座ってくれ。涙を流してくれ。

エリー.ファー

座ってくれ。涙を流してくれ。

 赤い味を知っているか。

 僕は知らない。 

 知ろうとも思わない。

 でも、皆、知ろうとする。

 意味が分からない。

 どうして、そんなことを言うのか理解できない。

 座って欲しい。

 そして、涙を流して欲しい。


 赤い味について教えて欲しいことがある。

 別に難しい話じゃない。

 教えてくれれば、それでいいんだ。

 ここに座って、赤い味について、何か語ってくれ。

 お願いだ。

 お願いを聞いてくれ。

 お願いを聞いてくれるという状況を作り出すためのお願いを聞いてくれ。

 お願いします。

 かしこみかしこみ、かしこみ申す。

 赤い味だ。

 赤い味をここに作り出してくれ。

 そのまま僕を生き永らえさせるための青い味も同時に生み出してくれ。

 二度と、僕に意識を与えないでくれ。


 寂しい夜さ。

 二度と会えない夜さ。

 力を入れないようにすることが何よりも重要ななのさ。

 さぁ、仕上げだよ。

 夏がやってくるんだ。

 本当だよ。

 嘘じゃない。

 嘘にしないための夏が来るんだ。


 座ってくれ。

 そして。

 涙を流してくれ。

 ここにある墓が、何を思って建てられたのか考えて欲しいんだ。

 いや、皮肉じゃない。

 これは、戦争が作り出した物語なんだ。


 何か青春に汚点でもあるのかい。

 嗚呼、ないのか。

 それなら別にいいんじゃないか。

 皆、苦労してここにたどり着くから、何か勘違いしている可能性があるからね。

 いや、いいんだ。

 こっちの話さ。

 例えば、本当は、自分のことなんてどうでもいいと思っているのに、プライドが高いが故に、自分の弱さをさらけ出せない、というような問題に直面していることはないんだよね。

 いや、いいんだ。

 別に何の問題も起きていないなら、それが一番さ。

 

 まず、扉を開けよう。

 そして、外に出よう。

 もう、何もかも忘れられる度に出よう。


 座らない方がいい。

 会話が長くなるからね。

 さっさと帰らせることが一番重要なのさ。

 言葉を交わして逃げ帰る。

 これを繰り返して、キャリアにする。

 大事なことさ。

 なぁ、大事にしなければいけないことだとは思わないかい。

 

 座ってしまったら呪われてしまう。

 座らなかったら嫌われてしまう。


 赤い味というのはね、正確には、この椅子の名前なんだ。

 何故、赤い味、という名前がつけられているのかは、分からない。

 でも、皆がそう呼んでいる。

 何せ、特別な椅子だし、人間みたいな椅子だからね。

 普通の椅子と同じ扱いはできないよ。

 君だってそうだろう。 

 君なんか道端にいそうな、どこにでもある命だけど、名前がわざわざ付けられているわけだ。

 同じだよ。

 命を持たない、命と同じ価値を持つ椅子ってことさ。


 誰かが僕の名を呼んだ。

 椅子、ではない。

 赤い味、と呼んだ。

 僕は嬉しさの余り飛び跳ねようとしたが、諸事情により動くことは叶わなかった。

 でも。

 心が大きく飛び跳ねたのが分かった。

 どうか、僕を忘れないで。

 僕の正体は人間ではない、ましてや犬でもない、猫や鶏や月や宇宙やチェストや包丁や泡だて器やマグカップではない。

 僕の正体はね。

 それは、ね。


 涙を流してくれ。

 もうすぐ、燃えて灰になるんだ。

 だから、思い出を語ってくれ。

 勘違いでもいいんだ。

 間違いだらけの思い出でもいい。

 どうか、燃え尽きるまでの間だけ、友達だったことを感じさせてほしい。

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座ってくれ。涙を流してくれ。 エリー.ファー @eri-far-

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