第9話 ドルド王国

ドルド王国に到着した。


その国は、別名『花の国』と呼ばれる。

その名のとおり、1年中花が咲き続けており、最期の地として大陸中から多くの人々が移住してくる国だ。

それ故にこの国には墓地が多い。


国境の門をくぐると本で書いてあった以上の光景に圧倒された。

赤、青、白、紫、と様々な種類の花々が咲いている。

この王国の固有種もあるとかなんとか。

とにかく、大陸中から人が集まってくるのも頷ける美しさだ。


俺も次の最期は病室なんかではなく、こんな綺麗な場所でむかえたいものだ。


景色で心が和んでいた俺だったが、財布の中の殺風景な景色を見ると、ため息が出た。


「はぁ、。」


金貨1枚と銀貨8枚、こんなのすぐに無くなってしまう。

景色で心は豊かになっても、財布の中身は豊かにはならない。


このままでは、アークに辿り着くまでに餓死してしまう。

なんとかお金を稼がなければならないが、稼ぎ方が分からない。

なぜなら15歳で成人するまで俺はシモンと共に生活をしていたので、お金は彼が全て工面してくれていたからだ。


俺にできる事といえば何があるだろうか。

家事と魔術...くらいか。

ノアの力はあまり言わないほうが良さそうだし...。

となれば、魔術か。

なんとなく家事より、こちらの方が稼げそうな気がする。


よし、バイトを探そう。


ーーー


馬車を降りて、まず宿へと向かった。


これからのルート上にドルド王国以上に大きな国はないので、ここでお金を稼いでおきたい。

なので、この国には最低でも1週間は滞在する予定だ。


料金は1週間で金貨1枚と銀貨5枚。

1週間でこの値段は安いらしいのだが、俺にとっては痛い出費だ。

これからも、このペースでお金が出ていくのなら、ここで金貨5枚は稼いでおきたい。


宿のおばさんに聞いたところ、この世界の仕事探しは実に簡単だった。

どの国にも、ハ◯ーワーク的な場所があり、大きな掲示板に何枚もの仕事依頼が貼り出されている。

そこから自分でもできそうなものを選ぶ。

実にシンプルだ。 

近くにあると言うので、俺は早速、ハ◯ーワークに向かった。


掲示板を見ると、俺でも出来そうな仕事を3つ見つけた。


・雑草抜き 銀貨2枚

・花の水やり 銀貨1枚

・花の種まき 銀貨1枚


この国ならではの仕事だが、微妙だ。

平和な国なのだろう。

あまり稼げそうなものがない。

魔術師募集とかないのだろうか。


仕事は毎日更新されるらしいので、俺は明日にまた見に来ることにした。


ーーー


宿に戻り、ノアの力を使う練習をすることにした。

厄災が再び現れてもいい様に早く使えるようになっておきたい。

あれだけの身体能力と白い炎を自由に使えれば、仕事も旅もかなり楽になるだろう。


まずは、集中するため、目を瞑り、深呼吸をする。

そして、あの時の体の中から力が溢れ出す感覚を思い出す。


・・・


うんともすんとも言わない。

しかし、絶対に使えないといった感覚ではない。

何かに邪魔されているような、つっかえているような、そんな感覚だ。

練習すればなんとかなりそうな気がする。

ここには1週間滞在するのだ。気長に練習するとしよう。


ーーー


次の日の朝になった。


今日も、ハ◯ーワークへと出かけた。

到着すると、丁度ハ◯ーワークの職員さんが新しい仕事依頼を掲示板に貼るところだった。

1枚の依頼書が目に留まった。


・緊急:護衛募集 金貨5枚+出来高


これだ!

