とある魔法少女の回想

 私の名前は雲越未来。谷川岳守備隊所属の魔法少女だ。

 僻地の住民は退去したと言え、交通の要衝については今でも守備隊が常駐している。

 と言ってもこの守備隊に所属している魔法少女は私だけだ。

 以前は都市部の駐屯地所属だったのだが、魔物の出現頻度低下に伴って魔法少女の整理解雇の話が出ていた。

 私の実力では真っ先に対象になるだろう。そうなる前に不人気な僻地守備隊への異動を志願した。

 天涯孤独の身である私はどうしても公務員としての地位を守りたかったのだ。幸い人員の充足がままならないこの守備隊に異動となった。

 そりゃそうだろう。コンビニすら怪しい僻地に華のJKが行きたいわけがなからだ。

 おじさんばかりだが、良い人ばかりで自分の子供のように世話を焼いてくれる。とても良い職場だ。


 その日、非番でお昼寝をしていた私は魔物接近のサイレン音で目を覚ました。谷川岳パーキングエリアに併設された庁舎から外を見る。ついにこのときが来てしまったかと考える。

 大型で俊敏な猿型の魔物が見えた。


 直ぐに飛び起き、司令室へ向かう。


 既に在室していた、守備隊長から声を掛けられる。


「雲越、直ちに出撃してくれ」

「了解。救援の連絡は?」

「既に出している。相馬原と高田から向かってくれているが、しばらく時間がかかる」


 この時点で私だけでは対処しきれないことを分かっているのだろう。


「死ぬなよ」


 私は返事を返すことが出来なかった。


 魔物と対峙し直ぐに攻撃を開始する。

 小手調べとばかりに2丁のデザートイーグルを発砲する。私の魔法は風魔法で弾丸の威力を底上げするものだ。

 先ほどから命中してダメージはあるようだが、致命傷には至らない。

 救援が来るまで牽制を続けなければならないが、魔力残量も考えると少々厳しい。


「おっと危ない」


 魔物が腕を振り上げ突っ込んできた。

 私の魔法は射程が長いわけではないので、近-中距離で戦う事になるが、魔物が予想以上に俊敏で回避が難しい。

 一度でも攻撃に当たればその時点で負けが確定するだろう。


「これは...最悪生きて帰れないか...」


 最悪の自体も想像し始めた頃、いきなり私の隣に少女が現れた。

 身長は小学生の高学年~中学生くらいだろうか。白銀のロングヘアに黒のワンピース、そして同姓でも見惚れるような顔立ち。しばし見とれてしまった。

 その少女は助けが必要か問うてきた。二つ返事に協力を依頼するとすぐさま魔物へ魔法を行使した。


「...すごい」


 連続射出される氷のつぶてが魔物に襲いかかる。あっという間に着弾し、魔物の動きを止めた。

 すぐさま魔物が凍りづけとなり、彼女の魔法で砕かれる。一方的勝利だった。


「では」


 彼女はその一言で離脱していった。待つように声を掛けるも無視して離れていく。

 魔法省所属の魔法少女でもトップクラスの戦闘力だったと思う。


「あんな実力を持つ子が野良にいるなんて...」


 驚きを隠せずには居られなかった。

 その後、救援の魔法少女が到着し、事の経過について語る。

 魔法省の職員は彼女の勧誘をしたがっていたようだが、それは難しいと思う。

 私でも二言しか会話を交わしていないのだ。おそらく必要最低限コミュニケーションで済ましたいからだろう。

 それでも彼女は私の窮地を救ってくれた恩人だ。次に会うことがあるか分からないが、感謝の言葉を伝えたいと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る