魔法少女として

 どの程度魔法を使えるか確認しよう。しーちゃんにそう言われて人里離れた山奥へ。

 途中まで公共交通機関を使いつつ、魔法少女の身体能力を駆使して谷川岳まで来た。


 現在登山というレジャーは存在しない。魔物が発生してから人間の勢力範囲は大きく後退し、僻地は容赦なく切り捨てられた。

 もし、山登り中に魔物に遭遇したとしても携帯電話が通じず、連絡が出来たとしても僻地ゆえ、魔法少女の救援まで時間がかかる。そういった事情から自殺願望者でも無い限り辺境の山に人は来ない。


「じゃ、やってみよう」


 ヘアクリップを外し、手のひらで包み込む。


「華、よろしくね」


 このヘアクリップに華の意識があるわけではないが、こうしなければいけないと、そう思った。

 再びヘアクリップを髪に戻す。


「せいちゃんは華ちゃんの魔法を見たことがあるから、同じようにやってみて」

「わかった」


 手を身体の前に出す。


「アイスショット」


 魔力が身体を廻り、氷のつぶてが真っ直ぐ飛んでいく。やがて森に着弾した。


「おお、できた」

「続けててやってみよう」


 今度は飛んでいる鳥に向けて魔法を放つ。


「アイスシュート」


 氷の塊が回避しようとする鳥に向かってホーミングする。

 やがて、命中し鳥が凍りづけになった。


「華ちゃんの魔力だからか、良く馴染んでるね」


 サンプル数が少ないが姉妹や双子で魔法少女として覚醒した場合、魔法の性質が非常に似たものとなるそうだ。

 何度か魔法を行使し、感触を確かめる。


「これなら戦闘も大丈夫そう」


 そろそろ帰ろうかと考えていたところ、どうも関越トンネル付近から煙が上がっていた。しかも、魔力反応も。


「しいちゃん、ちょっと様子を見に行こう」

「私はどっちでも良いけど、せいちゃんがそう言うなら仕方ないねー」


 現場に到着すると、魔法少女が猿型の魔物と戦闘を行っていた。


「魔法少女が劣勢かなー?」


 しいちゃんの言葉に魔法少女に目を向ける。


 緑髪のセーラー服をを身につけた少女が拳銃を魔物に発砲しているが、命中はしているものの、有効打にはなっていないようだ。


「助けるの?」

「このままだとあの子負けちゃいそうだし。」

「せいちゃんはお人好しだねー」

「そうじゃないよ。このまま一人で死んじゃうのが可哀想かなと、そう思っただけ」

「そっか」

「言葉遣い、所作気を付けて。せいちゃんは気を抜くとすぐ男の頃の仕草が出るから」

「分かってる」


 死神の権能を使い、影に潜りながら緑髪の少女に接近する。タイミングをみて声をかけた。


「あの....助けが必要でしょうか」


 あまり口数が多いとボロが出るかもしれないので必要最低限だ。

 声を掛けると緑色の少女は一瞬ビクッとしながら周りを見渡し、私を見て驚いていた。


「いったいどこから...?いや、そうじゃなかった。お願い助けて!見ての通り苦戦してるの」

「できればトンネルや構造物への被害を最小限にして欲しいのよ」

「わかりました」


 現状トンネルを背にしているので、このまま魔物に手を向け魔法を行使する。


「アイスショット!アイスシュート!」


 先ほどより小さめなものの高速で氷のつぶてを3つほど飛ばす。

 続けざまにアイシュートも発動し、時間差で射出する。

 魔物は大きく後退して氷のつぶてを回避したが、アイスショットが1発命中して回避が鈍る。その瞬間に後続のアイスシュートが着弾。身動きが取れなくなった。

 顔は無く、輪郭だけだが、魔物の悔しそうな表情をしているように見える。


「フリージング」


 動けなくなった魔物を起点に氷が生成、しばらくすると完全に凍りづけとなった。


「これでおしまい。ブレイク」


 その瞬間、氷と共に魔物が砕けた。


「しいちゃん、魔物の反応は?」

「完全に無いよー」

「・・・すごい」


 緑色の少女から感嘆の声が上がる。

 初戦闘ながらうまくいったかな。


「では」


 緑色の少女にそう告げ、即座に離脱する。倒せたのなら長居は無用。身バレするのだけは避けたいので即座に離脱する。


「ちょと、待ってってばっ!」


 そう緑色の少女に声を掛けられるが待たない。


「せいちゃん、お疲れ様。これなら魔法少女としてもやっていけるね」

「うまく動けて良かったよ。華のおかげだ」

「私としては華ちゃんといちゃいちゃしてるみたいで嫉妬しちゃうけどー」

「妹に嫉妬しないでよ...」

「はいはい、わかってますよーだ」


 イマイチ機嫌の良くないしいちゃんをなだめつつ、帰路についた。

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