第47話 キャサリン〜情報は常に更新しないと駄目だけど、その更新の仕方はもっと駄目〜

 ……意味がわかんないし。


 なんで? なんで、お助けキャラのルークがいるの!


 今、私は空き教室の中で頭を抱えている。


 なんせ先程、信じられない光景を目にしたばかりなのだ。目の前で『うせやろ』のお助けキャラであるルークが、騎士の格好でセシリアと歩いていた。あまりにも自然に歩いてるものだから、思わず三度見してしまったけど、間違いない。あの見た目は絶対にルークだ。


 見た目どころか、セシリアが「ルーク」って呼んでたし。


 ふと合ってしまった目に、思わず隠れるように空き教室に飛び込んだんだけど……


 え? ちょっと待って。何でルークが騎士の格好してるの?


 ルークって冒険者になってるんじゃないの? しかも「セシリアお嬢様」って何? マジで意味がわかんない。


 もしかしてセシリアも転生者?

 エリザベスと二人で私を嵌めようとしてるの?


 私が聖女として、やりたくもない地道な炊き出しとかやってる間に、あいつルークを攻略したの?


 ちょっと待って、ルークってお助けキャラで攻略ルートなんて……


「あー、意味わかんない!」


 ……混乱しすぎて、良く分からない。とりあえず何回か頭を叩いて気持ちを落ち着けるために深呼吸……。


 一つずつ整理をしていこう。


 ルークは本来今の時期冒険者をしてるはず。それが何故か騎士になってる。

 ルークは元公子。それが何故かハートフィールド家にいる。……これはまだ良い。冒険者として国を出て、ハートフィールドに居たのかもしれない。


 ルークがいつどこで何をしてたかなんて、明かされてない。


 なら、たまたまルークがハートフィールドにいたの?

 それとも、ハートフィールドに呼び寄せたの?


「やばい……また混乱してきた」


 完全に理解の範疇を超えてしまってる……。エリザベスが転生者なのは間違いないと思う。なんせ未だに余裕そうに学園に通っているのだ。つまり何らかの方法でエレオノーラを抑えてるんだと思う。


 唯一謎なのは、見たこともないモブを引き連れて歩いてること。燃えるような紅毛は、聞けば公国の子爵子息らしいんだけど、アレってゲームだとエレオノーラに殺される奴よね。


 あんな奴攻略してどうするの? 


 あー、今はそっちは良いわ。成績も下のデカいだけの男なんてどうでも良い。エリザベスはダメンズが好きってことにしとこう。今は何よりセシリアとルークだ。


 セシリアも転生者の可能性が出てきた。


 もし、エリザベスだけが転生者なら、あんなデカいだけの紅毛よりルークを選ぶはずだから。……私なら絶対そうする。


 それともエリザベスがルークを好みじゃなかったか。


 エドガー達にも靡かなかったし、やっぱ男の趣味が悪い可能性もある。でも仮にそうだとしても、セシリアにルークを攻略させる意味がわかんない。そうなってくると、セシリア本人が攻略した以外考えられない。


 やっぱセシリアが転生者の可能性しか……。


 良く分からない。良く分からないけど、ルークの動向を掴んで、彼をものにしたのは事実だ。普通なら分からないルークの動向や攻略方法。でも私はそれを可能にする方法に、心当たりがある。


「……ダウンロードコンテンツ。もしくは完全版商法」


 そう。販売から時間を開けて投入される、あのシステムだ。


 人気の高いキャラを攻略するための追加コンテンツ。もしくはそれに加えて様々なイベントを追加した、完全版。


 私が知ってるのは無印だけだから、少なくともあの二人は、私より後の時代から来た人間ってことになる。つまり、最初から情報アドバンテージで負けていたのだ。


「エリザベスぅぅぅぅ」


 思わず怨嗟の声が漏れてしまった。でも仕方がない。あの女、最初から自分のほうが優位に立ってると知っていて、あのすまし顔で婚約破棄を受け入れやがったのだ。


 あれもこれも、イベントが潰れてシナリオが破綻したのは、全部あいつの……いや、あいつらのせい。



 やばい……これは非常にやばい。このままだと、私の計画は全部潰れて完全バッドエンドまっしぐらだ。


「バッドエンド……一応知ってるけど――」


 不安から呟いてしまった。バッドエンド自体は知ってる。このゲーム妙に戦闘パートにこだわってるせいで、一番最初に適当な戦略でやった時に、エレオノーラにボコボコにされてバッドエンドだった。


