初恋の人

「せいちゃん起きて?」

「しいちゃん?」


 懐かしい彼女の声で目が覚めたと思ったら、俺の声も彼女の声だった。


「え、どういう事?」

「とりあえず、そこのガラスで自分の姿を見てみなよ」


 ガラス戸に映る自分の姿を確認した。

 身長は150cm位だろうか。長く綺麗な腰まで届く銀髪、芸術品のように整った顔、その瞳は静脈の血液の様にどす黒い赤色。

 漆黒のワンピースとサンダルは不健康なほど色白な肌を際立たせている。そして手に持つは身長より長い両手鎌。さながら死神のようであった。


「しいちゃんだね。可愛い」

「にしし。ありがと。知ってるよ」


 昔の頃のやりとりで本当にしいちゃんだって思えた。


「とりあえず、この場から離れようか。そろそろ魔法省の魔法少女も到着するでしょ。」


「えっと...」


 周りを見渡すと魔物と争った跡と俺の血だまりが広がっていた。


「一旦家に帰ろうか。そしたら説明するよ」

「わかったよ。しいちゃん」


 頭の中でしいちゃんの声がした。

 「影と一体化するように頭の中でイメージしてみて。そうしたら影の中を移動できるようになるから。」

「...こんな感じ?」

「そうそう。うまいじゃん」


 俺の?しいちゃんの?体は腰から下が黒い影に入っている。


「目を瞑って自宅を想像してみて」

「うん」


 目を瞑って再び開くと自室だった。


「おお、すごい」

「流石せいちゃん、器用だね」


 コップ一杯の水を飲み一息つく。


「せいちゃん、説明するね」


 彼女はこう説明し出した。

 しいちゃんは急に現れたわけではなく昔からずっと傍に居て俺をずっと見守ってきた。彼女が見えなくなったのは俺に原因があるとの事。

 つまりは幼少期に見えていたモノが大人になるに従って見えなくなるアレだ。

 急に見えるようになったのは死にそうになったからだろうと。


 そしてもうひうとつ。妹、華に託された物を渡す為。

 机にそっと現れたのは俺が妹の誕生日にプレゼントしたクロスリボンのヘアクリップだった。


「華ちゃんはね、他の魔法少女に騙されたの」


 冷たい声でそう言ったしいちゃん。状況はこうだ。

 華の事を疎ましく思った魔法少女がグルになって魔物に殺されるよう仕向けたそうだ。

 華を拘束し、魔物の前に放りだしたと。


 手に力が篭もる。悔しい。そう思わずにはいられなかった。


「大丈夫だよ。せいちゃん。そいつらは私が殺した。だから大丈夫」


 死神に諭されるようなその言葉は妙に俺の心に落ちていった。


「そう...か」


 華が生き返る事は無い。ただ、心は多少救われた気がした。

 しいちゃんは華と言葉は交わせなかったが、ヘアクリップを渡してきたと言った。兄に渡して欲しいとそう思ったそうだ。


「ありがとう。しいちゃん。」

「心の整理もしたいだろうし、疲れたろうから今日はもう寝ようね」

「うん」


 しいちゃんに抱かれたような感覚を抱きつつ俺は眠りに落ちた。





 その頃、現場では...



「これは...」


 現場に到着した魔法少女、小夜戸 菫は現場を見てそう呟いた。

 魔物の姿は無く、周辺の建物損壊と血だまりが広がっているだけであった。


「司令部。こちら第12魔法少女部隊所属、小夜戸 菫です。現着しましたが、討伐対象が見当たりません。状況から野良の魔法少女が討伐したものと推察します。」

「また、被害者と思われる血痕はありましたが、遺体は無いようです」

「こちら司令部、判りました。しばらく哨戒を続け、問題無いようであれば残処理を後続部隊任せて撤収して下さい」

「了解」


 無駄足だったかと思う菫ではあったが、妙な違和感を感じていた...



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