俺はすぐに受付に向かった。


「この仕事に応募したいんですけど。」

「承知しました。こちらを記載して下さい。」


受付の人は履歴書のような紙を俺に渡して、裏に入っていった。

俺は特技の欄に大きく魔術と書き込む。

正直言って、この仕事に俺以上の適任がいるとは思えない。

魔術+ノアの力(まだ自由には使えないが)を持っている俺はこの世界においてかなり強い方に分類されるだろう。

護衛なんてちょちょいのちょいだ。


少しすると、さっきとは別の受付の人が出てきた。

さっきの人より、ベテラン感がある気がする。

俺から履歴書を受け取り、目を通している。


「ルーク・キャンベル様でお間違い無いですね。」

「はい、間違い無いです。」

「では、魔術はどの程度使えますか?」

「基本的なことならほとんどできます。」


なんだか、面接のような感じだ。

受付の人はいくつか質問をすると、履歴書に書き加えていた。

それから、俺に1枚の地図を渡した。


「では、ここに向かって下さい。」


俺はその地図に記された場所を見て驚いた。


「ここって…?」

「はい、ドルド城です。」


ーーー


地図に示された場所に向かうと、この大きな王国にふさわしい立派な城が建っていた。

大きな門の前には衛兵だろうか、剣を脇に刺した男が2人立っている。


「あ、あの...仕事の依頼で来たんですけど。」


衛兵は、お前が?と言いたげな顔をして俺を見つめる。


「…護衛か。….こっちへ来い。」


衛兵に促され、俺は城の中へ入った。


「うおぉ..、すげぇ。」


城は外だけではなく、中も豪華だった。

床は高そうなツルツルしている石で作られており、壁には金の額縁に入れられた高そうな絵が飾られている。

そして、天井から吊るされた大きなシャンデリアがそれらを照らす。


あまりにも豪華な内装に驚き口をポカンと開けているとモノクルを身につけた、いかにも執事といった風貌の男が迎えにきた。


「ルーク・キャンベル様ですね。」

「は、はい!」

「こちらへどうぞ。」


俺は大きな部屋にポツンとテーブルと椅子がある部屋に通された。


「こちらへ座ってお待ちください。」

「わ、分かりました。」


俺は案内されたふかふかの椅子に座り、向かいに座るであろう誰かを待つ。

少しすると、豪華な服装やアクセサリーを身につけた恰幅のいい男性が部屋に入ってきた。


「こんな狭い部屋ですまないね。」


俺は耳を疑った。狭い?この部屋が?

冗談なのかマジなのか、わからなかったので愛想笑いをしておいた。


「私はこの国の宰相、サイだ。よろしく。」

「ルーク・キャンベルと言います。よ、よろしくお願いします。」

「はっはっはっ、そんなに緊張しなくて大丈夫だ。じゃあ早速仕事の話をしよう。キャンベル、君は魔術が使えるそうだね。」

「はい、一応。」

「若いのに優秀だ。ぜひ護衛の前線に立ってもらいたい。まずはこれだけ、活躍次第でこれの倍は払おう。」


宰相はそう言うと、金貨を5枚俺の目の前に置いた。

ひとまず、雇ってもらえるようで良かった。

俺のような15の若者が護衛につけるものか心配していた。

俺は宰相の気が変わらないうちに、金貨をしまった。


「誰を護衛するんですか?」

「別の部屋にいらっしゃる。部屋を変えよう。」


そう言って立ち上がった宰相は、俺をまた別の部屋に案内した。


ーーー


案内された部屋は先ほどの部屋よりも豪華だったので、護衛対象が王族なのだろうと一瞬で察した。

部屋の奥から先程案内してくれた執事風の男が出てきた。


「全員、揃いましたね。私はドルド家専属の執事、ゼンと申します。」


部屋が広すぎて気づかなかったが、俺以外にも同じ仕事を受けたであろう人物が7人いた。

全員男性で、ムキムキだ。もし、魔術が使えなかったら俺は不合格だったのだろう。


「では、護衛の詳細を説明いたします。今回皆様に護衛していただくのは、サラ・ドルド王女でございます。会談のため、隣国のナルタシア王国までの護衛です。出発は明日の朝です。数日かかる護衛ですので、今日はしっかり体を休めておいて下さい。」


やはり、王族の護衛だった。

まさか、王女様の護衛とは思わなかったが。

なかなか危険な仕事を選んでしまったのかもしれない。


護衛の説明が終わり、解散となった。

宿への帰り道で、部屋にいたムキムキの男が1人話しかけてきた。


「お前、そんな細いのによく受かったな。」

「ま、まぁ。運が良かったようです。」


いきなり失礼なやつだ。

ノアの力でぶっ飛ばしてやろうか。

とは言っても、ノアの力をもう一度使うにはどうしたら良いのか分からないが。


「自信ねぇなら辞退しないと死ぬぜ?」

「でも、護衛なんて実際、何も起こらない事が多いじゃないですか。」

「お前、何も知らずにこの仕事に応募したのか?」

「はい...。何か事情があるんですか?」


言われてみれば、なぜ護衛を衛兵だけではなく、俺たちにも頼むのか、確かに疑問だ。


「最近この国では失踪者が相次いでいる。特に城の近くでな。衛兵もかなりの数がやられているらしい。」

「そ、そうなんですか。知りませんでした。」


衛兵の数が足りず、俺たちを雇ったって訳か。

平和な国だと思っていたが、意外とそうではないらしい。

そうなると、やはり思っていたより護衛の危険度は高そうだ。


「まあ、お前も金に困っている口だろ?死なないように気をつけろよ。」


男はそう言うと、俺を追い越してどこかへ消えた。


ーーー


宿に戻ると、明日は朝が早いので、すぐにベッドに入った。

眠りにつく直前、何か叫び声のような音が聞こえた気がした。

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