死神のお仕事

「うぅ...もうお嫁にいけない...」

「せいちゃんは私のお嫁さんだよ?」

「え?」


 そんなこんなで最低限女の子の立ち居振る舞いを身につけた精一改め、精華はしいちゃんのお仕事を手伝うため街へ繰り出した。

 時間は深夜、もちろん死神としての権能を生かすためだ。


「チェンジ」


 その一言で黒ワンピースの衣装と両手鎌が現れる。

 念の為、男の時の黒パーカーで顔が隠れるようにしておく。ぶかぶかだが、目元まで隠れて都合がよい。


 影に潜みながら路地裏へ移動し、周囲を探っていると争っているような声が聞こえる。


「あんたのせいでしょうがっ!!」

「私は悪くないわよっ!!」


 路地裏で大正時代の女学生のような、和服に黒髪ロングをポニーテールで纏めた少女と魔法少女然としたフリルがあしらわれたファンシーな服に小柄なピンク髪の少女が争っていた。

 距離を空けたいピンク色の少女がステッキを振るい魔法を放つも、黒髪の少女がそれをいなしつつ接近する。

 そんな攻防が幾度か続く中、路地の先にいた一般人に魔法の流れ弾が被弾してしまう。打ち所が悪かったのか、頭から血を流し少々グロテスクなことになっている。

 おそらく、即死だろう。


「ちっ。どうすんよ!」

「やったのはあなたでしょ!?」


 人の死を前に誰が悪いか責任を押しつけ合う魔法少女達。するとピンク色の少女が言い放つ。


「死体が残らなきゃバレないでしょ」


 世も末だなと思う反面、野良の魔法少女からしたら一般人などこの程度の存在なのかもしれない。


「せいちゃん、この子にしようか」

「そうだね...」


 人の命を刈り取る忌避感が薄くなった気がするが、そこは死神と一緒になった影響かもしれない。

 すぐにピンク色の少女の影に移動し機会をうかがう。

 こちらに意識が向いていないこと確認し、影から一気に踊り出る。


「切断」


 心の中で魂を刈り取るようなイメージをしながら鎌を振るう。今回は物理的な切断をせず、魂だけ刈り取る事にした。


「えっ...?」


 ピンク色の少女がこちらを振り返る余裕もなくそのまま地面に倒れる。

 目を見開いたままハイライトが落ちたその瞳からは精気が消えたように見えた。

 魂だけ刈り取った場合、生命活動は維持されるが、二度と目を覚ますことは無い。魂が抜かれた抜け殻のような状態だ。


「ひっ...」

「貴方、誰!!」


 もう一人いた黒髪の少女が怯えつつも薙刀を構え威嚇する。とはいえ、目の前で行われた行為に怯えているようだ。


「しいちゃん。この子はどうする?」


 そう頭の中の恋人に問いかける。


「あまり長居をしてると魔法省の子が来るかもしれないし、今日は撤退しよう」

「分かった」


 そのまま影に潜り撤退する。

 数ヶ月に一度、今回のようにヒットアンドウェイで魂を刈る行為を繰り返していると、野良の魔法少女の間で死神の噂が語られるようになった。


 深夜に出歩くな。死神がお前を狙っている。

 悪事を働くな。死神はいつでも機会をうかがっている。

 争うな。その騒ぎを聞きつけて死神がやってくる。

 刈られたら最後、二度と目を覚ますことはない。死神が魂を抜いたからだ。


 いつしか、深夜帯でよくあった事件やいざこざがめっきり少なくなっていた。

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