死神とTS魔法少女
芳乃
妹
その知らせは突然だった。
渡された手紙は戦死公報だった。
俺の年の離れた妹、華は魔法少女だ。
今となっては珍しくなったが、以前は突如として姿を現す怪物が各地で被害を出していた。
そんな怪物を撃退するのが魔法少女だ。
怪物が出現しだした頃、魔法少女もまた各地で覚醒していた。
友達が襲われた、親が、ときっかけは様々だが怪物の前に不思議な力が覚醒した。
力あるものは魔法省、国の機関にスカウトされた。
華は国家公務員として働いていた魔法少女であった。
「そんな...」
先日言葉を交わした愛らしい妹の姿が目に浮かぶ。
「お兄ちゃん、出動要請の連絡が来たから行ってくるね。時間がかかりそうだから、しばらく帰れないかも」
「ああ、気を付けてな」
「わかってるよ。お兄ちゃん」
両親も早くに亡くなり、家族は妹だけだった。その妹も俺の前から居なくなってしまった。
「これで俺もひとりぼっちか...」
気がついたら引き籠もって1週間も経過していた。
何もする気が起きないが、どんなに悲しくても腹は減る。
「コンビニ...行くか...」
鉛のように重い体を引きずりコンビニへ向かう。
その帰路、随分と自宅が遠い錯覚を覚える。
「おかしいな...疲れているからか?」
2つ先の四つ角から重苦しい気配が感じられた。
「何だ?」
目を凝らすと漆黒に染まった狼型の輪郭が露わになる。魔物だ。
驚きのあまりコンビニ袋を落としてしまう。
その音に気づいた魔物がこちらを視認し襲いかかる迄に時間はかからなかった。
体が全く動かない。だが魔物は近づいてくる。
「俺の人生もここまでか。いや、妹のところに行けるのなら悪くないな」
その諦観にも似た表情でぼーっと魔物を見る。既に目の前まで迫っていた魔物はたやすく俺の体を突き飛ばした。
腹がぐちゃぐちゃにされ温かいものが流れていくのがわかる。そのくせ体は寒く感じるのだから不思議だ。
動かなくなった俺を食べようとしているのか、ゆっくりと狼型の魔物が近づいてくる。
俺の体に食いつこうとした瞬間――
「せいちゃんは殺させない!」
懐かしい声がした。
銀の髪に黒のワンピース、幼い頃そのままの姿で初恋の彼女が目の前に居た。
狼型の魔物は彼女が持っていた両手鎌で真っ二つになり消滅した。
それを確認した後、彼女は俺に近づいてきた。
「せいちゃん...大丈夫だから目を閉じて...」
「しいちゃん...」
既に体の自由を失った俺はもう彼女の名前を呟くしかできなかった。
彼女の顔が俺に近づいてきて、そのままキスをした――
その瞬間俺の視界は真っ白になった。
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