8.キャンタマに軟膏を塗られるような夢


 

 ——おはようございます、と。

 聞こえるかわからないくらい小さい声で言った。よく工場の廊下で見かけるのだが、彼の名前は知らない。事務所でタイムカードを切った。

 

 作業場所へ移動する。ここは私がパートで働いている場所だ。

 ヘアキャップを被って、真っ白の防護服を着る。シャワー室に移動する。空気で体を洗う。

 

 私が行っている作業は検品だ。ベルトコンベアで流れてくる商品に破損や汚れがないかチェックする。不良品を発見したら、隣に置いてあるゴミ箱に破棄する。

 そして、ベルトコンベアが流れる先には、梱包をするゾーンがある。チェックをくぐり抜けた商品は別の担当の方が違う作業をする。私は指定の位置についた。夜の9時からスタートで朝の6時までここで作業する。

 

 工場内は落ち着いていて静かだった。今は8時50分。まだベルトコンベアが作動していない。

 ここは清潔な感じもしなければ汚くも思えない。無機質が張り付いているような空間だった。これからここに雑音が混じっていく。

 

 ——9時。


 私は動き始める一定の退屈なリズムを見ていた。ガタンガタン。左から商品が流れる。

 手に取る。はじかない。手に取る。はじく。戻す。リズムは一定のままだ。

 ここには止まるか動くかのどちらかしか存在しない。

 人間のように生き方をコントロールすることはできない。どこまでもシステムで完成している。

 今のところベルトコンベアのエラーは発生していない。

 などど。

 

 ——機械のエラー音が鳴り響く。

 ——考えている時だった。

 

 私は赤いストップボタンを押して、タッチパネルに表示されたエラーを確認する。なにやら、どうやら、ベルトコンベアに異物が混入していたようだ。

 私は呼び出しボタンを連打し、工場長を呼ぶ。

 検品をすることだけはできる。だがそれ以外は何もわからない。

 この工場で4年働いて学んだことは、プリンは大量に製造されていることと、捨てられる食品はかなり多いということだ。他には立ち仕事は案外辛くないということ。

 

 ——後は無力な自分に気づけた。


「高橋名人ですか?」

「……?」

「連打しなくても、駆けつけますよ。何があったのですか?」

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