁ!」


それを見ていた雇われの男達が叫び声を上げ、逃げ出した。

厄災は男達を逃す気はないようで、触手を2本伸ばす。

しかし、男達に触手が届くことはなかった。触手は男達に届く前に輪切りにされた。 


「ちっ、だから邪魔だって言っただろ。」


男の持つ鎌には厄災の血が滴っていた。

この男がやったのだ。目にも止まらぬスピードで2本の触手を一瞬で切断した。


「グルルッ」


厄災の殺意が男に向けられる。

同時に男の目つきが変わった。


「解放....。」


男がそう呟くと、右手に持っていた鎌の形が変わり、175cmはあるであろう男の身長よりも大きくなった。

すごく美しい形をしている。まるで天使をイメージして作ったような、そんな形だ。


バチッッ


雷が落ちる様な轟音と共に、厄災はバラバラになった。

厄災のバラバラになった体は灰となり、消えていく。

男はあっさりと厄災を倒してしまった。


鎌の形は元に戻り、男は顔についた厄災の血を拭っている。


「厄災がいるとは。早くルークってやつを見つけねぇと。あぁ!めんどくせぇ!」


え?俺?


男はすごく不機嫌な様子で俺に近づいてきた。

地面から俺の顔を持ち上げる。


「おい、お前ルークっていう名前のガキを見たことあるか?」

「俺が...ルー..です。」


まだ体が痺れていてうまく喋れない。


「あぁ?聞こえねぇよ。」

「俺が...ルー...クです。」

「お前がルーク?」


何とか聞き取ってくれたようだ。

ルークという名前はこの世界でそこまで珍しい名前ではない。なので、同姓同名の他人という可能性も捨てきれない。

しかし、男は少し考えた後、何かに気づいたように俺を見た。


「そうか、手間が省けた。じゃあ、行くぞ。」


男はそう言うと俺を抱えて、走り出した。

体はまだ痺れていて動かないので抵抗できない。


俺は男の肩に乗せられ、連れ去られた。



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〜ドルド城にて宰相サイ目線〜


1年前、国で流行った疫病により、サラ王女の両親は死んだ。つまり、この国のトップが死んだのだ。


王位継承権序列1位はサラ王女。

なので、次の王はサラになるはずだった。


しかし、当時彼女は10歳の幼い少女、国をまとめることなど出来る訳がない。

何より私がそれを許さない。


そこで、私は王の死を隠すことを決めた。

国民には王の死を隠し、外交ではサラ王女に私の意見を発してもらう。

もはや、私がこの国の王になったと言っても過言ではないだろう。


私がトップに立てば、必ずこの国はより良いものになっていく。


ーーー


王が死去して半年、どんどん国の治安が悪化している。

毎日のように失踪者が出る。

夜の警備を強化したが、それに比例して、かなりの数の衛兵がやられた。

不気味なことに原因が全く分からない。


加えて、サラ王女も最近様子がおかしい。

昔は天真爛漫で明るい少女だった。

今のサラ王女はまったく喋らない。

部屋から出てくることも無い。

言うなれば、人形だ。


しかし私にとって、それは返って好都合だ。

サラ王女には私の操り人形になってもらおう。


ーーー


来週、ナルタシア王国との会談だ。


私の国に足りていない軍事力を補うために軍事大国ナルタシアと条約を結ぶことは絶対に成功させたい。

私が行ければ良かったのだが、奴ら4人の王は、王女を指名してきた。

何を考えいるのかは分からないが、奴らの要求を呑む他ない。


しかし、失踪者の数はとどまる事を知らない。

王女の護衛に割ける衛兵の数が限られている。


外部から8人を雇った。

1人は魔術を使えるようだ。

これでサラ王女の護衛は何とかなりそうだ。


ーーー


サラ王女がナルタシア王国へと出発して3日が経過した。


無事に辿り着くことはできただろうか。

彼女に死なれる訳にはいかない。


私がこの国を引き続き操るために彼女は必要不可欠なのだから。

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