 エレオノーラに負けたキャサリン達は死亡。そして世界は滅びる。


 そこまでは普通なんだけど、エンドクレジットの最後の最後に、暗転したまま不穏な文字が現れる。


 ――バッドエンドA


 その文字を見た誰もが「うせやろ?」って言ったのは有名な話。バッドエンドにAとかつけるってことは、少なくともBがあるってことだ。


 でも私の知る限り、いわゆるAエンド以外を見た人間はいない。


 仮に最序盤でエリザベスの追放を何が何でも止めたとしても、そのエンディングで表記されるのは〝聖女エンド〟――通称、モブエンド――だ。


 エリザベスの追放をしなければ、エレオノーラが祠の封印から解かれる事はない。そうなれば、キャサリンは学園でどれだけ攻略対象達と絆を深めても、学園卒業とともに聖女としての役目が待っている。


 大いなる邪悪を鎮めるために、世界各国を渡り歩いて祈りを捧げる活動が始まる。もちろん護衛についてくれるのは、エドガー達じゃない。名前も知らない、モブの教会騎士がついてくれる。


 だから、通称モブエンド。


 でも、それはバッドエンドBなんかじゃない。……私にとってはバッドエンドだけど。


 とにかく色々な人が探し回っても、バッドエンドBは結局見つからなかった。噂では、「追加コンテンツで開放される」だの、「キーアイテムがどこかにある」だの言われてたけど、私が知る限りでは結局噂の域を出ていない。


 結局誰も見つけられなかった事で、開発がそれぞれのエンドをABCと仮称してた時の名残、つまりテキストの消去し忘れだと言う事で決着がついてたけど……


「もし、ルークの攻略が追加コンテンツで、バッドエンドBも同時に追加されていたら――」


 未知のバッドエンドに怯える事になってしまう。


「やばい……どうやって回避したら良いの?」


 選択肢も分からないし、もしかしたら既にそのルートに入ってる可能性も……


「……いっそあいつらに聞いたほうが――」


 いや、駄目だ。そんな事しても、本当のことを教えてくれるとは限らない。それどころかはぐらかされて終わりだろう。


「考えるのよキャシー……あいつらの思惑を潰す方法を――」


 私の破滅に続くルートを潰す方法……


「まって、潰す?」


 そうだ。なんでこんな事気づかなかったの。簡単なことじゃない。潰せばいいのよ。


「あいつらのやってるを、潰しちゃえば良いんじゃない」


 やっぱり私は冴えてる。流石主人公だ。もう私の知ってるシナリオじゃないなら、全部メチャクチャにしちゃえばいいじゃない。


 そうと決まれば、私の知ってたシナリオは全部捨てるわ。


 絶対にエリザベスとセシリアに目にもの見せてやる。私こそが本当の主人公だって。絶対にあいつらが次にすることを潰すわ。だってエリザベスがやる事が、私を追い詰める一手で、新バッドエンドへのルートになってるはずだから。


 見てなさい……しばらく張り付いてやる。お前らがやろうとすることを、今度は私が、私達が潰してやるんだから。


 そうと決まれば、皆に相談しよう。


 そろそろ神託を得るために、しばらく放課後は大聖堂に籠もって祈りを捧げるって。あとは、人を手配してエリザベス達の動きを見張らせて……一番いいタイミングに合わせて、「神託が来た」って皆を総動員してイベントを潰してやろう。


 確かにルークは結構強いお助けキャラだけど、所詮劣化エドガーじゃない。そしてこっちには魔法の天才ダリオと、本来なら手数の稼げるクリス、そして剣技じゃ誰にも負けないアーサーがいる。


 そう考えれば、エリザベス達がコソコソ地味なイベントを潰してたのも分かるわ。


 真正面からぶつかったら、今の私達に勝てるはずがないもの。


 よし、決まり……今度こそカウンターを食らわしてやる。お前たちがやろうとしてるそれ、私が叩き潰してやるんだから。


「よし」


 方針が決まれば、さっきまでの混乱なんて嘘みたいだ。逆に今までよくこんなハンデを背負って戦ってきたな、と自分を褒めたいくらいですらある。


 ぬかったわね。このタイミングでルークを見せびらかせるから、お前たちは私に足を掬われるのよ!


 勢いよく空き教室から出た私を、何人かのモブが見てるけど無視よ無視。モブごときが私に何か出来るわけないもの。


「さて、頭もスッキリしたし……皆の所に帰ろうかしら」


 いつも通りの聖女スマイルで歩きだす私を、空に輝く太陽ですら祝福してる。


 あいつらの方針と、その頼りにしてる事が分かった以上、もう私に隙はない。 


 勝確です、ありがとうございまーす!

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