女の子になるんだよ
「せいちゃん、おはよう」
しいちゃんの声で目が覚めた俺はベッドから起き上がる。
「しいちゃんおはよう」
「眠れた?」
「何とかね...」
冷蔵庫に1枚だけ残っていた食パンを口に放り込む。
体が小さいからか1枚でも十分だった。
「さて、せいちゃん。色々と確認したいことがあるの」
「どうしたの?」
「ずっと一緒に居たから知っているけれど、せいちゃんの口から聞きたい」
「せいちゃんさ、私のこと好きだよね」
「...好きだよずっと。小さい頃から」
「...知っていても直接言われると照れるね...ありがとう」
「せいちゃんは私が人間じゃないこと、理解して言ってくれてる?」
「薄々気がついてたよ。」
「...そっか。わかった。私もせいちゃんのこと、大好きだよ」
「...照れるな」
「まあ、お互い様ってことで」
そこで更にしいちゃんから爆弾発言が飛び出る。
「せいちゃん、ついでに訊くけど、TS願望あるよね。そんで私の身体、めっちゃタイプだよね」
「...」
「...うん」
「認めたねぇ」
「好きな人に嘘はつけないからね」
「にしし、まぁ知っていたけれど。懐の深い彼女で良かったね」
「そうだな」
さて、お互いの事を再確認したところで私の事について説明するね。
「うん」
しいちゃんは死神で魂を刈る役割があるらしい。
定期的に魂を送らないと役割を果たせない、若しくは故障判定とされて消されてしまうらしい。
昨日魔物を切断したのは死神としての権能を行使した結果だそう。
そして俺を助ける為に俺の肉体と魂を吸収して自分に再定着させた。
権能を使いすぎてしいちゃんの魂が身体の奥に引っ込んだ状態になっていると。
「緊急時は身体の主導権を奪うけど、出来ても10秒くらい。本当に危ないときだけにするから十分気を付けてね」
いくつか魂を刈って余裕が出来れば時間が延びるし、しいちゃんも消されることはないそうだ。
「こんな彼女だけど私の仕事、手伝ってくれる?」
「当たり前じゃないか。今、しいちゃんと俺は一心同体。こんなに嬉しいことは無いよ」
「そっか。ありがとう」
そう言って彼女は嬉しそうに言葉を返してくれた。
「それと華ちゃんのヘアクリップだけど」
「これ?」
自分の髪につけているヘアクリップに手を伸ばす。
「華ちゃんの魔力を感じるでしょ?死神としての能力だけだと燃費が悪いから華ちゃんの魔力も併用すると良いよ」
触ると暖かなきもちになる魔力がわかる。
魔法少女は魔力に属性がある。印象に残っている自然現象や心象風景がそれにあたる。
華の場合は氷属性だ。雪国の新潟出身だからか、身近な自然現象だったからだろう。
今住んでいる群馬県では珍しいもので、北部のごく一部の地域に住んでいる人だけらしい。群馬は風や雷属性の子が多いそうだ。
「流石に普通の子の魂を刈る訳にはいかないから、悪いことしてる魔法少女にしようか」
「華の事もあるし、こういった被害が無いようにしたいよね」
以前はかなりの頻度で出現していた魔物も今となっては希に現れるだけとなってしまっていた。魔法少女の数はそのままに。
そうなるとパイの奪い合いから魔法少女同士の争いが激化してしまった。また、魔法省に所属していなくても能力に覚醒した場合、普通は情報登録だけはする。
だが、それすらもしていない野良の魔法少女が随分増えていた。
彼女たちの中には一般人にも魔法で攻撃し、危害を加えるものも一定数いる。中には闇社会の用心棒や過激な組織身を置くものもおり、社会問題化していた。
そういった魔法少女には魔法省と警察と連携し捕縛、制圧しているそうだ。懸賞金を掛けて野良の魔法少女にも協力を依頼している。
「方針も決まったことだし、はい、これ」
机の上に置いてあったのはマイナカード。
白銀 精華の名前と共にしいちゃんの顔写真が印刷されている。
「え、どういう事?」
「女の子なのに精一って名前じゃおかしいし、見た目と年齢もかけ離れてるからね」
「せいちゃんと華ちゃんの義理の妹って事にしておいたから。紙の戸籍情報まで確認されるとバレちゃうけれど今の時代そこまでの確認はされないから大丈夫でしょ」
「しいちゃん、これ犯罪では...」
「しーらない」
「ちなみに、せいちゃんの精に華ちゃんの華で精華ちゃん。どう?」
「なんだかしっくりくる気がするよ」
「そーでしょ。そーでしょ」
「ということで、今から女の子の言葉遣いと生活習慣を覚えてもらいまーす」
「え?」
「え?じゃないでしょせいちゃんはもう女の子なんだよ?男の話し方してたらおかしいでしょ?」
「それはそうだけれど...」
「そ・れ・に」
「せいちゃんこういうシチュ好きでしょ?」
「...はい」
「私は理解ってるから。だいじょーぶ。だいじょーぶ」
「だから、せいちゃん。トイレ終わった後はフタを閉めておくっていったでしょ!」
「ご、ごめん」
「ごめんじゃないの。ごめんなさいでしょ。」
こうして一日が過ぎていくのであった。
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