死神の独白

 私は死神。名前なんて無い。神に作られ、定期的に魂を集め送るための存在だ。


「お姉ちゃんはいつも公園にいるの?」


 ぼーっとしていたら話し声が聞こえてきた。無視していると続けて言葉が飛んでくる。


「お姉ちゃん?」


 視線を下に向けると男の子が私を見上げていた。小学生になりたてくらいの男の子だろうか。


「お前、私のことが見えるのか?」


 少々威圧しながら声を掛ける。


「うん。綺麗なお姉ちゃんが寂しそうな顔してたから」


 随分マセたガキだなと思った。そもそも普通の人間に死神は見えない。見えるとしたらそれは死期が迫ったときだ。

 このガキももうすぐ死ぬのかと思ったが、それ以上の感想は出てこない。結局そのまま無視し続けた。


 それから何度も何日も声を掛けて続けられる事になった。あまりにもしつこいので相手をしてやることにした。

 私には感情なんて無いのに。


「私と話をしても楽しくないぞ」

「そんな事無いよ。楽しいよ」


 他愛のない話をした。時に遊び相手にもなってやった。

 私に名前が無い事を話したら名前をつけてくれた。


「死神っぽい格好してるからしーちゃん!」


 私に名前が生まれた瞬間だった。きっとこれがきっかけだったんだと思う。

 私には感情なんて無いのに。


 そんな関係が何年か続いた。だが、ある時から、その男の子は私が見えなくなった。そもそも見えていることが異常なのだ。

 元の生活に戻るだけだ。そう思っても寂しさが拭いきれない。

 私には感情なんて無いのに。

 それからしばらくその街には戻らなかった。


 魂の収集が滞った死神は神に消されて新しい死神が送られてくる。

 ただ、神にとっても新しい死神を派遣するのは面倒なようで死神に少々の異常があっても無視される。ステータスエラーが出ようが要は魂の回収が定数確保できていれば良いのだ。

 壊れてから交換すればよいのだ。そもそも神も忙しくて一々確認などしていられないのだろう。


 数年後、例の街に戻ってきた。ほぼ無限の寿命を持つ死神にとって数年などつい先日のような話だ。

 あの公園に行くと面影のある彼を見つけた。数年前私に話しかけてきた少年だ。

 ぐんと身長も伸び私が見上げる程の身長になっていた。そして、以前は見かけなかった女の子と一緒だった。

 彼女なのかとも思ったが、どうやら妹のようだ。とても仲が良さそうだったので勘違いしてしまった。嫉妬じゃない。

 私には感情なんて無いのに。


 それからしばらくして彼の姿が見えなくなった。どうしたのかと思って探したところ、窶れた彼をみつけた。

 後を着いていくと理由が解った。両親が亡くなったのだ。

 人間はすぐ死ぬからな。そんなものだ。だが、心配でそれ以降ずっと彼についているようになった。出来る事など無いのに。


 どうやら彼の妹は魔法少女になっていたようだ。時々怪我をして帰ってくる彼女を彼は心配そうにしていた。

 ある時魔物の対応で出かけた彼女が時間になっても帰ってこない日があった。そわそわしている彼を見ていられなくなって現場を見に行くことにした。


 現場に到着するとほぼ虫の息となっていた彼女を見つけた。状況を見るに仲間の魔法少女に嵌められたのだろう。下半身が潰れもう助からない事は一目見て分かった。

 彼女に近づくと私に向かってヘアクリップを差し出してきた。彼が彼女にプレゼントしたものだ。私が見えているというと事はもう長くはない。

 言葉も話せないようだった。私は黙ってそれを受け取った。彼がこの事を知ったら壊れてしまうかもしれない。


 私は肉体を顕現させ両手鎌を握る。魔物を倒した後、裏切った魔法少女の首を落とした。

 私には感情なんて無いのに。


 妹が亡くなった後、彼は部屋から出ることが無くなった。当然だろう。

 だがそれでも、腹は減るのだろう。一週間後、ついにコンビニへ行くようだ。

 その時だ。魔物に彼が殺されかけたのは。


 私はついに感情が振り切れた。


「せいちゃんは殺させない!」


 魔物を切断し、せいちゃんに死神の権能を使い肉体の修復を試みる。ダメだ。完全には治らない。

 なら、せいちゃんの魂を私に取り込んで私を修復するようにしてみよう。

 結果、上手くいった。ただ、肉体は私でせいちゃんの魂と共存するような形だ。拒否反応が出るかと思ったが、それは杞憂だった。

 昔から憧れの感情を抱いたであろうせいちゃんと恋慕の情が湧いていた私との相性は抜群だったようだ。

 私は寂しかったのだ。せいちゃんが私の事が見えなくなってから。


 私には、感情なんて...無いのに。

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